ビビりな兎はクールな狼の溺愛に気づかない

柊 うたさ

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第一章:いざ、王都!

8. ウサギ、友達ができる

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 さて、王都。

 …ネロは忘れていたのだ。
 自分がいかに地図が読めないかを。
 加えて軍手や麦わら帽子がどこに売っているか知らないということを。

 なぜ事前に聞くなり調べるなりしなかったのかという話なのだが、こういうところが実にネロらしい。爪が甘いというか…。チキンならチキンらしくもっと慎重に行動をするべきである。


 迷子になった日以来の王都であるが、以前アルジェントに「流れに身を任せて進んだ方が楽に歩ける」と教えられたのでとりあえず身を任せてみた。

そして着いたのがオシャレなカフェ、解せない。

 仕方ないので適当にトボトボ歩いてみるとふと、遠くに野菜を売っている店を発見する。

(これだ!!!)

 全くもって軍手と麦わら帽子を売っているようには見えないのだが、
「野菜=畑、つまりは軍手と麦わら帽子!」という謎の式を展開させたネロは早歩きで野菜売りに近づく。

 店頭には若い男性のネコ獣人がいた。
 一瞬トラ獣人かと思いビビったネロだがよく見ると茶トラ猫だ。
 
 これでも毎日オオカミとトラを見て生活している。少しは耐性がついた。
 まぁ驚きはするのだが。

「いらっしゃい!!今日はアスパラがいっぱい入荷してるよー!」

 人懐っこそうな笑顔でネコ獣人が声をかけてくる。
 なんだか煌びやかな王都に似つかない…というか、ネロがいた村の人達に雰囲気が似ていて少し安心する。

 アスパラか…いいな、とそっちに考えがいってしまったが、すぐに目的を思い出す。あぶない、あぶない…。

「あ、あの!」
「はーい!なんでしょう!」
「軍手と麦わら帽子が欲しいんです…どこに行ったら買えますか…?」
「軍手…帽子…?」

 ネロの言葉にとても驚いた顔をする目の前のネコ獣人にネロも驚く。というか後悔する。普通に考えて野菜売りに軍手と麦わらを聞く奴はまずいないだろう。
 
(やばい間違えた…!絶対変な奴だと思われた…!)

 まぁ変な人ではある。
 突然軍手と麦わら帽子を求めてやって来たウサギを前にネコは何だか考え込むような素振りを始める。

「お姉さん、畑仕事でもするの~?うちの妹が使ってたお古があるからそれでいいならあげるよ!」

 ネロはオーバーオールのまま王都に来てしまったので、すぐに畑仕事だと分かったのだろう、ニコニコとした笑顔でそんな提案をされネロはとても驚く。

「えっ?!」

 …なんとも神のようなネコ獣人の発言に飛びつきそうになったのだが、しかしネロは一瞬で冷静になった。
 
 ここは王都である。
 はじめて会った人にこんな親切に接するか…?と、
 何か裏があるのでは……と勘繰った。

(軍手と麦わら帽子を引き換えに店の野菜を全部買えとか?!)

 今度こそカモにされるんだ…とビビり散らしたネロに、ネコ獣人はある条件を持ち掛ける。

「俺、最近親が王都で野菜売るって言うからこうしてついて来たんけどさ~……」

 …話を聞くところ、つまり「田舎から出てきて心細いから妹含め仲良くしてくれたら軍手と麦わら帽子をあげる」ということらしい。

 何という提案…と思うだろうが、おそらくネロから田舎者感が出ていたのだろう。王都に染まっていない同士仲良くしようという、つまりシンパシーである。

 ネロもネロで、友達のいない王都でやはり少し心細かったため、

「…その話、乗ります!!乗らせてくださいお願いします!!」

 と、つい力強く前のめりで叫んでしまった。シンパシーだ。



 こうしてネコ獣人のマローネと友達になり、後日「初心者が種から育てるのは難しいと思って…」と野菜の苗をもらったり、マローネの妹と仲良く遊んだりするのだが…もう少し先のお話である。


 ちなみに家に帰ったアルジェントが、軍手と麦わら帽子を手に入れたネロを見て少しガッカリ…したりしなかったり…。
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