【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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Hauptteil Akt 11

hundertneun

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 マンションの来客用ロータリーにタクシーが入ってくるのをウルは見つめた。ドアが開き、新の姿が見えて飛び上がる。駆け寄って抱きついた。

「新くん!」
「ウルくん。」
「だいじょぶ?怪我は?」
「うん、大丈夫だよ。」
「よ、良かったぁ。」
 新が背中を撫で、微笑んでから携帯の通話を切った。

「んと、篤臣くんに連絡するね。」
「うん、僕は狗狼くんにするよ。」

 それぞれ、ぽちぽちと携帯を操作する。耳に当て、コールを聞きながら応答を待った。その間にタクシーがロータリーから出ていく。

 ぼんやりと見送りながら待つ。程なくして、狗狼が出た。

「お、帰ったか。新。」
「うん、狗狼くん。あの、今貴宮くんのマンションなんだ。」
「なんかあったんか?」
「空港で襲われたんだ。護衛から逃げるように言われて、咄嗟にウルくんを頼って。」
「てことは今護衛がいないんだな?」
「うん。」
「外にいねぇだろうな?部屋だよな?」
「え?いや、まだ外で。」
「早く部屋に行け!」
 怒鳴られて訳が分からず立ち竦む。

 一方、ウルも篤臣から同様に怒鳴られていた。

「ウル!部屋に戻って!早く!」

 同時にロータリーへバンが滑り込んできた。業者のバンで別に怪しいところはなさそうだった。二人で見つめながら、それぞれに返す。

「分かったよ、すぐ部屋に行く。」
「だいじょぶだよ、篤臣くん。すぐ戻るね。」
 それぞれに返しながら、携帯を切ろうとしたその時。

 ガラッ。

 スライドドアが開き、男たちが飛び出して来た。一斉に走り寄ってくる。

「ウルくん!逃げて!」
「新くん!新くん!」

 ウルの目の前で新の身体に男たちの手がかかる。咄嗟に手を伸ばした。携帯が落ちる。向こうから聞こえる、篤臣の声。

『こっちも連れてけ。』
『上物だ。売れそうじゃねぇか。』
 ウルの身体にも手が絡みついた。ぞっとして喉が閉まる。

「離せ!」

 怒鳴り声ともに、ウルを捕まえていた男が一人吹っ飛んだ。蹴り飛ばされて地面を転がる。

 震えながら顔を上げると、さっきまで話していた人だった。金色の髪。琥珀色の瞳。瞳の色がウルのマッシブ、篤臣と同じで優しくて。何となく、懐いてしまった人。新からの電話で不安そうにしていたウルの側で到着まで待ってくれてた人。

「貴様ら、その子たちを離せ。」

 威圧が膨れ上がり、喉が鳴る。間違いなく純血種で上位種のそれはヘンディルの工作員たちを震え上がらせた。

『何してる!構うな!早く来い!』

 運転席の男が怒鳴り、男たちが動き出す。暴れるウルと新を抱え上げ、バンへと走り出した。必死に実臣が追い縋る。

 行手を阻む男たちを蹴り、殴り、投げ飛ばす。しかしキリが無い。やがて意識を失った二人を残し、実臣の前で二人はバンに詰め込まれた。ロータリーを急発進して走り去っていく。

「くそ!」

 悪態を付いて、転がっている二人の男に駆け寄る。騒ぎを聞きつけ、セキュリティガードが駆けつけた。二人を拘束するよう指示して、落ちた携帯を拾う。画面には罅が入っていたが、表示された通話相手に息を呑んだ。聞こえてくる、馴染みのある声。

「もしもし?!ウル!ウル!」
「……兄さん……?」
「実臣?実臣か?なんでお前が?それよりウルは?ウルはどうした?!」
「ウルって、黒髪に青い瞳の?」
「ああ、そうだ。頼む、実臣。ウルは無事だよな?そこにいるんだよな?頼むから、いるって言ってくれ!」

 兄のこんな必死な声など、聞いたことがない。携帯を握りしめ、声を絞り出す。

「ごめん、拐われた。」

 沈黙が落ち、地を這うような声が耳を打った。

「話が聞きたい。今すぐ戻るから、ロビーで待ってろ。」

 ぷつりと切れた携帯を持つ腕が、だらんと落ちる。

 拐われた。目の前で。あの子が。実臣が可愛がっていた、あの子が。しかも、兄の知り合いのようだった。

 助けないと。

 ぎゅっと携帯を握り込む。さっきまでこの手で撫でていた小さな頭。一緒にいるだけで、胸が暖かくなった。その子を目の前で奪われた。

 踵を返し、ロビーへと向かう。兄はすぐに駆け付けるだろう。それまでに、自分が出来ることをしなければ。
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