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Hauptteil Akt 13
hundertdreißig
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合流地点へ大型のワンボックスで移動する間、既に狗狼がフィンレーとジュードのことに気が付いていると篤臣は二人に打ち明けた。聞かされた二人は渋面を作っていたが、対する狗狼はどこ吹く風である。
『耳が良すぎるな。』
『おい、聞こえてるぞ。』
共通言語で小さく呟いたのに狗狼が反応する。一体どこまで離れれば聞かれないのか。
『で、乗り込むのはいいが協力者って誰だよ。』
斜め向かいに腰掛けた狗狼が睨め付ける。まるでチンピラだ。
『深沢。お前。』
『あ?乗り込む時はちゃんとするって。』
篤臣が嗜めると狗狼が鼻を鳴らした。そのやり取りをフィンレーが見つめる。
『……本当に話せるんだな。』
『聞いてりゃ覚えるわ。』
『いつ聞いたんだ?』
フィンレーが尋ねると狗狼がにやっと笑った。
『うちの医者はリージョン出身なもんでな。』
うちの医者とはウルの専門医のことだろう。なるほどなと篤臣は頷いた。ミックスは希少種だがそれでも天蒼よりはリージョンやディストリクトの方が母数が多いだろう。まず国民の数が圧倒的に多い。必然的に医者の層も天蒼より厚いと言える。
『で、協力者って?』
『ホテル王ゲオルク・アシェル氏だ。』
『そいつも客なのか?』
『そいつ呼ばわりはやめてくれ、私の義父になるんだから。』
『あ?義父?』
狗狼が眉間に皺を寄せる。篤臣が付け足した。
『フィンレーのメイニーで新くんの友人、クロエの父親だ。』
『あー、なるほど。ゲレンク-パラ済ませてパートナーになるから義父ってか。』
『そうだ。』
『で?客なのか?』
『厳密には違う。』
その答えに篤臣と狗狼は揃って首を傾げた。
フィンレーが背もたれに身を預けると、隣のジュードに視線を移す。頷いて説明を始めた。
『つまり、アシェルの名前を使って客やってたのは義父のバトラーだったんか。』
『そうだ。』
『ハレムに入れる女たちをオークションで買ってたんだな。』
『そう言うこと。』
『義父は知らなかったのか?』
『ああ。優秀なバトラーが集めているがその方法が人身売買だとは思いもよらなかったらしい。話をしたら倒れそうだったよ。』
『知らなかったで済むかよ。毎度毎度どうやって自分好みの女を都合よく用意出来るって言うんだ。少しも疑問に思わなかったのか?』
フィンレーと狗狼のやり取りを黙って聞いていた篤臣も頷く。かなり長期間だと言うし、慣れはあるだろうがやはり疑問に思わないのはおかしい。
『そこがバトラーの上手いところでね。絶妙に好みと外れた女性たちも混ぜていたんだ。』
『……だったらハレムに入れなかった女性たちは?』
『自分が囲ってたんだよ。つまり、主人の好みとは違う、自分の好みの女性もオークションで競り落とし主人が選ばないのを見越して密かに手に入れてたんだ。購入資金もアシェルのハレムから引っ張ってきてたようでね。腹を痛めず女を手に入れ主人からも重用される。上手いことを考えたものだ。』
結果、楽して好みの女を手に入れ続けたゲオルクはハレムにどっぷり首まで浸かってしまった。得られたのは愛娘たちからの嫌悪だけ。自業自得だが、何とも言い難い。
『ヘンディルの顧客はある程度把握している。各国の主要人物や富豪が多い。アシェルの名を掴んでからは慎重に調べを進めていたんだ。クロエが傷付くことは避けたかったからね。調査結果で義父はシロ。むしろ表沙汰になれば無事では済まない。だから表沙汰にしない代わりに協力するよう脅迫したんだ。』
物騒な単語に独特のルビが振られたが全員聞き流した。
『今回のことがなかったら、密かに処理して終わりだったんだが。せっかくだからね、義父にはお灸を据えて、バトラーには痛い目を見てもらって、最終的にはアシェルの名を利用させてもらうことにした。』
『へぇ、面白そうじゃねぇか。』
『クロエは大丈夫なのか?』
興が乗ったと身を乗り出す狗狼に対して篤臣が胡乱気な視線をフィンレーに向ける。
『もちろん、彼女の了承は得ているよ。徹底的にやって二度とハレムなんて悪習にのぼせ上がらないよう、ぎゃふんと言わせてやれってさ。』
『ぎゃふんて。』
『死語じゃねぇか。』
『可愛いだろう?』
蕩けるような笑顔を向けるフィンレーに二人でげんなりする。
それから、作戦の概要をフィンレーから聞いた篤臣と狗狼は質疑応答を繰り返し最終的なプランA'まで知ると嘆息した。
『まさに殲滅だな。』
『君はさっきからナチュラルに受け止めているが、私の立場を知っているのか?』
『あ?知ってるんじゃなくて分かってんだよ。』
『傲岸不遜と言うのは君のことを指すのだろうね。』
