【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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Hauptteil Akt 11

hundertzwei

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 新がリージョンに訪れるのは、半年ぶりだった。

 階級制度が色濃く残る国、リージョン。ここでは今だに生まれや育ちがものを言う。上流階級であればあるほど正に雲の上の人であり、一般家庭とは生活圏や水準が全く違うと言われていた。

 彼らの殆どが、代々継承する古城や屋敷に住むのが一つのステータスシンボルだった。手入れをし、保全をし、次代へと繋げるというその慣習は脈々と受け継がれ、昔からの街並みを残すその特別なエリアは住民以外の立ち入りさえ制限されている。

 新が足を運ぶのは、リージョンの首都ハオプトにある靴専門店の国外支店だった。バイヤーとして各国を回りながら、リージョンとディストリクトの首都にある店へ顔を出すのも大事な仕事の一つだった。

 今回は予定通り、マネージャーを帯同している。柏杠の本店に務める彼にはもう少し、共通言語を学ぶ機会を与えたいと今回試験的に連れてきた。予定外なのはアゲンツと言う護衛だった。顔を知らない方が普段通りに過ごせるだろうとの配慮から、挨拶もしてないし、紹介されてもいないので何人付いているのかさえ分からない。ただ、その道のプロだと言うし、あの篤臣経由で付けて貰ったのだ。最終的には狗狼も納得したところをみると、安心してもいいのだろう。なにより、リージョンの方が天蒼より安全だろうと聞かされていた。最近ずっと拭えなかった不安と焦燥感が束の間解消されたようで、新の気持ちも幾分か落ち着いていた。

 滞在期間は二週間。今は自分が出来ることに集中しようと気持ちを切り替えた。

 そうして滞在から一週間経った昼下がり。新の携帯がポケットの中で震えた。取り出して画面を確認すると《着信 貴宮くん》と表示されている。

「もしもし、笹川です。」
「もしもし、貴宮です。」
「貴宮くん、こんにちは。」
「こんにちは。今忙しいかな?」
「いえ、ちょうど次の約束まで空いてました。」
「そっか、良かった。リージョンはどう?変わりない?何か不便とかないかな?」
「特には。仕事も順調にこなしてます。」
「そっか、良かった。……早速なんだけど、由月 藍里さんのことで連絡したんだ。」
 名前を聞いて、ぎゅっと携帯を握る手に力が入る。

「……何か、分かりましたか?」
「うん。結論から言うと、新くんの予想が当たってたみたいだ。」
「……そう、ですか。何か、手掛かりとか。」
「それなんだけど、彼女に関することではこれと言って目ぼしい情報は得られなかった。ただ、側近の女については運良くクラウドに写真や名前が上がっていてね。容姿は新くんに聞いた通りだった。名前はヤン・ユェルン。ここ何日か捜索してやっと、潜伏先を見つけたんだけど。」
「……。」
「踏み込んでは見たものの既に引き払った後だった。部屋の持ち主は男性なんだけど、その人もどうやら失踪しているみたいなんだよね。」
「それってつまり……。」
「うん。奴ら殺しだけはしないから。恐らく狩りに遭ったんだと思う。」

 つまり、藍里とその男性。二人が攫われたと考えられる。

「引き続き足取りを追うし、新くんの護衛は付けたままだから。心配だろうし、不安だろうけどもう少し頑張ってもらえるかな。」
「うん、それは。大丈夫。色々ありがとう、貴宮くん。」
「いや。君は俺にとっても大事な友だちだと思ってるから。」

 自分は恵まれている方だと思う。本来狙われてるかもしれないからと言って、アゲンツが護衛につくなど願ったところで叶わない。

「ありがとう、貴宮くん。」
「いや。」
「ウルくんは?元気?」
「あぁ、元気だよ。帰国したら又、会ってやって。喜ぶから。」
「うん。お土産持って行くよ。」
 挨拶を交わして携帯を切った。ぼんやりと画面を見つめる。

 女の顔も名前も分かった。足取りも追えている。後一歩のところで逃げられたけれど。

 やっぱり僕がデコイになった方が。

 ポケットに戻しながら、考える。誘き出せるなら、そちらの方が確実に捕まえられる。もちろん危険は増すし、最悪自分まで拐われる。でも、他に方法がないのなら。

 帰国したら、もう一度狗狼に相談してみよう。そう決めた。
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