ビビりな兎はクールな狼の溺愛に気づかない

柊 うたさ

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第一章:いざ、王都!

【閑話】ウサギとネコ兄妹のクッキー作り①

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 熱を出してから定期的にもらうようになった休日。
 本日ネロはマローネの家にお邪魔している。

「今日は一緒にクッキー作ろ!」

 というビアンの提案の元、3人で仲良く生地を作る。
 今回はプレーンクッキー、ココアクッキー、ナッツクッキーの3種類を作る予定である。

 たまにこうしてマローネの家で行うお菓子作りは普段1人でするものよりとても楽しく、出来上がったお菓子もより美味しく感じてしまう不思議な時間だ。

 バター、砂糖…材料を次々混ぜていく。
 最初の頃のマローネは料理経験が少なく、慣れない作業で手こずっていたが今は手際がとても良い。
 3人それぞれ別のクッキーを作るので効率よく3種類作ることができる。

 ナッツクッキーは生地とナッツをざっくり混ぜオーブンに入れ、プレーンとココアの生地は材料を混ぜた後少しの間冷やすため、ここで一旦休憩する。

 そんな休憩でお年頃のビアンがとある話題を出してくる。

「そういえばネロちゃん、あのアルジェント様とお付き合いしてるんでしょー!」
「え゛…!」

 とてもキラキラとした笑顔を浮かべているビアンに対し、ネロの顔は引き攣る。
 隠したい、知られたくないというわけではないが急に振られた自分の恋愛話に戸惑ってしまう。
 
そして「な、なぜビアンが知っている…?」と困惑顔でマローネの方を見るも首を振られ諦めろという顔で返される。

「えぇ……」

 ちなみにマローネには以前迷惑をかけた(13話参照)ためアルジェントと付き合ってすぐ報告していた。故にマローネがビアンに話したと思ったのだがそういうわけではないようだ。ではなぜビアンが知っているのだろう…。マローネとティグレの他に誰にも言っていないはずなのだが。

 さらに困惑し首を傾げるネロに、ビアンは知っているのは当然だ!とでも言うような顔で衝撃の発言をする。

「王都にいるアルジェントさんのファンならみんな知ってると思うよ!何だっけ…雨の中抱き合ってお姫様抱っこしてたって、みんな噂してたよ!」
「な゛っ…」

 咄嗟に大きい声が出てしまう。

「ネロちゃんってか、アルジェントさまって意外と大胆なんだね~!アツアツ!」

 まさか過ぎる事実にネロは目を見開き固まる。

 どんなに人がいない中であっても王都である。どこで誰が見ているか分からない、
 迂闊だった…とネロはあの日の事を思い返す。

 雨夜の中、街灯に照らされキラキラと輝く白銀の髪。
 駆け寄ってきた際の荒い息、心配した表情。
 抱きしめられた時の体温と爽やかな香り。

 あの日のことを思い返しただけでなのに勝手に頬が熱くなってしまう。
 自分がヒロインにでもなったかのような、好きな人に助けてもらえた思い出の日。

 そんな恋人ができたばかりで一応浮かれているネロであったが、一瞬頭をよぎった”それ”により、即冷静かつ絶望する。

 そう、ネロはここで以前ビアンが話をしていた”氷の貴公子”の話が頭をよぎったのである。アルジェントには王都中にファンがいる。

 そりゃファンがいて当たり前だよね、と彼女の余裕とかでは全くなくネロは本心でそう思うのである。まずあの顔でファンがいないわけがない。いなければこの世のイケメンの基準がおかしい。

 だからファンがいて当たり前なのだ。そう、当たり前…。

 けれどもしかし、ファンならまだしもネロのように推しではなく1人の男性として憧れている人もいるはず。アルジェントの幼馴染みのように…。

 好きな人が別の誰かと幸せになるのが嫌な気持ちはネロも知っている。
 つまりアルジェントのことが好きな人からすればネロはとても邪魔な存在なわけで……、


「こ、殺される…!!」

 恋愛の嫉妬に狂った女が何をするかなんて決まっているだろう。
 そう、邪魔な相手を刺すのである。

 ネロはしっかり恋愛小説で履修済みである。
 未だに恋愛知識のアップデートがされていないネロはいつまでも偏った知識しかない。
 
 今度こそ恋愛小説のように刺されるんだ…とネロはガタガタと震え、顔面蒼白になる。
 しかしこの状況をネコの明るい笑い声で吹き飛ばす。

「ははっ!なーに言ってんの!ネロちゃんに何か悪さしようなんてそんな度胸のある人いるわけないじゃーん!」
「それはどういう…?」

 ネロがファンに刺されるわけがないと言うように笑いながら断言するビアンにネロは戸惑う。

 なぜならネロは平民で、美人でもなく、ただアルジェントと両想いになれた運の良い使用人というだけ。痛めつけるには最適だろう。

 何を根拠に…?と言う顔でビアンを見つめる。

「えーだって、ネロちゃんに悪さするってことはアルジェントさまを敵にするってことでしょー?」
「ま、まぁ…」

 ビアンの言う通り、確かに優しいアルジェントのことだ、ネロに何か異変があれば即対処するだろう。そうなれば敵になると考えるのも妥当である。

「いつだか、ネロちゃんにちょっかい掛けたって人…うーん誰だっけ、」
「あ、アルジェントさんの幼馴染みのこと…?」
「あー!そうそう!なんかその人をしばらく家から出れない状態にしたって聞いたよ~?」
「ええ!?」

 ネロの知らない事実を聞き、目が飛び出るほど驚く。

 アルジェントの話では「ちょっと話を聞いた」くらいの軽い感じであったため特に気にも留めていなかったが…。家から出られない状態とは何事だろう。

 …というかなぜネロが知らないことをビアンが知っている?アルジェントのファンは皆知っているのだろうか。
 
「あ、暴力ではないと思うけど!でもアルジェントさまって幼馴染みでも容赦ないってことでしょ?まぁ~…馬鹿じゃない限り誰もネロちゃんに手出ししないでしょ~」




 …何だか恐ろしい話を聞いてしまった気がするネロである。
 
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