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1話 朝チュン、そして回想へ

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【朝チュン】

 物語で"イイ雰囲気"になった恋人たちが、その後どうなったかについて生々しいシーンを省きつつ、マイルドに、でもしっかりと"何をシた"かを示す単語。

例を挙げるなら、

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
見つめ合う二人。
A男「B子ちゃん…愛してるよ」
B子「A男さん。私も愛してるわ」
ゆっくりとベッドへ倒れてゆく二人…。
~暗転~
 小鳥がさえずる爽やかな朝、おそらく真っ裸だけど、布団に隠れて胸の上辺りまでしか見えない状態で一つのベッドに横たわる二人。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 こんな感じだろうか?
 まぁハッキリ言えば"S○Xしちゃいました"なんだが、…何故、こんな事をボンヤリと考えているか、というと…


 今まさに、自分が作り上げてしまった眼前の光景が、その【朝チュン】だからだ。


 ただ、これは単なる普通の【朝チュン】じゃない。
 だって、今もオレの左脇辺りに頭を置き胸元に顔を寄せて、静かに眠り続けている彼女は比喩表現ではなく本物の… 



【女神サマ】なんだから…





ーーーーーーーーーー

…チュン、チ、チチチ、チュンチュン…



(昨日は完全に飲み過ぎた、…その割には、頭の痛みも気持ち悪さもないけど…ないけども…)


 寝っ転がった体勢のまま、彼女の方へ視線を向ける。
 朝日を浴びて煌めく藍色の髪は、コスプレのような人工的な違和感をまったく感じさせず、藍染めのような自然な色合いだ。


 まだ眠りは深いようだが、起こさないよう頭だけを逆にそっと傾ける。
 ベッドのすぐ側にある窓は、未だに見慣れる事の出来ないを景色をこれでもかと見せつけてくる。




 見える範囲全ての背景は青空、かなり下方に見える敷き詰められたような雲海、空中に浮かぶ小島、小島の上には見た事のあるような無いような動物達…




…オォーーン、クォーン…



 高音にも重低音にも聞こえる様な、何となく聞き覚えのある不思議な音に視線を彷徨わせると、かなり離れた空中を地球の【シロナガスクジラ】に似て非なる生き物が、巨体をゆっくりと上下にくねらせながら水の中のように泳いでいる。


(あぁ…テレビで、ホエールウォッチングとかの特集で聞いたクジラの鳴き声か)


 空飛ぶクジラ?が、体長の1/4位の長さはありそうな胸ビレを羽ばたかせ、こちらは普通のクジラと同じように見える尾ビレをゆっくりと何もない空間に打ち付けると、空中に波のような輝きが現れ弾けて粒になると、クジラの後方へ光のラインとなって流れてゆく。

「んぅ…」
 隣から小さな吐息が聞こえてくる。
 顔をそちらへ向けると、オレの胸元に顔を寄せて眠っていた彼女が、うっすらと目を開け始めていた。


「おはよ」
 少し絞った声量で声をかける。
 彼女はゆっくりとこちらへ顔を上げ、まだ半分ほどしか開いていない眠たげな瞳のまま、へにゃっとした笑顔を作った。

「おはよう。リルトさん」




【リルト】
 これは当然ながらオレの本名じゃない。 オレにはしっかりと、地球の日本で40年以上生きてきた記憶がある。
 しかし今オレの記憶の中には【自分の名前とそれに連なる記憶】そして【死んだ時の記憶】が無い。


 彼女が言うには、実際に記憶が消えている訳ではなく、これから転生するにあたり以前の名前や死亡時の記憶が、何らかの精神的な歪みを生む可能性がある為、意図的にマスクデータとなる処置を彼女が加えたらしい。


 まぁ確かに自分が死んだ時のシーンなんて、唐突に夢とかで再生されて嫌な汗かいて目が覚めるとか、そんな朝まったく必要ないしな。


 名前にしても、日本人の時の名前を覚えてるせいで変な愛着が湧いて、そのままカタカナ呼びにしてみたりとか、どう考えても地雷でしかないだろ。

 よくある異世界モノの物語でも、
「珍しい名前だね。…君はいったいどこの国から来たんだい?」
とか言われて詮索されて困ったり、
「その名前、転生者だと思ったよ」
とか言われて他の敵対的な転生者に見つかったりとか、悪いパターンには事欠かない。


 ちなみに【リルト】というのは、オレがこれから転生する予定の【ハーフエルフ】用に設定した名前で。
 実際の本名は【リーフゼルファルート】というエルフにたまにいる名前だが、略名をそのまま名乗っている。
 という細かい設定まである(笑)


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