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【外伝】貴方にとっては誤算でも俺たちにとっては正に僥倖
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8歳を過ぎた頃、父さんと母さんに俺たちの能力について話をすると言われた。
俺たちは並んで両親と向き合い、現実を知ることになった。
本来、共感とは双子や俺たちのような三つ子の間に生まれることが多い能力で、昔はそれなりに保有者がいたと言う。しかし時代と共にその数は減っていった。大きな理由として挙げられるのは種が違うもの同士とのゲレンク-パラだった。
共感能力の保有者が生まれる可能性が高くなる要因は二つあると言われている。一つ目は同種であるパートナーとの間に生まれること。つまり純血種に近ければ近いほど可能性が高くなると言われている。つまり何世代も続けば尚いい。正に深沢家がそうだった。ひいじいちゃんとひいばあちゃんから、ずっと狼同士でゲレンク-パラが続いている。
二つ目は番同士であること。古来より運命の相手とされる番は現代で巡り逢うことはなかなかないと言われている。人口の増加や種の多様性が挙げられる昨今、番という名称は一生涯他に愛するものは作らないと言う意味で使われていることが多い。本来の番とは、本能で唯一愛情と性衝動が沸く相手であり、そのため他者とは添い遂げることは不可能と言う意味だった。
狼は種として唯一の番しか持たない。生まれた時から自分に番がいるのかいないのか、本能で分かると言われている。だから番がいれば、その人しかパートナーにはしない。いなければ、血を繋ぐ為に他のパートナーを見つけるか、もしくは家を出て一生涯一人で生きる。そう言う種だ。ひいじいちゃんからずっと、深沢は狼の番をパートナーにしている。必然的に純血種の世代が続いていた。
加えて狼は多産な傾向にある。双子が生まれる確率が高い。実際父さんの母親で俺たちの、ばあちゃんはウルちゃんの母親とは双子だ。
「つまり、まぁ積もり積もってお前らに能力が出ちまった感じだな。」
父さんが、あっけらかんと言う。まぁ、生まれついてのものだし、後発で身につけたものでもないわけだから。どうしようもない。別に能力があって困ったことはないし。
「でだ。おめぇらに聞いときたいんだが。番はどうだ?いるか?」
「分からない。」
「はっきりとしません。」
「……もやっとする。」
俺たちに番はいるのか。いるような気がする。いつからか意識するより前に、存在は感じていた。だけど、何処にいるのかはっきりしない。唯一の番だ。居場所が分かるとまでは言わないが、方角なり掴めるはずなのに。それがない。だったらやっぱりいないのかと言うと。それはない、いる、と思う。そんな曖昧な感覚だった。
「三人ともか。」
「どう言うことかしら……。」
「わかんねぇなぁ。」
両親が首を捻る。俺たちも捻った。
父さんと母さんは、すごく仲が良い。生まれた時からお互い番がいると既に認識していたと言う。物心ついた時にはお互い探し合って巡り逢ったらしい。羨ましい。そんな相手、いるなら早く逢ってみたい。
「番はまぁ。その時が来たら、わかんだろ。それよりも注意しとかねぇといけねぇ奴らがいる。」
テーブルに身を乗り出し、肩肘をつくと父さんが言った。
「そいつらは表向き、世界各国の高名な医師たちだ。だが裏では自分たちを崇高なる教えに導く者と呼んで違法な活動をしている。保有者を見つけ出したら密かに捕らえて人体実験するようなサイコヤローだ。奴らが作ったペーパーカンパニーがディストリクトにある。 verrücktっつう研究所だ。」
「ヴェルュクに対抗する研究機関もあるのよ。」
母さんが後を続ける。そんなところがあるのかと三人で続きを待った。
「 unermüdlicher、"失われた能力"を調査する医療研究機関よ。リージョンのグウェイン家から支援を受けて運営しているの。濫たちも、お世話になってるところよ。」
「俺たちが?」
「もしかして、毎年検査してるのは。」
「……そこ?」
「そう。」
「つまり、だ。お前たちの能力についてネアリチュアは知ってるが、ゲヘリングは知らねぇ。このまま知られないに越したことはない。だから能力を使うのは非常時だけにしろ、いいな?普段は三人だけでも今まで通り、ちゃんと口に出して話せ。共感で楽すんな。分かったな?」
「分かった……。」
「分かりました。」
「……うん。」
こくりと頷く。別に隠れて生きていけとか一生研究対象として生きろとか。制約を受けたわけじゃない。毎年定期検診受けるのは別におかしなことでもないし、家族だけしか知らない秘密が出来たってだけだ。そんなのどこの家にだって一つや二つあるだろ?
