【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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Hauptteil Akt 12

hundertfünfzehn

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 用意された食事を、丸呑みする。失った血肉を手っ取り早く摂取し、自己治癒能力を高めなければ。すぐにでも動きたいなら尚更。視界に入る、左手首。そこにあった探知デバイスは意識を失う前に壊れたところを見ている。現場にウルのイヤカフはなかった。だったら気付かれずに、まだ身に付けている可能性が高い。細くてもまだ、切れてはいない。繋がっていると信じてる。なるべく早く深沢に貰わないと。あいつ、いつ戻ってくるんだ?

 ウルを拐われ、頭に血が昇りまんまと罠に嵌ってしまった。そのせいで救出が遅れているのだ。焦る気持ちをなんとか抑え込み、今は回復しなければと咀嚼する。ウルがいない。それだけでまるで砂を噛んでいるようだった。コンシェルジュが手配したのだから、間違いなく美味しいはずなのに何も感じない。

『起きたかい、篤臣。』
『……フィンレー。』
 ジュードを伴い寝室へと入ってきたフィンレーを見ながら、飲み込む。グラスを掴んで飲むと、トレイをサイドテーブルへと置いた。ジュードが椅子をベッド脇に移動させると、フィンレーが座り足を組んだ。そのまま後ろにジュードが控える。

『深沢から、ウルや新くんについて何か聞いてないか?』
『すまない。私は彼にとことん嫌われているようでね。君がいないところでは空気のように扱われている。話しかけても答えてもらえないんだ。』
『そうか……状況は?』
『あまり良くは無いね。』
『……。』
『捕まえた二人の工作員は下っ端らしく、何も知らなかった。拷問するまでもなかったよ。』
『ヤン・ユェルンは?』
『あちらはまぁ、拷問なんてどうとも思わない女だから。時間を無駄にしたくは無かったんでね、自白剤を投与した。』
『……そうか。』
 うっそり笑うフィンレーを見て、恐らく廃人になろうが構わないと徹底的にやったんだろうなと理解した。別段何も感じない。ヘンディルは篤臣からウルを奪ったのだ。時間があるなら自分が縊り殺してやりたいくらいだった。

『拠点の船がどこにいるのか分かった。そこへの行き方もね。』
『乗り込むんだな。』
『ああ。客として。』
 こう言うからには伝手があるのだろう。しかし、その伝手がある人物も犯罪者である可能性が高いのではないか。そんな相手とフィンレーが繋がりを持ちたがるだろうか。

『出来れば、他の手を使いたかったんだが。その為の準備もある程度終わっていたんだけどね。だが、状況が変わった。安全性と確実性を取ることにしたよ。』
『俺も行く。』
『そう言うと思った。ただ、準備と根回しが必要になるんだ。それまでは回復に専念してくれ。』
『どれくらい?』
『そうだね。彪束にプライベートジェットを頼んだから、準備出来次第ディストリクトへ向かい協力者を確保する。それまで、かな。』
『ディストリクト……。』
『ああ。クロエも連れて行く。交渉に協力してもらうよ、桜庭くんや笹川くんの為に何かしたいって言うからね。一肌脱いでもらおう。』
『そうか……。』
『乗船する前に落ち合おう。いいかい?』
『分かった。』
 頷いてから、はたと顔を上げる。

『深沢は知らないんだよな?』
『いや、今後の方針として話したよ。返事は無かったけど。』
『付いてくるぞ、あいつも。』
『それは別に構わないよ。ただ、共通言語が話せないことには客として潜り込むのは不可能だ。その場合は君のバトラーとして帯同すれば良い。私にとってのジュードみたいにね。』

 苦虫を噛み潰したような狗狼が想像出来る。スーツに身を包み、終始無言で後ろに控えていなければならないのだ。見た目だけは極上の男だが、いかんせん言動が荒い。注意しなければすぐ見破られるだろう。

『合流するまでに、なんとか形になるよう頑張ってはみるよ。』
『ああ。』
 苦笑するフィンレーを見て、篤臣は溜め息を吐いた。早く新しい探知デバイスを貰うか狗狼に安否を聞くかしない限り落ち着かない。だが、一人息子が拐われて動揺しているウルの両親の元からさっさと戻ってこいとも言いづらい。

 胸を掻きむしりたいくらい、落ち着かないが堪えるしかなかった。
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