『テメェにだけには言われたくねぇな。』
歯に衣着せぬ物言いでやり取りするフィンレーと狗狼。水と油のようで案外合うのかも知れない。
篤臣が苦笑する斜め向かいでジュードと目が合った。彼も同じ考えなのか、目線を外すと苦笑した。
『耳が良すぎるな。』
『おい、聞こえてるぞ。』
共通言語で小さく呟いたのに狗狼が反応する。一体どこまで離れれば聞かれないのか。
『で、乗り込むのはいいが協力者って誰だよ。』
斜め向かいに腰掛けた狗狼が睨め付ける。まるでチンピラだ。
『深沢。お前。』
『あ?乗り込む時はちゃんとするって。』
篤臣が嗜めると狗狼が鼻を鳴らした。そのやり取りをフィンレーが見つめる。
『……本当に話せるんだな。』
『聞いてりゃ覚えるわ。』
『いつ聞いたんだ?』
フィンレーが尋ねると狗狼がにやっと笑った。
『うちの医者はリージョン出身なもんでな。』
うちの医者とはウルの専門医のことだろう。なるほどなと篤臣は頷いた。ミックスは希少種だがそれでも天蒼よりはリージョンやディストリクトの方が母数が多いだろう。まず国民の数が圧倒的に多い。必然的に医者の層も天蒼より厚いと言える。
『で、協力者って?』
『ホテル王ゲオルク・アシェル氏だ。』
『そいつも客なのか?』
『そいつ呼ばわりはやめてくれ、私の義父になるんだから。』
『あ?義父?』
狗狼が眉間に皺を寄せる。篤臣が付け足した。
『フィンレーのメイニーで新くんの友人、クロエの父親だ。』
『あー、なるほど。ゲレンク-パラ済ませてパートナーになるから義父ってか。』
『そうだ。』
『で?客なのか?』
『厳密には違う。』
その答えに篤臣と狗狼は揃って首を傾げた。
フィンレーが背もたれに身を預けると、隣のジュードに視線を移す。頷いて説明を始めた。
『つまり、アシェルの名前を使って客やってたのは義父のバトラーだったんか。』
『そうだ。』
『ハレムに入れる女たちをオークションで買ってたんだな。』
『そう言うこと。』
『義父は知らなかったのか?』
『ああ。優秀なバトラーが集めているがその方法が人身売買だとは思いもよらなかったらしい。話をしたら倒れそうだったよ。』
『知らなかったで済むかよ。毎度毎度どうやって自分好みの女を都合よく用意出来るって言うんだ。少しも疑問に思わなかったのか?』
フィンレーと狗狼のやり取りを黙って聞いていた篤臣も頷く。かなり長期間だと言うし、慣れはあるだろうがやはり疑問に思わないのはおかしい。
『そこがバトラーの上手いところでね。絶妙に好みと外れた女性たちも混ぜていたんだ。』
『……だったらハレムに入れなかった女性たちは?』
『自分が囲ってたんだよ。つまり、主人の好みとは違う、自分の好みの女性もオークションで競り落とし主人が選ばないのを見越して密かに手に入れてたんだ。購入資金もアシェルのハレムから引っ張ってきてたようでね。腹を痛めず女を手に入れ主人からも重用される。上手いことを考えたものだ。』
結果、楽して好みの女を手に入れ続けたゲオルクはハレムにどっぷり首まで浸かってしまった。得られたのは愛娘たちからの嫌悪だけ。自業自得だが、何とも言い難い。
『ヘンディルの顧客はある程度把握している。各国の主要人物や富豪が多い。アシェルの名を掴んでからは慎重に調べを進めていたんだ。クロエが傷付くことは避けたかったからね。調査結果で義父はシロ。むしろ表沙汰になれば無事では済まない。だから表沙汰にしない代わりに協力するよう脅迫したんだ。』
物騒な単語に独特のルビが振られたが全員聞き流した。
『今回のことがなかったら、密かに処理して終わりだったんだが。せっかくだからね、義父にはお灸を据えて、バトラーには痛い目を見てもらって、最終的にはアシェルの名を利用させてもらうことにした。』
『へぇ、面白そうじゃねぇか。』
『クロエは大丈夫なのか?』
興が乗ったと身を乗り出す狗狼に対して篤臣が胡乱気な視線をフィンレーに向ける。
『もちろん、彼女の了承は得ているよ。徹底的にやって二度とハレムなんて悪習にのぼせ上がらないよう、ぎゃふんと言わせてやれってさ。』
『ぎゃふんて。』
『死語じゃねぇか。』
『可愛いだろう?』
蕩けるような笑顔を向けるフィンレーに二人でげんなりする。
それから、作戦の概要をフィンレーから聞いた篤臣と狗狼は質疑応答を繰り返し最終的なプランA'まで知ると嘆息した。
『まさに殲滅だな。』
『君はさっきからナチュラルに受け止めているが、私の立場を知っているのか?』
『あ?知ってるんじゃなくて分かってんだよ。』
『傲岸不遜と言うのは君のことを指すのだろうね。』
『テメェにだけには言われたくねぇな。』
歯に衣着せぬ物言いでやり取りするフィンレーと狗狼。水と油のようで案外合うのかも知れない。
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