(〈別に重く考えなくてもいいよな。〉)
([そうですね、今まで通りです。])
(〔……困らない。〕)
「いったそばから使うな!」
三人とも、ぺしんと頭をはたかれる。
「なんで分かったんだよ。」
ぶんむくれて父さんを見上げる。擁と遵は無言で、じっとり見上げた。
「わからいでか。」
「三人とも、本当に気を付けてね?」
心配そうな母さんを見ると、ちょっと気まずい。
「分かった。」
「分かりました。」
「……うん。」
三者三様頷いて、その時の話は終わった。
俺たちは並んで両親と向き合い、現実を知ることになった。
本来、共感とは双子や俺たちのような三つ子の間に生まれることが多い能力で、昔はそれなりに保有者がいたと言う。しかし時代と共にその数は減っていった。大きな理由として挙げられるのは種が違うもの同士とのゲレンク-パラだった。
共感能力の保有者が生まれる可能性が高くなる要因は二つあると言われている。一つ目は同種であるパートナーとの間に生まれること。つまり純血種に近ければ近いほど可能性が高くなると言われている。つまり何世代も続けば尚いい。正に深沢家がそうだった。ひいじいちゃんとひいばあちゃんから、ずっと狼同士でゲレンク-パラが続いている。
二つ目は番同士であること。古来より運命の相手とされる番は現代で巡り逢うことはなかなかないと言われている。人口の増加や種の多様性が挙げられる昨今、番という名称は一生涯他に愛するものは作らないと言う意味で使われていることが多い。本来の番とは、本能で唯一愛情と性衝動が沸く相手であり、そのため他者とは添い遂げることは不可能と言う意味だった。
狼は種として唯一の番しか持たない。生まれた時から自分に番がいるのかいないのか、本能で分かると言われている。だから番がいれば、その人しかパートナーにはしない。いなければ、血を繋ぐ為に他のパートナーを見つけるか、もしくは家を出て一生涯一人で生きる。そう言う種だ。ひいじいちゃんからずっと、深沢は狼の番をパートナーにしている。必然的に純血種の世代が続いていた。
加えて狼は多産な傾向にある。双子が生まれる確率が高い。実際父さんの母親で俺たちの、ばあちゃんはウルちゃんの母親とは双子だ。
「つまり、まぁ積もり積もってお前らに能力が出ちまった感じだな。」
父さんが、あっけらかんと言う。まぁ、生まれついてのものだし、後発で身につけたものでもないわけだから。どうしようもない。別に能力があって困ったことはないし。
「でだ。おめぇらに聞いときたいんだが。番はどうだ?いるか?」
「分からない。」
「はっきりとしません。」
「……もやっとする。」
俺たちに番はいるのか。いるような気がする。いつからか意識するより前に、存在は感じていた。だけど、何処にいるのかはっきりしない。唯一の番だ。居場所が分かるとまでは言わないが、方角なり掴めるはずなのに。それがない。だったらやっぱりいないのかと言うと。それはない、いる、と思う。そんな曖昧な感覚だった。
「三人ともか。」
「どう言うことかしら……。」
「わかんねぇなぁ。」
両親が首を捻る。俺たちも捻った。
父さんと母さんは、すごく仲が良い。生まれた時からお互い番がいると既に認識していたと言う。物心ついた時にはお互い探し合って巡り逢ったらしい。羨ましい。そんな相手、いるなら早く逢ってみたい。
「番はまぁ。その時が来たら、わかんだろ。それよりも注意しとかねぇといけねぇ奴らがいる。」
テーブルに身を乗り出し、肩肘をつくと父さんが言った。
「そいつらは表向き、世界各国の高名な医師たちだ。だが裏では自分たちを崇高なる教えに導く者と呼んで違法な活動をしている。保有者を見つけ出したら密かに捕らえて人体実験するようなサイコヤローだ。奴らが作ったペーパーカンパニーがディストリクトにある。 verrücktっつう研究所だ。」
「ヴェルュクに対抗する研究機関もあるのよ。」
母さんが後を続ける。そんなところがあるのかと三人で続きを待った。
「 unermüdlicher、"失われた能力"を調査する医療研究機関よ。リージョンのグウェイン家から支援を受けて運営しているの。濫たちも、お世話になってるところよ。」
「俺たちが?」
「もしかして、毎年検査してるのは。」
「……そこ?」
「そう。」
「つまり、だ。お前たちの能力についてネアリチュアは知ってるが、ゲヘリングは知らねぇ。このまま知られないに越したことはない。だから能力を使うのは非常時だけにしろ、いいな?普段は三人だけでも今まで通り、ちゃんと口に出して話せ。共感で楽すんな。分かったな?」
「分かった……。」
「分かりました。」
「……うん。」
こくりと頷く。別に隠れて生きていけとか一生研究対象として生きろとか。制約を受けたわけじゃない。毎年定期検診受けるのは別におかしなことでもないし、家族だけしか知らない秘密が出来たってだけだ。そんなのどこの家にだって一つや二つあるだろ?
(〈別に重く考えなくてもいいよな。〉)
([そうですね、今まで通りです。])
(〔……困らない。〕)
「いったそばから使うな!」
三人とも、ぺしんと頭をはたかれる。
「なんで分かったんだよ。」
ぶんむくれて父さんを見上げる。擁と遵は無言で、じっとり見上げた。
「わからいでか。」
「三人とも、本当に気を付けてね?」
心配そうな母さんを見ると、ちょっと気まずい。
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三者三様頷いて、その時の話は終わった。
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