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Hauptteil Akt 11
hundertacht
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着陸サインが点灯して、俄かに緊張した。帰国出来て安心出来るはずの天蒼が、今ではこんなに落ち着かない。
「オーナー?どうかされましたか?」
「いや、何でもないよ。」
マネージャーに笑顔で返す。空港に着いたら直接ウルに会いに行こうと思っていた。予定ではCarmに行くはずだったが、女が捕まっていないのなら今後自由に行動するのは難しくなるだろう。ウルに会いに行くのも控えなければいけないかもしれない。そうなる前に、帰国の挨拶とお土産を渡すくらいはしたかった。
飛行機が着陸し、順に乗客が降りていく。新もマネージャーと共に降り到着ゲートから出た。スーツケースを預けている為、二人で出てくるのを待つ。マネージャーのスーツケースはすぐ受け取れたが、新の方が中々出てこない。待たせるのも悪いので、先に帰るよう促した。
待つこと十分、やはり出てこない。すると近くにいたスタッフが近寄り、声をかけてきた。
「お客様。申し訳ございません。ロストパッケージの可能性がございます。カウンターまでお越し頂けますでしょうか?」
「……分かりました。」
国際便を何度も利用しているが、初めてのことだった。戸惑いながら、付いていく。
なんだろう。違和感?この人、どこかで見たことある気がする。
「お客様?どうかされましたか?」
「……いえ。」
おかしい。はっきりとは言えないけど。絶対会ったことがある。それにカウンターはこっちじゃない。
ぴたりと立ち止まると、スタッフが振り返った。
『あらやだ。もう、気が付いちゃったの?』
『……ヤン・ユェルン。』
『うふふ。もう名前まで知ってくれてるのね?誰に聞いたのかしら?』
ニタリと嗤ったユェルンに寒気がした。じりじりと後退りする。護衛は?アゲンツがいるはずだよね?
『ねぇ、アラタ。アイリに会いたくない?』
『……彼女は無事なの?』
『今のところは。ねぇ、一緒に来てくれれば会えるわよ?』
『その後は?僕も彼女もオークションにかけるんだよね?』
『うーん、少し違うわ。アイリは売られるけど、アラタは売られない。』
『……どう言うこと?』
『貴方はリーウェン様の専属になるの。』
『リーウェンって。』
『ボスよ。ヘンディルの首魁、シュウ・リーウェン様。貴方はあの方に一生飼われるの。性玩具として。』
『それを聞いて、大人しく付いていくわけない。』
『ふぅん。アイリを見捨てるのねぇ。』
嘆かれて、かぁっと頭に血が昇る。
ガン!
激しい音がして、ユェルンが飛びずさった。さっきまで立っていたところに特殊警棒が振り落とされ、床に罅が走っている。二人の男性が新の前に飛び出した。
「ご無事ですか。」
「はい。」
「お下がりください。」
三人の男性がユェルンに特殊警棒で躍りかかる。連携を取りながら、追い詰めていく。狭い通路、なのにヒラリヒラリとユェルンは躱していく。
『やぁだ。護衛ってアゲンツなの?』
笑いながら、胸の前で両腕を交差させると横に飛びながら腕を振るった。指に挟まれていた長い針が六本、飛び出す。狭い通路で交わしきれず、アゲンツを掠っていった。
ふらっと、膝をつく。三人ともそれぞれ、力が抜けたように膝まづいた。
『即効性なの。』
痺れが走り、特殊警棒を取り落とす。
『ねぇ。アラタが欲しいの。ちょうだい?』
ユラリユラリと身体を左右に揺らしながら、近づいてきたかと思ったら今度はユェルンから飛びかかってきた。新を庇い、二人の護衛も応戦する。
「お逃げください。」
「早く。」
肩を押されながら促され、踵を返して走り出した。後ろで激しい物音がする。怖い。こんなところで拐おうとするなんて。
足の速さには自信があった。走りながら、タクシー乗り場を目指す。待機している一台に乗り込むと、叫んだ。
「栢杠へ!出してください!」
車が走り出し、ほっと息を吐く。走り去る窓から外を見た。追ってきてない。良かった。護衛の人たちは?無事だろうか。ああ、襲われたことを連絡しなければ。誰に?
