【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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Hauptteil Akt 10

neunundneunzig

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 兄さんから暫く接触してくるなと言外に告げられ、僕は途方に暮れていた。

 栢杠のラ-ガレンに通う僕は、当然ながらまだ仕事なんてしたことがない。秘書の処遇なんてどうしようもなかった。

 でも、何もしないままだと兄さんにもっと失望される。

 悩んだ末にイロフネストを含むミスク-コンサーンを束ねる本家彪束家のリーダー、氷午伯父さんを訪ねることにした。兄さんと行き違いがあったと話して秘書のことをどうにかしてもらえないか頼んでみようと思ったのだ。アポは取らずに訪ねるとバトラーの河西さんが対応してくれた。氷午伯父さんは来客中だと言う。

「終わるまで待っても良いんですが。」
「申し訳ございません。お客様がいつ頃お帰りになるか定かではございませんので、私が伺い対応させて頂きます。」

 確かに伯父に頼んでも結局はこのバトラーが手配するのだし、同じことかと用件を告げた。兄と行き違いがあり、秘書をすぐにどうにかしたいと話すと鷹揚に頷かれた。

「畏まりました。後のことはお任せください。」

 ほっと息を吐いた。良かった、これで兄さんもすぐに許してくれる。動向が探れなくなったのは痛いけど、マンションの周りを張っていれば何か分かるかもしれない。あの二人の青年は兄さんと同じマンションに住んでいる。対になったマンションに住んでいるらしいから厳密には同じではないけれど敷地は同じだから、張ってれば三人のうち誰かを探れる機会はあるはず。

「宜しくお願いします。では、今日は失礼します。氷午伯父さんに宜しく伝えて下さい。」
「はい。」

 彪束家を後にして、車へ乗り込む。少し考えて兄さんのマンションへ向かうことにした。

 昼間は三人ともマンションにいないから。他の入居者や訪問者を調べてみよう。もしかしたら何か見聞きしてるかもしれない。

 コンシェルジュは職業倫理上、入居者の要望が最優先だから兄さんの言いつけを厳守する。部屋に上げてはもらえないだろうし、聞いたところで何も教えてはくれないだろう。でも、そうじゃないものなら、上手く聞き出せば。

 秘書のことがあるから、イロフネストには近づけない。希望は薄くてもマンションしか調べるところがない今は、時間を見つけて立ち寄ってみるしかなかった。

 エンジンをかけ、マンションに向かって走り出す。

「全く、面白いなぁ実臣は。」
「なかなか、予測出来ない動きをしますね。」

 大きく張り出した窓から、走り去る実臣の車を見つめて氷午が漏らす。ソファに腰掛けたフィンレーがカップをソーサーに戻しながら続けた。

「流石の篤臣も、私やジュードに突撃してくるとは思わなかったようですよ?」
「は?ははははは!なんだい、そんな面白いことが?篤臣はどんな顔をしてた?見たかったなぁ。」
 大笑いしながら、フィンレーの向かいに腰掛ける。

「まぁあれは放っておいても、やることなど、たかが知れている。それより、今後のことだが。失踪した女性の部屋から、何か情報は得られたのかい?」
「ええ。思ったより多く得られました。携帯は見つかりませんでしたが、代わりにパソコンは見つかりました。解析したところ、クラウドに女の写真と名前、それからメイニーのことが書かれた日記が上げられていました。」 
「へぇ。そんな重要なもの、首魁の側近が簡単に掴ませるとは……些か考えにくいんだが。」
「写真は隠し撮りでした。偶然二人を見かけた友人が撮ったものを貰って保存していたようです。女は撮られたことに気付いてなかったのだと思います。」
「標的以外には気を配ってなかったのかな?」
「そのようです。私も感じましたが、この栢杠は治安がいい。裏を返せば住んでるものたちの防犯意識が低い傾向にある。そんなものたちを狩る訳ですから、狩る側も自然と気が緩むのでしょう。」
 フィンレーが肩を竦める。そのまま続けた。

「クラウドにあったのは彼女の日記でした。細かく書かれていて大変参考になりましたよ。その中に女の名前とメイニーのことが書かれていました。」
「さっきも言っていたが、女にはメイニーがいたのかい?」
「ええ。会話の中で、メイニーがいて同棲していると話したようです。とは言ってもそれ以上詳しくは話さなかったとありました。女の足取りが掴めなかったのは、その男性の元に身を寄せていたからでしょうね。」
「ふぅん。だとしたら、その男性も危ないね。」
「はい。既に狩られている可能性もあります。男性の名前や住所は分かりませんでしたが、女の顔も名前も割れました。充分足取りは追えます。」
「そうか。分かったよ。」
「篤臣をサポートに付けてくださって、ありがとうございました。大変助かりました。」
「ああ、気にしないでくれ。気心知れたものの方が何かと都合が良いだろうと思っただけだ。」

 にっこりと笑って答えた氷午を見て、つくづく食えない人だなとフィンレーは思った。

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