【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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Hauptteil Akt 11

hundertzehn

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 篤臣の部屋は、息をするのも苦しいくらいの緊張感で張り詰めていた。

「つまり、空港でヤン・ユェルンの襲撃を受け咄嗟に笹川くんだけ逃したと。」
「はい。そう報告を受けております。」
 ジュードの答えにフィンレーが唸った。

「空港から逃げる途中、電話をしてきたようでした。ずっと繋げたまま励ましている彼の側に付いていることにしました。その……不安そうだったので。」
 俯いて実臣が続ける。

「で、別働隊がマンションまで付けてきて拐ったってか。」
 狗狼が呟く。

「あんにゃろ。なんで外、彷徨いてんだ。」
「敷地内は安全だと俺が言ったんだ。カメラもあるしセキュリティガードもいる。それでも長時間外にいないよう言い含めていた。今回は、動揺したんだろう。」
 篤臣が返す。表情は抜け落ち、一切読めない。

「女は?」
「拘束しました。」
 狗狼の問いにジュードが答える。

「工作員たち二人と一緒に尋問しよう。」
 フィンレーが呟く。篤臣が左手首を触った。狗狼に視線をなげると、頷く。探知デバイスをタップすると地図のホログラムが現れた。青い点が点滅しながら移動している。

「どうやら、郊外の山に向かってるな。」
「みてぇだな。そこなら分かる。」
「すぐに出るぞ。」
 篤臣と狗狼のやり取りにフィンレーが口を挟んだ。

「ちょっと待ってくれ、それは?」
「ウルに付けてる探知機だ。現在地が追える。」
「GPSか?」
「まぁそうだな。心拍も取ってるから、正確には違うがな。」
 狗狼の答えに面食らう。なぜ、そこまで?

「あいつは昔っからよくストーカーに遭ってたからな。攫われそうになるたんび肝を冷やすのが面倒で耳に付けさせてる。」
 事実ではあるが、本当の理由とは異なるそれを尤もらしく狗狼が口にする。フィンレーとジュードが戸惑ったように顔を見合わせた。

「兄さん、あの子って……。」
 実臣がぽつりと口にした。

「一緒に暮らしてる。マッシブだ。」
「え?あの子、15.6歳位だよね?」
「俺と同い年だ。お前より年上だよ。」
「……クシュダートに入るくらいかと。」

 告げられた言葉にぽかんとする。

「マーキングしてただろ?気が付かなかったか?」

 言われてみれば、匂いがした。でもそれは自分と似た匂いであまり気にならなかった。兄弟なのだから、似ている匂いに嫌悪や畏怖は抱かない。牽制にもならないのだ、自分の匂いと近いのだから。

「匂いには気が付いたけど。自分に近くて……でもそうか。そう言えば確かに、兄さんの匂いだった。」
 気が付かなかったと実臣が項垂れる。

「とにかく、お前がいてくれたおかげで状況は知れた。ありがとう。」
 肩を叩かれ、宥められたが目の前で拐われたことに変わりはない。

「僕も何か出来ることない?」
「……ここで情報と連絡を取りまとめてくれ。中継だ、出来るか?」
「任せて。」
「よし。」

 依然マップの青い点は点滅しながら動いている。一刻の猶予もない。目的地に当たりをつけて、動くことにした。山に向かっているのは確かだ。

「ヘリを手配する。」
部隊チームを編成する。オレの他に六人。」
 篤臣に狗狼が返した。

「アゲンツも投入しよう。」
「いや、向こうに気取られたくねぇ。これ以上いらねぇよ。」
 フィンレーの言葉に、狗狼がぴしゃりと返した。

「だったら、ジェットを。彼1人ならいいだろう?」
「それなら、まぁ。」
 狗狼が渋々頷く。

「ウルを拐ったこと、後悔させてやる。」
 篤臣の喉がぐるぐると鳴る。威圧が噴き出し、全員が押し黙った。番を奪われた。しかも巣の近くで。理性を失わないだけまだマシだろう。彼らが無事で済むとは到底思えない。

 見たことのない兄の姿に、実臣はぶるっと震えた。
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