咄嗟にかけたのはウルだった。
「もしもし?」
「ウ、ウルく。」
「?もしもし?どしたの?新くん?だいじょぶ?」
「た、たすけて。」
「!いまどこ?」
「く、くう、こ。」
「すぐきて!マンション!待ってるから!」
がたがたと震えて声が出ない。
「だいじょぶだよ。待ってるからね。このまま繋いでようね?」
「……うん。うん。」
デコイなんて無理だった。いざとなったら足が竦んで何も出来なかった。あんなに藍里さんを助けたいと思ってたのに。
ぽろぽろと涙が溢れる。
「新くん。だいじょぶだよ。」
何度も何度もウルが励ます。次第に落ち着いてきた新は礼を言ってから、運転手にマンションの住所を告げた。その後ろから、バンが一台尾行していることなど少しも気が付かなかった。
「オーナー?どうかされましたか?」
「いや、何でもないよ。」
マネージャーに笑顔で返す。空港に着いたら直接ウルに会いに行こうと思っていた。予定ではCarmに行くはずだったが、女が捕まっていないのなら今後自由に行動するのは難しくなるだろう。ウルに会いに行くのも控えなければいけないかもしれない。そうなる前に、帰国の挨拶とお土産を渡すくらいはしたかった。
飛行機が着陸し、順に乗客が降りていく。新もマネージャーと共に降り到着ゲートから出た。スーツケースを預けている為、二人で出てくるのを待つ。マネージャーのスーツケースはすぐ受け取れたが、新の方が中々出てこない。待たせるのも悪いので、先に帰るよう促した。
待つこと十分、やはり出てこない。すると近くにいたスタッフが近寄り、声をかけてきた。
「お客様。申し訳ございません。ロストパッケージの可能性がございます。カウンターまでお越し頂けますでしょうか?」
「……分かりました。」
国際便を何度も利用しているが、初めてのことだった。戸惑いながら、付いていく。
なんだろう。違和感?この人、どこかで見たことある気がする。
「お客様?どうかされましたか?」
「……いえ。」
おかしい。はっきりとは言えないけど。絶対会ったことがある。それにカウンターはこっちじゃない。
ぴたりと立ち止まると、スタッフが振り返った。
『あらやだ。もう、気が付いちゃったの?』
『……ヤン・ユェルン。』
『うふふ。もう名前まで知ってくれてるのね?誰に聞いたのかしら?』
ニタリと嗤ったユェルンに寒気がした。じりじりと後退りする。護衛は?アゲンツがいるはずだよね?
『ねぇ、アラタ。アイリに会いたくない?』
『……彼女は無事なの?』
『今のところは。ねぇ、一緒に来てくれれば会えるわよ?』
『その後は?僕も彼女もオークションにかけるんだよね?』
『うーん、少し違うわ。アイリは売られるけど、アラタは売られない。』
『……どう言うこと?』
『貴方はリーウェン様の専属になるの。』
『リーウェンって。』
『ボスよ。ヘンディルの首魁、シュウ・リーウェン様。貴方はあの方に一生飼われるの。性玩具として。』
『それを聞いて、大人しく付いていくわけない。』
『ふぅん。アイリを見捨てるのねぇ。』
嘆かれて、かぁっと頭に血が昇る。
ガン!
激しい音がして、ユェルンが飛びずさった。さっきまで立っていたところに特殊警棒が振り落とされ、床に罅が走っている。二人の男性が新の前に飛び出した。
「ご無事ですか。」
「はい。」
「お下がりください。」
三人の男性がユェルンに特殊警棒で躍りかかる。連携を取りながら、追い詰めていく。狭い通路、なのにヒラリヒラリとユェルンは躱していく。
『やぁだ。護衛ってアゲンツなの?』
笑いながら、胸の前で両腕を交差させると横に飛びながら腕を振るった。指に挟まれていた長い針が六本、飛び出す。狭い通路で交わしきれず、アゲンツを掠っていった。
ふらっと、膝をつく。三人ともそれぞれ、力が抜けたように膝まづいた。
『即効性なの。』
痺れが走り、特殊警棒を取り落とす。
『ねぇ。アラタが欲しいの。ちょうだい?』
ユラリユラリと身体を左右に揺らしながら、近づいてきたかと思ったら今度はユェルンから飛びかかってきた。新を庇い、二人の護衛も応戦する。
「お逃げください。」
「早く。」
肩を押されながら促され、踵を返して走り出した。後ろで激しい物音がする。怖い。こんなところで拐おうとするなんて。
足の速さには自信があった。走りながら、タクシー乗り場を目指す。待機している一台に乗り込むと、叫んだ。
「栢杠へ!出してください!」
車が走り出し、ほっと息を吐く。走り去る窓から外を見た。追ってきてない。良かった。護衛の人たちは?無事だろうか。ああ、襲われたことを連絡しなければ。誰に?
咄嗟にかけたのはウルだった。
「もしもし?」
「ウ、ウルく。」
「?もしもし?どしたの?新くん?だいじょぶ?」
「た、たすけて。」
「!いまどこ?」
「く、くう、こ。」
「すぐきて!マンション!待ってるから!」
がたがたと震えて声が出ない。
「だいじょぶだよ。待ってるからね。このまま繋いでようね?」
「……うん。うん。」
デコイなんて無理だった。いざとなったら足が竦んで何も出来なかった。あんなに藍里さんを助けたいと思ってたのに。
ぽろぽろと涙が溢れる。
「新くん。だいじょぶだよ。」
何度も何度もウルが励ます。次第に落ち着いてきた新は礼を言ってから、運転手にマンションの住所を告げた。その後ろから、バンが一台尾行していることなど少しも気が付かなかった。
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