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2話 聞き分けの無い女神サマ 1
しおりを挟むジャッ、ガシュガシュ…
トーストに溶けかけたバターを伸ばす動作はそのままに、テーブルの向かいでカップに注がれたコンソメスープを、ゆっくりと嬉しそうに飲む彼女へ視線を向け話しかける。
「ティナ…」
オレの呼ぶ声音が少し低い事に気づいた彼女は、少し眉尻を下げながらコンソメスープから視線をこちらに向ける。
「…いい加減そろそろ転生しないと不味いんじゃないかな?」
ーーーーーーーーーー
初めてこの部屋で目覚めた時は、やっぱりかなり混乱した。
20代女性の部屋にしか見えない現実的な室内。窓の外は超絶美麗グラフィックのファンタジー世界。そしてこの場所に至る記憶の欠如。
部屋に入って来た女の子から、謝罪と共に知らされた自らの死亡。そして転生する事が出来るという魅力的だが未知の提案。
「気持ちが落ちつくまでは、ここでゆっくり過ごして下さい」
好意に甘えさせてもらう代わりに、オレは彼女の分も食事を作り、仕事の愚痴を聞いた。
突然【世界の大神の一柱】という、彼女の若さ(…年齢の話は深くは掘り下げなかった)では到底任されない役職に抜擢されてしまい、仕事の多さ・難しさに加え、同期からのやっかみと陰口に参っているらしい。
「…まぁでも、それも多分もうすぐ終わります。 まだ調べ始めたばかりで何も解ってはいませんが、あなたの件は明らかに私のミスでしょう。 降格は時間の問題ですよ」
彼女はオレがこれから転生する予定である【魔法文明世界 セイルマリル】の大神の一柱【時間と空間を司る女神 ディメンティーナ】
オレの死亡原因は、
【何故か地球とセイルマリルの間にあり得ない歪みが生じていて、脆くなっていたそこを偶然にオレが踏み抜いた事で次元の隙間に落下。通常の生物では耐えられない空間に入り即死した】という事らしい(記憶にないけど)
突然与えられた【大神】という強大な神力を調整しきれず、【時間】と【空間】という難しい権能を扱いきれなかった…と彼女は原因を推察しているが…
「ホントにそうかな?」
「え?」
オレは"このパターン"に聞き覚えがある。
「ディメンティーナ様」
「ティナって呼んで下さい。友達はそう呼びますし、迷惑かけた方に"様"付けで呼ばれるのは心苦しいです」
「じゃあティナ。確かここからでもセイルマリルの事、色々調べられるって言ってたよね?」
「はい。可能です」
彼女が部屋の白い壁にツィッと人差し指を向けると、何もない空間にPCのディスプレイのように見た事のない形の世界地図が突然現れる。
「空間の歪みを表示出来る?」
「はい」
彼女が指を動かすと、水の上にインクを垂らしたように、世界地図の各所に小さな赤い光点が表示されては、少し広がった後滲んで薄れるように消えていく。
「世界も生きていて、今表示されているような小さな歪みは常にどこかで発生し、また整えられて消えていくんです」
「これってリアルタイムの表示だよね?」
「そうです」
「時間止めて見れる?」
「出来ますよ」
彼女が指を動かすと、世界地図に小さなウインドウが現れ、そこに見たことのない文字が書き込まれていくと、地図上の赤点の動きが止まった。
「これで、どうするんですか?」
「…オレが空間の歪みに落ちた時、その前後の時間軸を表示してみて」
「えぇ?…は、はい」
「えぇ…な…なんなのこれ?」
そこには、先程までと比べ物にならない巨大な赤点が表示されていた。
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