13 / 13
13.烏滸がましさと胸の痛み
しおりを挟む最初見た時は無理矢理そうされているのかと思った。
けれども、よく見ると間宮が一方的にされているわけではなさそうで。嫌がる素振りもなくて。
おそらく同意の元でされているであろうその行為に、サッと体温が下がるのを感じる。ドクン、ドクンとやけに大きな心臓の音がして、走ったわけでもないのに息が荒くなり、手先が冷えていく。暖房のない廊下は寒いはずなのに、なぜか汗が背中を伝って行く。
なんで。なんだ。
どうしてキスをしているんだ。
状況が上手く飲み込めず何が何だか分からないのに、けれどもこれは見てはいけないものだと、脳が危険信号を出す。
早くここから立ち離れなければ。
そう頭では分かっているのに。それなのにその意志とは反して足が思うように動かない。そこに接着剤でくっついてしまったかのように、立ち尽くしてしまう。
間宮の制服を掴む男子生徒の手、真っ赤に染まった頬。
この距離であっても間宮に惚れていることが見て分かる。
苦しい、痛い。
息が上手く吸えない。
手紙で呼び出しているのだ、間宮に対して好意があるのは当然と言えば当然で。それでも脳が上手く働かない。分からない、分かりたくない。
男子生徒に告白される間宮。
男子生徒と口づけを交わす間宮。
今更同性同士の恋愛に偏見もない。
間宮が俺を好いてくれたように、間宮が他の男子に好かれてもおかしくない。
おかしくはない、それなのに、なぜか俺は今まで間宮に告白するのは女子だけだ思っていたんだろう。今回の告白も女子なのだろうと、なぜかそう思っていた。
女子なら間宮の眼中に入らないと、心のどこかで思っていたのだろうか。
女子なら、敵ではないのだと。何も起こらないだろうと。
俺のことが好きなのだから、と。
目の前で間宮と口づけを交わす可愛らしい男子。
間宮は背を向けているのでどんな表情をしているか分からない。
けれど、その男子の赤く色づいた頬に、優しく手を添えているのが見える。
手を、優しく添えている
それを見ていると、なんだかよく分からない感情が渦を巻いて。
それがドロドロと俺を支配していくような、そんな感覚に陥って。
なぜ、その男子とキスをしているんだ。
俺のことを好きだと言ったくせに。
なぜ彼とのキスを受け入れ、挙句彼の頬に手を添えているんだ。
そいつを好きにでもなった?
告白されて揺らいでしまった?
俺のことはもうどうでも良くなった?
最近そーゆー触れ合いをしていないから、欲求不満にでもなった?
……それとも、俺が曖昧な態度を取るせいで、誰でも良くなった?
どす黒く膨らんでいく何かを抑えるように、力一杯手を握り唇を噛み締める。
間宮が唇を、身体を許すのは俺だけだと、どこかで思っていた。
俺のことが好きなのだから、当然そうなのだと、思っていた。
烏滸がましいことに、こんな俺が。
どうせこのままの関係でいても、きっと間宮ならずっと好いてくれるだろうと。一生なんてないと、どこかで諦めていたはずのなのに。それなのに、どうせ俺が離れようとしても泣いて縋って来るのだろうと。間宮ならそうだろうと。
この俺が、思っていた。
なんて、烏滸がましいんだ。
実際はどうだ。
告白を受け入れたのか、断ったのか分からない。けれども密着して口づけをしているではないか。
そして俺ではない未来もあるのだと言わんばかりに、こんな俺を嘲笑うかのように。2人の姿は夕日に照らされ、とても綺麗に輝いていて。
ゆっくりと離れる2人。
見つめ合う2人が、悔しいくらいにお似合いに見える。
きっとキスをしていた時間なんて数秒なのに。
けれどもその数秒が、俺にとってはとても長く、長く感じられて。
邪魔なのは俺だったのではと思ってしまうほど、そのキスがドラマのワンシーンのようで。
綺麗で、本当に綺麗で、2人が綺麗だと思えば思うほど自分が汚く見える。
俺はそんな2人に見つからないよう、上手く動かない足を無理矢理動かし急いで教室に戻る。机の横にかけられたクリスマスに間宮とお揃いで買ったリュックを慌ただしく背負い、間宮が戻って来ないうちに、鉢合わせないようにバタバタと教室を出る。
間宮と一緒に帰ろうとしていたことも忘れ、ただ無我夢中で足を動かす。
早くあの場から、少しでも離れたい。1人になりたい。
帰路に着く俺の頬を冬の冷えた空気がさらりと撫でる。
「マフラー、忘れた…」
そこでやっと、いつも外でしている青いマフラーを教室に忘れたことに気がつく。慌てて学校を出て来たため全く気づかなかった。寒い、寒いけれど、それでも取りに戻る気にはなれない。
いつもより寒さを感じる首元が、今の俺にはちょうど良く感じる。
俺の思考を、この寒さで冷静にさせて欲しい。
抑えきれないこのどす黒い感情を、
滅多刺しにされたように痛むこの胸の感覚を、
全てこの寒さで無かったことにして欲しい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
51
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
お読みいただきありがとうございます‼︎
間宮のちょっとそれはどうなの?行動や、2人のこれからに色々思うところがあると思いますが、、、今後の展開が少しでも満足していただけるよう頑張ります〜‼︎
ご感想ありがとうございました♪
12.13で一気に何とも言えない気持ちと、!?!?嘘でしょ!?!?って気持ちで胸がギュンってなりました、、うぅッ早く幸せになってぇぇって願いながら続き楽しみにしてます、、🥲
お読みいただきありがとうございます!!
急展開過ぎるかと少し不安だったので、そう言っていただけるととっても…嬉しいです⟡.·
今後も是非読んでいただけると幸いです!!