【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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Hauptteil Akt 14

hundertdreiunddreißig

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 程なくしてノックが鳴り、男に連れられ藍里が部屋に入ってきた。

 アシェル家のバトラーがジュードに視線を送ると、頷いて送金処理を済ませる。購入資金はこのバトラーの個人資産からだった。男は入金を確認すると、藍里の背を押し出した。よろけた藍里を狗狼が支える。強張る肩から手を離すと、囁いた。

「助けに来た。」
「……え?」
「新のダチだ。心配すんな。」

 それだけ伝えると、背筋を伸ばし視線を外した。男は予想通り天蒼の言葉が理解出来ないようで怪訝そうではあったが上客の手前、そのまま黙って部屋を出て行った。

 そのままドアの内側にジュードが立つと篤臣が藍里に話しかける。

「俺は貴宮 篤臣。新くんの友人です。」
「あ、あの。」
「遅くなってごめん。どこか怪我は?痛むところはない?」

 藍里はふるふると首を振ると、頭を下げた。

「ありがとうございます。」

 そのやり取りをじっと見つめていたフィンレーが口を挟んだ。

「私はフィンレー・グウェイン。あなたの他にも拐われた人たちがいる。さっきのオークションにかけられた人たちはもちろん、かけられてない人たちがいるんだ。二人。」
「……はい。新さんともう一人。男の子がいるって。聞きました。」
「そう。誰に?」
「……ここの、ボスと呼ばれる……リーウェンとか言う。外道にです。」
 一瞬しんっと部屋が静まり返った。狗狼が噴き出す。

「まじか!あんたいいな!気が合いそうだ!」
「おい。」
 篤臣が嗜める横で、フィンレーが続けた。

「シュウ・リーウェンは君になんて話していた?」
「……新さんを気に入ったから。自分のものにすると。私の目の前で、甚振ってやるって。そう言ってました。少し前に檻まできて。拐ってきたから、もうすぐ会わせてやるって。ついでに上物の子供も拐ってきたから。」
 そこで一旦言い淀む。唇を舐め、辛そうに続けた。

「タイプと種が分かれば売りに出すって。ああいう子供が好きな好事家はいるから、高値がつくだろうって。笑ってました。」

 篤臣から威圧が噴き出す。狗狼も同じく漏れ出していて、息が詰まるほどだった。藍里が怯えて固まると、フィンレーが声を上げた。

「どこに監禁されているか、分かるかな?」
「いえ、分かりません。私たちは、売り物として檻に入れられてて。新さんたちは、そうじゃないから。だけど、予想と言うか。」
「構わないよ、意見を聞きたいから。」
「あの男が新さんへ向ける執着は凄まじかったので。そんなに離れてない部屋に監禁されていると思います。」
「……なるほどね。手元に置きたがる、か。」
「はい。」
『……ふっ、ふふ。よく分かってる、わ、ねぇ?アイ~リィー。』

 割って入った歪な声。一斉に視線が向けられた先で、ユェルンはアシェル家のバトラーを背後から抱き締めていた。ジュードは常に意識を向けていたが、あまりに緩慢な動きで意志ある行動に見えなかった。ただ、寄り添っているようにしか見えなかったのだ。抱きつかれたバトラーは震え、晒された首には細い指が纏わりついていく。

『やって、くれ、た、わ。ねぇ?ツェアシュテールゥ~!』
 ニタリと笑うとボキッと音が鳴り、あり得ない角度にバトラーの首が傾いた。被っていた帽子を脱ぐとハラリと落とす。現れたユェルンの顔を見て藍里から声にならない悲鳴が上がった。ユラリと立ち上がったユェルンが、邪魔くさそうにバトラーを放り捨てるのとジュードが動いたのは同時だった。その巨躯からは想像もつかない速さで迫ると、ユェルンの身体を抱き込んだ。そのまま万力で締め上げる。

『あ、が、は、なせ。はなせぇ。』
 肺から空気が押し出され、悲鳴を上げることもままならない。

『ジュード、殺せ。』
 このまま気絶させておくことも出来るが、フィンレーは生かしておくことの方がリスクが高いと判断した。

 返事の代わりにステンカーボネートワイヤーを引き出し頸部に巻きつける。そのまま一息に締め上げた。

『あ、が。』

 殆ど声を漏らすこともなく、ユェルンから力が抜ける。ジュードは拘束を解くと、絶命したユェルンからワイヤーを回収した。

『申し訳ございません、フィンレー様。』
『いや。既に自我はないと私が判断していたからな。まさかここに来て正気を取り戻すとは。大方シュウ・リーウェンの名前に反応したんだろう。』
「それこそ、凄まじい執念だな。」
 狗狼がぼやく傍らで藍里はかつての友人の骸を、茫然と見つめた。
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