推しの双子の兄になったんだけど、破滅する悪役令嬢だからその役割を引き受けてハッピーエンドを目指します!

かがみゆえ

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第1話 目覚めると

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 落ちていく。
 重力に逆らえず、ただただ落ちていく。
 徐々に深く暗い底へと沈んでいく。

 息が出来なくて苦しい。
 だけど身体は鉛のように重く、手を伸ばすことも踠くことも出来ない。

 ブクブクと上へ上がっていく気泡は、自分の口から吐き出された二酸化炭素だと分かってもどうすることも出来ない。

(………嗚呼、此処で人生終わりか)

 まだまだやりたいことがあって名残惜しいけど、仕方ない。
 最期に良いことをした。
 誰も褒めてくれなくても、自分で自分を褒めてあげよう。

(綺麗だ)

 差し込む光は白銀。
 そして、青色と水色の世界。
 視界は霞んでいるはずなのに不思議なもので、光の屈折とゆらゆらと揺らぐ水が相まって同じものにはならずに見えて、万華鏡のようだと思った。
 脳に酸素が行き渡らなくて、おれが見たのは幻影だったかもしれない。

 だけど、これがおれ・長谷川優希が見た最期の光景だった。




.




「―――…!」

 誰かの声がする。

「―――ア!」

 誰かがおれの肩を揺すっている。
 どうやら、おれを呼んでいるようだ。
 でも、それはおれの名前じゃない。
 呼ばれているのはおれじゃないはずなのに、その声に応えないといけない気がした。

「ノア!」

 ゆっくりと目を開くと、ぼんやりと水色が視界に入ってくる。
 徐々に視界が鮮明になってくると、おれの目の前に水色の髪をした4歳くらいの子どもがいた。
 地毛じゃあり得ない髪の色。
 何かのコスプレだろうか?
 顔を覗き込むようにおれを見ていて、おれと目が合うと子どもは安堵のような表情を浮かべた。

「良かった良かった! ノア、大丈夫?」

「………“ノア”?」

 ノア?
 ノアって誰だ?

「ノアってだれ……?」

 思ったことをそのまま口にすると、子どもが目を見開いた。
 綺麗な緑の瞳だった。

「ノアっ、自分が誰か分からないの?」

「君もだれ……?」

「え……」

 今度は子どもの顔から血の気が引く。
 表情が次から次に変わって、忙しい子だなと思った。

「セバスチャンっ、先生を呼んで!」

「既に手配しております」

 大人の声がして、そこで初めておれの周りには子ども以外にも人がいたことに気が付いた。
 燕尾服を着た白髪の初老の男性、メイド服を着た茶髪の若い女性。
 初老の男性は“セバスチャン”というらしい。
 子どもの発音的に“セバスチャン”で合ってると思うけど、もしかしたら“セバスちゃん”というあだ名かもしれない。
 自分の置かれた状況がよく分かっていないのに、人の観察が出来てることに我ながら呆れてしまう。

「……ハァー。勝手に池へ落ちて、記憶喪失とか止めてくださいよ」

「なんてこと言うんですか!」

 もう一人、おれと同い年くらいの茶髪の少年がいた。
 少年は面倒くさそうにため息をついていて、メイド服の女性に怒られていた。
 少年をよく見ると全身ずぶ濡れで、ポタポタと身体や髪から雫が落ちていた。

「ノア?」

 意識が少しずつはっきりして来て、おれも少年と同じく自分の服が濡れていることに気付く。
 どうりで身体は重いし、肌に濡れた衣服がくっついていて不快だと思った。

「ノアさま、動かないでくださいまし」

 起き上がろうとしたら、初老の男性……セバスチャンさんに止められてしまった。

「素人目ですが確認したところ、ノアさまに出血など目立った外傷はございません。しかし池に落下した際、頭部を何処かに打ち付けてしまった恐れがあります」

 確かに頭を打った場合、身体を動かすのは危険だよな。
 全身ずぶ濡れの少年とおれ。
 池に落ちたというおれ。
 この状況から言われなくても、分かってしまった。

「あの……」

「ん?」

 おれの視線に気付いて、少年がおれの顔を覗き込む。

「なんすか、ノアさま」

「助けてくれて、ありがとうございます……」

「!」

 池に落ちたおれを、少年が助けてくれた。
 まさか二人で衣服を着たまま池で水浴びをしたわけじゃないだろう。
 だから、少年へお礼を言った。
 お礼は言える時に言わないと後悔すると思ったからだ。

「え、ノア……?」

「ノアさま……?」

 なのに、子どもも少年もセバスチャンさんもメイド服の女性も、不思議そうな顔をしておれを見ているのは何故だろう?

「なんと! ノアさまがお礼を……」

「おいっ、セバスチャンさん! これかなり重症なんじゃないか!?」

「あぁっ、どうしましょう! 奥さまと旦那さまになんて報告したら……っ」

 少年へお礼を言っただけなのに、どうしてそんなに驚いたり慌てたりしているんだろう?

「うぐぅ……っ、ノアぁ……」

 子どもはおれの手を握って、泣いていた。

(あれ、この子何処かで……)

 その泣き顔を見て、おれは子どもに見覚えがあった。
 でも、すぐに思い出せない。
 それから、おれは担架のようなものに乗せられて何処かの部屋に運ばれるのだった。

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