【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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【外伝】貴方にとっては誤算でも俺たちにとっては正に僥倖

trettiotvå

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 ー実は今日、君たち三人に大切な話がある。

 いつになく真剣な表情で篤臣から告げられた俺たちは顔を見合わせた。帰宅したら珍しく篤臣がいて、父さんや母さん、ひいばあちゃんまで揃ってた。

 閉店したCarmのテーブル席に三人で腰掛けた俺たちは、なんとなく落ち着かなかった。首筋がざわり、と逆立つ。隣のテーブル席に座る篤臣を三人で見つめた。

「君たちのクシュダートに赴任してきたカウンセラーだけど。十三年前された淼矢 梨李本人だと分かった。」
「……拉致?」
 物騒な単語に、俺が聞き返すと篤臣が頷く。

「当時6歳だった彼女は原因不明の症状に悩まされていた。暫定的にと呼ばれていて、両親や祖父母は彼女を極力外には出さず、手を尽くして治療法を探っていたらしい。」
「初めて聞く病名です。」
 擁が返すと篤臣が続ける。

「そうとしか表現出来なかったんだ。なんせ症例がなかった。症状は血縁関係のない異性のみ、匂いでヒートを誘発する。それも制御不能だった。」
「……それって大変だよね。」
 遵がぼそりと呟いた。

 6歳の少女がある日突然、フェロモンを過剰に放出するようになる。本人の意思ではないので制御も出来ない。当てられた異性から、一体どんな目に遭わされるのか。

「治療法を探す中、彼女の両親は事故に遭った。乗っていた車が炎上したんだ。二人の遺体は見つかったが同乗していた一人娘、淼矢 梨李の遺体は見つからなかった。それで当時、彼女は行方不明扱いになっている。10歳だった。」
「さっき、拉致って言ったよな?」
「ああ。十三年後、突如彼女の名を名乗る人物が君たちのクシュダートへ赴任してきた。フィンレーや深沢と調べていたら伯父が自分たちの血縁者ではないかと言い出してね。結果は当たりだった。その過程で拉致されていたことも分かったんだ。」
「伯父って、もしかして。彪束家の?」
「淼矢さんは彪束家の血縁者だったんですか?」
「……あのカウンセラーが?」
「正確には彪束家に嫁した父方の祖母の実家だ。」

 そこまで話すと篤臣がテーブルに置いてあった紙束を手に掴み、俺たちの前に置いた。

「今話したことを踏まえた上で、読んでみてくれ。」

 三人で渡された資料らしきものに目を通す。

 まず、混乱した。同じ箇所を何度も読み返す。擁も遵も同じだった。ここに書かれていることが本当なら。いや、分かる。三人とも感じてる。淼矢 梨李は俺たちの番だ。だから、ほっとけなかった。近寄りたくないと言いつつ、シュラハトの時も保健室の時も、身体が反応していた。相反する感情と身体の動きに俺たち自身戸惑っていた。

「俺たちが産まれた時に、フェロモンの過剰放出が始まったのか?」
「ああ。確認した。彼女に最初の症状が現れた日は、君たちが産まれた日だ。」
「染色体の変異って。そんなことを?そんな酷いことをされたんですか?」
「ああ。だから成人女性でありながら、見た目は男性に見えるような身体つきだったんだ。薬の副作用で髪だけだが変色している。元々は薄い金髪、種のアムールヒョウでも珍しい色だが。今現在は桃色だ。まず、見かけない色だな。」
「……匂いが、しなくなるって。」
「そのせいで、君たちは見つけられなかった。」

 それだけじゃない。ここに書いてある。不快感や嫌悪感を持つと。確かにそうだった。初めて見たタブレット越しの一方的な邂逅でも、俺たちはそう感じた。生理的に拒絶した。これが染色体を変異させられた番だからこそ起こったことならば。

 唯一の伴侶を。ずっと探してた運命の相手を。

 俺たちが生まれた日から、ここにいると。伝えてくれていた番を。

 俺たち三人ともが拒絶して、気付かなかったことになる。

「今、どこにいるんだ?」
「彼女はクシュダートを休んでいます。」
「……家かな。」
 縋るように篤臣を見ると、会ってから初めて微笑んだ。

「保護しているよ。彼女からも話は聞き出してる。拉致された時から今日まで。何があったのか。」
「聞かせてくれ。」
「お願いします。」
「……聞きたい。」
「分かった。ただ、かなり気分の悪い話だ。」

 そう言って前置きした篤臣が語り出した淼矢 梨李の十三年間は俺たちにとって耐え難いものだった。

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