【完結】暁のひかり

ななしま

文字の大きさ
上 下
67 / 68
青く光る ※

7

しおりを挟む
 シャワーを浴びている間、先生が朝食を作ってくれた。トーストに菜の花入りのオムレツとヨーグルトにシリアル、オレンジもむいてくれた。

 ダイニングテーブルにつくと、朝の光が入る窓辺はきらきら陽が差していて、そこだけもうすっかり初夏が訪れているみたいだった。

 窓の奥に広がる庭の景色から、ニコは目が離せないでいた。若葉が茂る庭園の端に、ひときわ目立つ花木があったから。

「先生、あれ、もしかして桃の花ですか」
   
   小学3年生くらいの背丈で、幹も枝も小ぶりだけど、びっしりと枝に花弁をつけている。重なり合った鮮やかな花色が目を引いた。

「赤と白の花が、一本の木から両方咲いてるでしょう。源平桃げんぺいももっていうんだ」
「源平って、源氏と平氏のこと?」
「正解」
「ずいぶん粋な呼び名ですね」

 大家さんの趣味で植えられたのだろうか。さっぱりした洋風の庭の中で、桃の花は楽園みたいに咲き誇っている。なんて華やかで魅力的なんだろう。

「お花見には最適な日だね。窓際で食べようか」

 先生はそう言って窓を開け放ってくれた。
 まるでピクニックみたいだとニコははしゃぎながら、お皿をトレーに乗せて何度も往復して運んだ。

 フローリングの床にあぐらをかいていた先生の隣に、ニコはちょこんと膝を立てて体操座りをした。ぎりぎりくっつかない程度の拳ひとつ分離れて。先生はそんな微妙な距離感など気づきもせずに話を続ける。

「よく見るとね、紅白の花だけじゃなくて、しぼり咲きも咲くんだ」
「じゃあ、白と赤と絞り咲きの三色咲くってこと?」

 赤と白が混ざり合う絞り咲きに、ピンクの花も咲くという。じゃあ四色かとも思ったけれど、花色を数えるなんて、それこそ粋じゃないなと考えるのをやめた。

 毎年、どんな花色がどれだけ咲くか分からない。紅でもない白でもない、曖昧な存在の僕たちみたいだと――ニコは頭の中で思い描いていた。

「きれいだね」

 ふっと手の平にあったかい感触が重ねられた。驚いて顔を隣に向けると、彼はとろけそうな笑顔を浮かべてニコを見つめている。

 ……そんな表情ずるい。
 ニコはぱたんと膝を倒して、先生と同じ目線になるまで背筋を伸ばした。目を閉じて顔を少しだけ斜めに向けば、先生の唇はもうすぐそこで。

   初夏の匂いが風に混じってふわりとかすめた。むせぶような甘みを帯びた花の蜜みたいな匂いだ。

「ん……っ」

 静けさに包まれた窓辺で、ちゅくちゅくと小鳥が水遊びするみたいな軽やかな音だけが響いた。舌先同士を絡ませ、互いの心を探るように這わせていく。

   ザラザラしたところもつるつるしてる箇所も、どこを攻めると感じるかも彼のことはもう全部知ってる。しだいに深くなる口づけに、先生のため息みたいな声が漏れた。

「ニコ……ん、ねぇこんなにキス、いつの間に上手くなったの」
「先生に、応えてるだけです」
「なんにも教えてないのに、怖いくらい優秀な生徒だね」
「先生に褒められたい一心ですから」

 唇を重ねるうちに、昨日のむせかえるような甘い記憶が胸によみがえってくる。熱っぽい欲情がじわじわお腹の中に溜まってくるんだ。

 こんなの我慢できない。
 先生の締まった太腿のあいだにおずおずと手をのばす。少しずつ奥へと滑らせていって、終着点にそっと触れると、先生があっと声にならない吐息を漏らす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

処理中です...