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Hauptteil Akt 12
hundertzwölf
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暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がるように建つペントハウス。その威容を篤臣たちは見つめた。外観はすっきりとしたダークグレー一色で、木々が密集する地帯を切り取るようにして建っている。陽が落ちた今、まるでひっそりと隠れているように見えた。
あれから篤臣たちはヘリと装備を準備しながら、衛星地図を用いて当たりを付けた山に家屋らしきものはないか確認した。該当したのは一軒のペントハウス。他にはない。そのペントハウスの内部情報も入手した。とは言っても持ち主はあまり使うことがないようで、ネットを通じて貸し出しているらしい。その為、利用客が写真をSNSに上げたり、内覧ツアーと称して動画を上げていることが分かり、比較的簡単に周辺を含め情報を集めることができた。
狗狼が率いる深沢のチームは元々新に付ける為、選抜してあったものたちで編成された。操縦士を含め十人でヘリに搭乗すると、イヤカフタイプのインカムを着け、防弾ベストを着用し、銃の動作確認を済ませる。
「お前たち、今回の作戦、貴宮がリーダーだ。」
ヘリの駆動音に負けないよう声を張り上げた狗狼の命令に「了。」とチームが答えた。篤臣が瞳を瞑り、深く息を吸って吐き出す。やがてゆっくりと開くと琥珀色の瞳が煌めいた。
「最優先は人質二人の確保。相手の生死は問わない。」
全員頷く。中でも狗狼の威圧はダダ漏れだった。元より従兄弟と友人を拐った奴らを五体満足で済ませるつもりはない。噛み殺してやると威圧が噴き出す。そんなやり取りを経て着陸し、該当のペントハウスを視認したのだった。
突入前に改めて、全員でウルと新のGPSを確認しようとして一斉に動きが止まった。どちらも受信出来ない。
「気付かれたようですね。」
ジュードが淡々と告げる。
「GPS妨害か。」
狗狼が唸った。
篤臣がぎりっと拳を握りしめた。耳の中で、どっどっどっと心音が鳴り響く。ウルの安否が分からない。それがこれほどまでに自分を追い詰める。
「急ごう。」
GPSに気が付いたなら、すぐに移動するだろう。そうなれば、ますます助け出すのは困難になる。篤臣を先頭に、右後ろに狗狼が。左後ろにジュードが付いて走り出す。三人の後ろを六人が追走した。本来なら斥候としてチームを先行させるところだが、篤臣自身が悠長に待てそうもない。早く。早く助け出さないと。きっと怯えて泣いている。
そうやって辿り着いたペントハウスからは明かりが漏れていた。玄関近くには、実臣から報告を受けた業者のバンもある。チームに散らばって周囲を監視するよう指示すると篤臣と狗狼、ジュードの三人は東の一階窓に近付いた。ガラスを割って開錠し、中へと滑り込む。
三人で目配せし合うと、それぞれに散った。恐らく、監禁場所は一階。外への出入りがしやすい北東の角部屋。篤臣が向かうと言い張り、狗狼とジュードは頷いた。
そうして慎重に近づいた角部屋で、篤臣は愕然とした。
広いベッド。据えられた檻。鼻をつまみたくなるような、情交の匂い。そして散らばった服。恐る恐る近付いて手に取るとそれは、ウルの服だった。シルバーのイヤカフは見当たらない。近くにはもう一人分の服。恐らく新の。
脳が考えることを拒否する。
違う。違う。違う。
確かに服はウルのだ。匂いがする。でも、他の匂いは付いてない。だからウルは無事だ。絶対に。
なんとか気持ちを立て直そうとして、はたと思い至る。着替えさせられた服。途絶えたGPS。考えるより先にドアへと走り出す。同時にインカムから耳障りな音がして、狗狼とチームのやり取りが耳に飛び込んできた。
「リーダー。周辺をステルスモードのドローンが飛行中。」
「分かった。戻る。」
ぞわり、と悪寒が走る。ぐっと両脚に力を込め部屋を駆け出した。あと少しで外に出る。
直後閃光が走り、熱を感じた。遅れて鼓膜を叩く、爆発音。
身体が吹き飛び、凄まじい爆風が背中を押す。そのまま轟音と共に叩きつけられた。耳鳴りを感じながら、必死に手にしていた服を握りしめる。視界の端で、左手首に付けていた探知デバイスが割れて落ちるのが見えた。そこで、ふつりと意識が途絶えた。
あれから篤臣たちはヘリと装備を準備しながら、衛星地図を用いて当たりを付けた山に家屋らしきものはないか確認した。該当したのは一軒のペントハウス。他にはない。そのペントハウスの内部情報も入手した。とは言っても持ち主はあまり使うことがないようで、ネットを通じて貸し出しているらしい。その為、利用客が写真をSNSに上げたり、内覧ツアーと称して動画を上げていることが分かり、比較的簡単に周辺を含め情報を集めることができた。
狗狼が率いる深沢のチームは元々新に付ける為、選抜してあったものたちで編成された。操縦士を含め十人でヘリに搭乗すると、イヤカフタイプのインカムを着け、防弾ベストを着用し、銃の動作確認を済ませる。
「お前たち、今回の作戦、貴宮がリーダーだ。」
ヘリの駆動音に負けないよう声を張り上げた狗狼の命令に「了。」とチームが答えた。篤臣が瞳を瞑り、深く息を吸って吐き出す。やがてゆっくりと開くと琥珀色の瞳が煌めいた。
「最優先は人質二人の確保。相手の生死は問わない。」
全員頷く。中でも狗狼の威圧はダダ漏れだった。元より従兄弟と友人を拐った奴らを五体満足で済ませるつもりはない。噛み殺してやると威圧が噴き出す。そんなやり取りを経て着陸し、該当のペントハウスを視認したのだった。
突入前に改めて、全員でウルと新のGPSを確認しようとして一斉に動きが止まった。どちらも受信出来ない。
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GPSに気が付いたなら、すぐに移動するだろう。そうなれば、ますます助け出すのは困難になる。篤臣を先頭に、右後ろに狗狼が。左後ろにジュードが付いて走り出す。三人の後ろを六人が追走した。本来なら斥候としてチームを先行させるところだが、篤臣自身が悠長に待てそうもない。早く。早く助け出さないと。きっと怯えて泣いている。
そうやって辿り着いたペントハウスからは明かりが漏れていた。玄関近くには、実臣から報告を受けた業者のバンもある。チームに散らばって周囲を監視するよう指示すると篤臣と狗狼、ジュードの三人は東の一階窓に近付いた。ガラスを割って開錠し、中へと滑り込む。
三人で目配せし合うと、それぞれに散った。恐らく、監禁場所は一階。外への出入りがしやすい北東の角部屋。篤臣が向かうと言い張り、狗狼とジュードは頷いた。
そうして慎重に近づいた角部屋で、篤臣は愕然とした。
広いベッド。据えられた檻。鼻をつまみたくなるような、情交の匂い。そして散らばった服。恐る恐る近付いて手に取るとそれは、ウルの服だった。シルバーのイヤカフは見当たらない。近くにはもう一人分の服。恐らく新の。
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違う。違う。違う。
確かに服はウルのだ。匂いがする。でも、他の匂いは付いてない。だからウルは無事だ。絶対に。
なんとか気持ちを立て直そうとして、はたと思い至る。着替えさせられた服。途絶えたGPS。考えるより先にドアへと走り出す。同時にインカムから耳障りな音がして、狗狼とチームのやり取りが耳に飛び込んできた。
「リーダー。周辺をステルスモードのドローンが飛行中。」
「分かった。戻る。」
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