ビビりな兎はクールな狼の溺愛に気づかない

柊 うたさ

文字の大きさ
10 / 32
第一章:いざ、王都!

10. ウサギとバレッタ

しおりを挟む

 雑貨屋の後、アルジェントの案内でネロは王都をゆっくり見て回った。

 大通りには様々な露店が立ち並び、劇場や人気レストラン等もあるようだ。

 さらに少し歩いた所に図書館もあるそうで。普段考えなしに行動して失敗しているネロにとってとても有力な情報である。

 また、遠目からアルジェントの職場も見ることができた。
 男性ばかりの職場らしい、チキンなネロはなるべく近づかないようにしようと心に決める。



「そろそろ疲れただろ、昼食にしよう」

 アルジェントに連れられて入ったオシャレなカフェは若い女性客で賑わっていた。
 女性達は何だかこちらをチラチラ見て黄色い声を上げているような気がする。

 「なんだ…?」と困惑するネロであったが、とりあえず案内された席に座り料理を注文する。オシャレなカフェに疎いネロはオススメらしいオムライスを頼んでみたのだが、卵がとてもふわふわで、付け合わせのニンジンはお花型になっている。見た目も可愛いらしい料理に、そりゃ女性客で賑わうよな…としみじみ思うのであった。

 ちなみに目の前のアルジェントは綺麗な所作でトマトパスタを食べている。

 暫く夢中でオムライスを咀嚼していたネロは、ふと村の友達が読んでいた恋愛小説を再び思い出す。

(……これはお互いの物を食べさせて合うやつだった…?)

 小説の中では最初の一口を食べさせ合っていたのだが…。
 目の前の半分減ったオムライスを確認し、次いでアルジェントのパスタもジーッと確認する。

 ネロは食べるのを忘れ、「デート=食べさせ合う」ということで頭がいっぱいになってしまう。

「……どうした?パスタ食べたいのか?」

 …普通にアルジェントがそう思うのも致し方ない。
 ずっとアルジェントのパスタを見ているのだ。側から見れば思いきりアルジェントのパスタを狙っている奴である。

「え!?いや、あ、ちが!こ、このオムライス美味しいなって、思って、ですね…」

 動揺し過ぎてネロは自分で何を言っているのか分かっていない。

「ほう、そうなのか。…じゃあ一口頂きたいな」
「えぇ!?」
「……ダメか?」

 まさか過ぎるアルジェントのお願いにネロは更に動揺する。
 しかしそんなことを言うアルジェントを見ると、綺麗に整えられた眉を下げ、少し悲しそうな表情をしている。

 「オムライスくらいでなぜそんな悲しそうなの…?」と思わないでもないが、その表情を見てネロはつくづく「イケメンってズルい…」と実感する。

 普段のアルジェントはクールで優しいのに、こういう時は少し強引で、
 加えてどことなく子どもっぽさが見え隠れする。そして構いたくなる可愛さがある。
 ギャップとはこのことである。

「う゛っ…、どうぞ…」

 アルジェントのギャップに負け、渋々オムライスのお皿をアルジェントの方に寄せるも、なぜか中々食べようとしない。「なぜ食べない…?」と不思議に思いネロは首を傾げる。

「…ネロが、食べさせてはくれないのか?」
「…!?」

 そしてネロはここで気づく。
 恋愛小説に出てきた”食べさせ合う”が純粋な食べ物をシェアするではなく、相手の口元に持っていく”あーん”であるということに。

「…あーんしろってことですか…?」
「…無理にとは言わないが」

 そう言い、ちらっと上目遣いでネロの顔を伺うアルジェントにネロは再び負けた。惨敗だった。



 ***

 あの後、しっかり「あーん」をさせられ、満足気なアルジェントと、
 周りの目が怖く冷や汗ダラダラでひたすらオムライスを食べるネロはいた。


 そうして食後の紅茶を飲んで一休み。

 窓から店の外を眺めると、カップル達が幸せそうに歩いていたり、
 ロバ獣人が楽器を弾き語りしていたり。

 王都にはじめて来た時は王都の人が皆冷たく見えていたのに、
 こうして余裕を持って周りを見ると王都にはたくさん笑顔が溢れていることに気づく。

 普段王都の警備をして街を見守っているアルジェントは
 こうしてネロに王都の良さを伝えたかったのかもしれない。

「今日はありがとうございました。お出掛け、楽しかったです!」

 こうしてアルジェントに連れ出してもらわなければ王都の良さに気づかなかったかもしれない。気づいたとしてももっと先になっていたことだろう。

「そう言ってもらえてよかった。今日のデートのお礼、受け取ってくれるか?」
「え…?」

 そうアルジェントから渡させた赤色の小包を開けると、中には先程見ていた琥珀色のバレッタが入っている。

「え、そんな、こんな素敵な物貰うなんて申し訳ないです!!」

 琥珀色のバレッタを手にしたネロは慌てる。

 なぜならネロは知っているのである、このバレッタの値段を。
 そしてネロは思う。イケメンにデートしてもらっているのだ、こちらがお金を払うべきなのでは、と。

 あわあわと慌てるネロに、アルジェントは優しく落ち着いた声で伝える。

「ネロに似合うと思って買ったんだ。是非使ってほしい」
「うっ…」

 渡す側にそう言われてしまうと断ることができないだろう。

「あ、ありがとうございます…」



 こうしてアルジェントの瞳の色によく似たバレッタをもらったネロは「値段の分使わないと!」と、ほぼ毎日結った黒髪に琥珀色のバレッタを付けることとなる。
 

 それを見たティグレがネロに対するアルジェントの独占欲のようなものを感じ、少し引いたりも…する。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

あざとさを捨てた令嬢は、若き公爵に溺愛される

古紫汐桜
恋愛
婚約者の裏切りを目撃し、命を落とした“私”が目を覚ましたのは、 見知らぬ貴族令嬢の身体の中だった。 そこは、誰かの悪意によって評判を地に落とした世界。 かつて“あざとさ”で生きていた彼女の代わりに、 私はその人生を引き受けることになる。 もう、首を揺らして媚びる生き方はしない。 そう決めた瞬間から、運命は静かに歪み始めた。 冷酷と噂される若公爵ユリエル。 彼もまた、自らの運命に抗い続けてきた男だった。 そんな彼が、私にだけ見せた執着と溺愛。 選び直した生き方の先で待っていたのは、 溺れるほどの愛だった。 あざとさを捨てた令嬢と、運命に翻弄される若公爵。 これは、“やり直し”では終わらない、致命的な恋の物語。

処理中です...