推しの双子の兄になったんだけど、破滅する悪役令嬢だからその役割を引き受けてハッピーエンドを目指します!

かがみゆえ

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第2話 往診

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 担架のようなものに乗せられ何処かの部屋に運ばれたおれはベッドの上に仰向けで寝かされ、白衣を着た男性から診察を受けた。
 『先生』と呼ばれていたから医者なんだろう。
 病院に行くのではなく、医者からこちらへやって来るのは珍しい。
 往診って産まれて初めて受けた。
 この男性が“医者”だと分かっても“白衣を着た男性”の認識でも間違いはないだろう。
 濡れた服は素早く脱がされて、ビックリした。
 拒否をする暇もなく着替えを終わらせたセバスチャンさんの行動は早かった。

「グッドマン先生。ノアさまは大丈夫なんですか?」

 診察が終わったのか、メイド服の女性が心配そうに医者へ声を掛ける。
 医者は“グッドマン”という名前らしい。

「セバスチャンさん、サラさん。ノアさまにお怪我はありません。脈も正常です。記憶については池に落ちたことによるショックで一時的なものだと思われます」
「そうですか」
「良かった……!」

 メイド服の女性は“サラ”という名前らしい。
 グッドマン先生の言葉に、安堵の表情を浮かべるセバスチャンさんとサラさん。

「安静にしていれば大丈夫ですよ。あぁ、ですが……」

 おれから少し離れて、話し始める3人。
 おれには聞かせられない話なんだろう。

(さっきは気付けなかったけど、よく見るとセバスチャンさんもサラさんもグッドマン先生も日本人の顔つきじゃないんだよな。どう見ても外国の人で、日本語が上手だ)

 今この部屋にはいないけど、池に落ちたおれを助けてくれた茶髪の少年の見た目も外国の人だったことを思い出す。

(おれは“ノア”って呼ばれてるし。ノアって人に勘違いされてるのか? マジで今、自分の置かれた状況が分かんないな。あぁ、でも、ノアってどう書くんだろ。片仮名? 平仮名? 漢字なら希望の空で“希空”とか?)

 そんなことを考えてしまう。
 おれはノアって名前じゃない。
 それはおれが一番よく分かっている。

「どうぞ」
「!」

 3人が会話していると、ドアをノックする音が聞こえてグッドマン先生が入室を許可した。

「ノア、大丈夫?」

 部屋に入って来たのは、さっきまで一緒にいた水色の髪をした子どもだった。

「グッドマン先生が診てくれました。大丈夫だとお墨付きを頂きましたよ」
「ほんと? 忙しいのに来てくれてありがとうございますっ、グッドマン先生!」

 グッドマン先生へお礼を言う子ども。
 4歳くらいなのに、すっごくしっかりした子だ。

「いえいえ。何かあれば、いつでも呼んでくださいね。ファフェイス家の方々にはいつもご贔屓にしていただき、感謝しておりますので」

 ……ファフェイス家の方々?
 ファフェイス?
 あれ……?

「ノア、ゆっくり休んでね」

 子どもがおれの手を握って、笑顔で話し掛けて来る。

「ノア……ファフェイス……」
「ノア?」

 ノア・ファフェイス。
 何処かで聞いたことがある名前だ。

「ノア、大丈夫?」
「ノアさま、ルイスさま、どうなさいました?」

 ルイス?
 新しく聞いた名前に何かを思い出しそうな気がして、子どもの顔を眺める。
 水色の髪に、緑の瞳。

「ルイス……ファフェイス……」
「うん? ぼくはルイス・ファフェイスだよ」
「ルイーザじゃなくて?」
「え?」
「え?」

 ルイーザ?
 今、ルイーザって言ったのはおれか?

「っ」

 そこで、おれはようやく重要なことに気付く。
 おれは今、どんな姿をしているんだろう?
 ノアと呼ばれてから、自分の顔を一度も見ていなかった。

「グッドマン先生っ。ノアさまの様子が……」
「んー? 時間差で何処か痛み出したかな?」

 セバスチャンさんと話していたグッドマン先生がおれに近付いて来る。

「鏡……」
「鏡?」
「鏡、ないですか?」

 おれは鏡を要求する。

「ノアさま、姿見でしたらあちらに」
「あっ、こら!」

 おれはベッドから降りて、サラさんが手で示す方向へ駆け出す。
 グッドマン先生が伸ばして来た手を避けて、姿見の前に立つ。

「あ……」

 そこには、灰色の髪に緑の目をした子どもが立っていた。
 ルイスと呼ばれた子どもと瓜二つで、違うのは髪の色だけだった。
 ペタペタと両手で顔を触る。

「う"……っ」
「ノア!」
「ノアさま!」

 顔に両掌の体温を感じて、今の自分の顔を認識した瞬間。
 色々な映像がおれの脳裏を過って、立ち続けることが出来なくなってしまった。
 両手で頭を抱えて、その場でうずくまる。

(水色なんて特徴的な髪の色をした子ども。ノアにルイス、そしてファフェイスって聞いてどうして気付かなかった!?)

 自分の鈍感さに頭が更に痛くなった。



 どうしよう。
 此処、おれが“プレイ”していた乙女ゲームの世界だ……。

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