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第8話 長谷川優希という人間(2)

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 海水を掛け合う水遊び、砂でお城を作る、ビーチバレー、ビーチボールでドッジボール、ビーチ・フラッグス、水着のお姉さんを眺める。
 高校生にしては海水浴で結構な種類を遊べていたんじゃないだろうか。
 当初の目的であるナンパが無理だったから『やることがなくなった……』と意気消沈していたが、遊び出したらおれたちは楽しくなっていた。

 そんな中、ライフセーバーが誰かと揉めているのを目撃した。
 どうやらライフセーバーは遊泳禁止エリアへ行こうとする親子連れを注意しているらしかった。
 父親と小学校低学年くらいの男の子が2人。
 父親らしい男がライフセーバーに怒鳴っているのを見て、『ああいう人たちって何処にでもいるよな。おれたちはああならないようにしような』と反面教師にしようと心に誓った。
 怒鳴られても引かないライフセーバーに、父親は子どもを連れて怒りながら海の家へ向かって行った。

『今日は天気が良いけど、波が高い』

 海の家で男性店員が教えてくれた情報を元に、遊泳禁止エリアへ行かないのは絶対だけどおれたちは海で泳ぐの自体を
やめようと話し合っていた。
 理由は、波が高いと溺れる確率が高くなるからだ。
 ナンパや海で泳ぐ以外でも海水浴は充分楽しめることを知ったおれたちの中で不満を抱く奴はいなかった。
 持参した浮き輪を膨らませていた友だちは残念そうにしてたけど、仕方ないと納得していた。


 それが崩れたのは……なんだったっけ?
 ちょっと此処からが曖昧だ。
 ………あぁ、そうだ。

 砂浜鬼ごっこをしてたら、遊泳禁止エリアへ向かっていく例の親子連れを見たんだ。
 もう一度ライフセーバーに注意してもらおうと思ったけど、移動したのかさっきまでいた場所にいなかった。
 放っておこうと意見が出たけど、発見しちゃったんだから危ないと声掛けくらいはしておこうとおれたちは後を追ったんだ。

 おれたちが例の親子連れに声を掛けると、分かっていたが父親に怒鳴られた。
 子ども2人は楽しそうに遊泳禁止エリアで遊んでいた。
 子ども2人に注意すると『うるせぇんだよ、ばーか!』と父親に似たのか子どもも口が悪かった。
 それでもめげずに海の家で言われたことを伝えて、要件が済んだおれたちは急いでその場から去った。
 親子連れに忠告はした。
 後は何かあったら、自己責任だと放っておいた。

 それから何分も経たない内に、遠くで叫び声が聞こえた。

 何事かと叫び声がした方を見ると、遊泳禁止エリアだった。
 目を凝らして観察すると、子ども2人が溺れていた。
 ライフセーバーを呼んで来ると走っていく友だち。
 空のペットボトルを持って海水を入れ始める友だち。
 おれ含めた残りは遊泳禁止エリアへ急いで向かう。
 おれは友だちの浮き輪を持って行った。

『声を出すなーっ!』
『今、助けが来るからなーっ!』
『息を吸えーっ! 息を出すなーっ!』

 子どもに聞こえているか分からないけど、おれたちは叫んだ。
 『掴まれ!』と海水の入ったペットボトルを子どもの近くに投げる友だち。
 自分の子どもが溺れている中、父親は呆然と見ているだけ。
 友だちが投げたペットボトルを子どもの一人は掴んで何とか浮くことが出来た。
 だけど、もう一人の子どもは沈んでしまった。
 呼んだはずのライフセーバーはまだ来ない。
 ダメだと分かっていたけど、見ていられなかった。

『ハセユウ!』
『優希!』

 浮き輪を持って、おれは遊泳禁止エリアに飛び込んだ。
 おれの父方の実家が漁師町で、おれは小さい頃から泳ぐのが得意だった。
 あぁ、特技はこれといって何もないと思ったけど、おれにも泳ぐという特技があったな。
 だけど、プールで泳ぐのと海で泳ぐのは違うから水泳部ではなかった。
 祖父母から嫌というほど海の怖さは教えられていた。
 溺れた人を発見した時の対処方法も教えてもらっていた。
 友だちも海水を入れたペットボトルを瞬時に用意して浮くものを作ったり実行していた。

 遊泳禁止エリアで溺れたのは、自業自得。
 だけどそれは大人に当てはまることで、子どもの場合は親がしっかり教えなければならなかったことだ。
 他人がいくらダメだと言っても親が良いと言ったら、子どもはやって良いと思ってしまう。
 ライフセーバーに注意されている父親を見ていても、父親がオッケーを出したから子どもは遊泳禁止エリアに入った。
 小学校低学年くらいなら分別はつくだろうと思ってはいけない。

 人間は溺れて沈んだら、自力で浮き上がることはほぼ不可能だ。
 それが子どもなら尚更。
 息を吸って肺が膨らんでいれば身体が浮くが、息を全て吐き出したら沈んでしまう。
 今思うと、無謀な行動だっただろう。
 『早く子どもを助けなきゃ!』という気持ちが先立って、おれは遊泳禁止エリアに飛び込んだんだ。
 飛び込む時に、手ぶらじゃなかったのは褒めて欲しい。

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