没落寸前貴族と赤毛の猫

くらげ

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行動あるのみ

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その日の夜、リアムはアデリアの部屋に向かった。姉が犠牲になることはない、今からでも両親を説得してなんとか解決策を考えようと。


老朽化した屋敷の廊下は時折キッ、キッ、と歩みと共に音を鳴らす。隙間風も肌に感じる。もうすぐ春が来るというのに、この屋敷は真冬の空気より冷たい。


アデリアの部屋は明かりが漏れており、まだ姉がとこについてないことがわかった。ノックをしようと近付く。


「うっ……、グスッ」


隙間から漏れる呻き声に、リアムの手が止まる。姉の鳴き声だ。家族に聞こえないように押し殺したその声に、リアムの胸がぎゅっと締め付けられる。小さい時から優しくしてくれた姉。お腹が空いたといえばパンを分けてくれ、眠れないと部屋に行けばいつも迎え入れてくれた。


自分だって心細い日があっただろうに、いつも頼ってばっかりだった。そんな姉が、悪名高い貴族に嫁入りするなんて許せない。


リアムは頬に伝った涙をぐいっと拭くと、気づかれないように自室へ戻った。




朝の冷気が頬を撫でる。自分の持っている一番暖かい上着とためていた僅かなお金、家にあった乾燥したパンを詰め込んだ鞄を背負い、リアムは朝日に照らされた道を歩いていた。


俺が今まで頼ってきた分、姉さんに恩返しをしなければ。俺ができることは、王都に行って噂が本当か確かめること。そして、失脚させることだ。貴族は名声がその命を繋ぐ。きっと、何かできることがあるはずだ。


18年間生きてきて、王都へはほとんど行ったことがない。しかし、王都へ向かう行商人に頼ればなんとか行き着くことができるとリアムは考えていた。


とにかく、行動するしかない。崖っぷち没落寸前貴族の息子にできることはそれしかないんだから。




三日後、リアムはなんとか王都にたどり着いた。行商人から行商人へ同行し、時にはお金も渡し野宿も厭わずできる限りのスピードで歩んでいた。王都へは行商人一行として紛れ込んだ。今のところ順調。


王都へ入る門をくぐれば、あっという間に人に流され露天街へ。こういうところで挙動不審だとまずスリなんかの餌食にされると昔聞いたことがある。荷物を抱えてそれとなく人混みに紛れ込んだ。


情報が集まり流れていくのはどこだろうか。やっぱりお酒が入ると口が緩くなるから居酒屋、それか女性が春を売る場所……そこまで考えてリアムはブンブンを首を振る。女性経験ゼロな自分が行ってもぼったくられるに違いない。


「酒場、探そう」



王都の酒場は昼間でも構わず人が多く、賑やかだ。テーブルもカウンターもびっちり埋まっている。なんとか端っこの席を確保し、周りと同じものを注文した。


「にいちゃん、若いのにこんなところに入り浸るなんてよくねぇなぁ」


すでに酔いの回った男達がリアムに絡んでくる。


「若ぇもんは必死こいて働けよ!?なぁ!!」


バシンと背中を叩かれ飲んでいた酒を吹き出す。ゲホゲホと咳き込むとそれを見て男たちはゲラゲラと笑った。


「おじさん、聞きたいことがあるんだけど!」


周りの喧騒にかき消されないように声を張る。


「なんだぁ?女はそこらへんの立ちんぼはやめとけよ!」


「俺、王都に出稼ぎに来た姉さん探してるんだけど、そういう人を探してくれる場所ないかな!」


「探しもんなら獣人街の何でも屋が一番だな、なぁ?」


「獣クセェがあいつらは仕事早いな、たけぇがな!」


「獣人って…あの獣人?」


「それ以外に何があるってんだよう、耳と尻尾が生えた人間さな!」


噂には聞いたことがある。王都にはさまざまな人種がいるが、特に異端とされているのが獣と人間の姿をした獣人だと。彼らは基本的に獣人だけのコミュニティを持ち、王都の深いところまで関わりを持っている。噂話だと思っていたが、まさか本当に存在するとは。


獣人街の何でも屋、そこに頼ればきっと何か情報が得られるはずだ。残っていた酒を飲み干し、リアムは僅かな情報を頼りに獣人街へ向かった。



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