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第一章:いざ、王都!
10. ウサギとバレッタ
しおりを挟む雑貨屋の後、アルジェントの案内でネロは王都をゆっくり見て回った。
大通りには様々な露店が立ち並び、劇場や人気レストラン等もあるようだ。
さらに少し歩いた所に図書館もあるそうで。普段考えなしに行動して失敗しているネロにとってとても有力な情報である。
また、遠目からアルジェントの職場も見ることができた。
男性ばかりの職場らしい、チキンなネロはなるべく近づかないようにしようと心に決める。
「そろそろ疲れただろ、昼食にしよう」
アルジェントに連れられて入ったオシャレなカフェは若い女性客で賑わっていた。
女性達は何だかこちらをチラチラ見て黄色い声を上げているような気がする。
「なんだ…?」と困惑するネロであったが、とりあえず案内された席に座り料理を注文する。オシャレなカフェに疎いネロはオススメらしいオムライスを頼んでみたのだが、卵がとてもふわふわで、付け合わせのニンジンはお花型になっている。見た目も可愛いらしい料理に、そりゃ女性客で賑わうよな…としみじみ思うのであった。
ちなみに目の前のアルジェントは綺麗な所作でトマトパスタを食べている。
暫く夢中でオムライスを咀嚼していたネロは、ふと村の友達が読んでいた恋愛小説を再び思い出す。
(……これはお互いの物を食べさせて合うやつだった…?)
小説の中では最初の一口を食べさせ合っていたのだが…。
目の前の半分減ったオムライスを確認し、次いでアルジェントのパスタもジーッと確認する。
ネロは食べるのを忘れ、「デート=食べさせ合う」ということで頭がいっぱいになってしまう。
「……どうした?パスタ食べたいのか?」
…普通にアルジェントがそう思うのも致し方ない。
ずっとアルジェントのパスタを見ているのだ。側から見れば思いきりアルジェントのパスタを狙っている奴である。
「え!?いや、あ、ちが!こ、このオムライス美味しいなって、思って、ですね…」
動揺し過ぎてネロは自分で何を言っているのか分かっていない。
「ほう、そうなのか。…じゃあ一口頂きたいな」
「えぇ!?」
「……ダメか?」
まさか過ぎるアルジェントのお願いにネロは更に動揺する。
しかしそんなことを言うアルジェントを見ると、綺麗に整えられた眉を下げ、少し悲しそうな表情をしている。
「オムライスくらいでなぜそんな悲しそうなの…?」と思わないでもないが、その表情を見てネロはつくづく「イケメンってズルい…」と実感する。
普段のアルジェントはクールで優しいのに、こういう時は少し強引で、
加えてどことなく子どもっぽさが見え隠れする。そして構いたくなる可愛さがある。
ギャップとはこのことである。
「う゛っ…、どうぞ…」
アルジェントのギャップに負け、渋々オムライスのお皿をアルジェントの方に寄せるも、なぜか中々食べようとしない。「なぜ食べない…?」と不思議に思いネロは首を傾げる。
「…ネロが、食べさせてはくれないのか?」
「…!?」
そしてネロはここで気づく。
恋愛小説に出てきた”食べさせ合う”が純粋な食べ物をシェアするではなく、相手の口元に持っていく”あーん”であるということに。
「…あーんしろってことですか…?」
「…無理にとは言わないが」
そう言い、ちらっと上目遣いでネロの顔を伺うアルジェントにネロは再び負けた。惨敗だった。
***
あの後、しっかり「あーん」をさせられ、満足気なアルジェントと、
周りの目が怖く冷や汗ダラダラでひたすらオムライスを食べるネロはいた。
そうして食後の紅茶を飲んで一休み。
窓から店の外を眺めると、カップル達が幸せそうに歩いていたり、
ロバ獣人が楽器を弾き語りしていたり。
王都にはじめて来た時は王都の人が皆冷たく見えていたのに、
こうして余裕を持って周りを見ると王都にはたくさん笑顔が溢れていることに気づく。
普段王都の警備をして街を見守っているアルジェントは
こうしてネロに王都の良さを伝えたかったのかもしれない。
「今日はありがとうございました。お出掛け、楽しかったです!」
こうしてアルジェントに連れ出してもらわなければ王都の良さに気づかなかったかもしれない。気づいたとしてももっと先になっていたことだろう。
「そう言ってもらえてよかった。今日のデートのお礼、受け取ってくれるか?」
「え…?」
そうアルジェントから渡させた赤色の小包を開けると、中には先程見ていた琥珀色のバレッタが入っている。
「え、そんな、こんな素敵な物貰うなんて申し訳ないです!!」
琥珀色のバレッタを手にしたネロは慌てる。
なぜならネロは知っているのである、このバレッタの値段を。
そしてネロは思う。イケメンにデートしてもらっているのだ、こちらがお金を払うべきなのでは、と。
あわあわと慌てるネロに、アルジェントは優しく落ち着いた声で伝える。
「ネロに似合うと思って買ったんだ。是非使ってほしい」
「うっ…」
渡す側にそう言われてしまうと断ることができないだろう。
「あ、ありがとうございます…」
こうしてアルジェントの瞳の色によく似たバレッタをもらったネロは「値段の分使わないと!」と、ほぼ毎日結った黒髪に琥珀色のバレッタを付けることとなる。
それを見たティグレがネロに対するアルジェントの独占欲のようなものを感じ、少し引いたりも…する。
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