【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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Hauptteil Akt 5

sechsundvierzig

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 それは篤臣にとって、不吉な前触れだった。

「こんにちは、氷午ひょうご伯父さん。」
「いやぁ。忙しいのに悪いね、篤臣。」
「いえ。」

 前回は急に呼び出され、ヘリに無理矢理乗せられたかと思ったら豪華客船に三ヶ月近く軟禁された。分家の貴宮家リーダーとして、やらなければならなかった仕事とは言えあまり気持ちの良いものではなかった。初対面の女性をメイニーと偽り、寝取らせる為にパーティに赴く。いくら女性たちが望んで受けたとは言え、目の前で蛇のように絡み合う情交は見なくて済むものならそうしたかった。何よりウルと連絡が一切取れず、気が狂いそうだったのだ。その元凶とでも言うべき人物が今、目の前に座る彪束こづか 氷午ひょうごと言う名の伯父で、本家彪束家のリーダーだった。

「実はね、お前にまた一つ仕事をやって貰いたいんだ。」
「……なんでしょう。」
「グウェイン家がツェアシュテールを組織運営しているのはもう、お前も知っているよね?」
「はい。リーダーのフィンレー・グウェインが最高責任者だと言うことも知っています。」
「そうか。その彼から又彪束へ協力要請があってね。今回は身分を隠して、名前を変えて。天蒼に入国したいらしい。」
「……そうですか。」
「まぁそれはこちらでやっておいたから。お前には入国した後のサポートをやって貰おうかと思ってるんだ。」
「分かりました。」
「おや。ごねるかと思ったんだが。存外あっさり受けるんだね?」
 くすくすと笑う氷午から視線を逸らす。

「前回恋人になかなか会えなくて大分堪えたんじゃないのかい?」
 知られているかもしれないとは思っていたが、はっきりとウルについて言及されれば良い気はしなかった。

「……。」
「あの篤臣が!くっ!あっははははは!」
「氷午伯父さん!」
「全く!骨抜きらしいじゃないか!」
「……。」
「はー。面白い。」
「……。」
「篤臣、私だって甥のお前が可愛いんだよ。だから今回のことが上手くいったら一度だけお前に手を貸そう。」
「……本当ですか。」
「おいおい。自分から言い出して嘘はつかないよ。」
 肩を竦める氷午が今一信用出来ない。

「ここにいる私のバトラーに誓おう。」
「ご自分のバトラーに誓われても。」
「おや、何を言うんだい。うしおは怖いよ?私なんか吹き飛ばされる。」
「確かにそうかもしれませんが。」
 グラスとは言え水牛の河西かわにし うしおは体格が良く、戦闘能力が高い。性格は穏やかで真面目、寡黙。常に巫山戯ている氷午の後ろにずぅおん、と小山のように立っている。

「お前、何れはパートナーにするつもりなんだろう?」
「はい。」
「だったら私に手を貸してもらった方が丸く収まるんじゃないか?面倒くさい障害がいるじゃないか。実臣とか実臣とか実臣とか。」
「三回も言わなくていいです。」
「だってお前たちの両親は何も言わないだろうけど、実臣だけは言うだろう?」
 それは事実だった。篤臣と実臣の両親は恋愛結婚で偶々お互い純血種だった。本家のリーダーは父の兄に当たる氷午が務め、分家のリーダーはついこの間までは父が務めていた。篤臣が留学から戻ったのを機に二人でハネムーンをやりたいと言う、なんとも言えない理由で父は篤臣をリーダーに指名すると、母を連れ各国を旅しているのだ。

 一体何回ハネムーンやれば気が済むんだ。

 そんな恋愛脳が爆発した両親なので篤臣がウルとゲレンク-パラを済ませ、パートナーにしても寧ろ両手を挙げて喜ぶだろう。問題は氷午の言う通り、実臣だった。
 この前話した時も感じたが、きっと納得していない。ウルの存在に気が付いたら間違いなく邪魔するために動くだろう。それも全て篤臣の為だとそう言って。実臣には悪気がないのだ。だからこそ直す気もなければ反省もしない。

「分かりました。その時は力を貸して下さい。」
「おー!嬉しいねぇ。伯父さんに任せなさい。実臣もねぇ。可愛い甥に違いはないんだよ?あの凝り固まった頭がもう少し柔らかくなればねぇ。躍起になるから邪魔したくなるんだ。」
 ほらみろ。本音が漏れた。篤臣に手を貸したいんじゃなくて思い通りに行かなくなって地団駄踏む実臣が見たいだけなのだ。

 だが構わない。それでウルが傷つかずに済む可能性が少しでも上がるなら。

「では、報酬はその時に。何をお願いするかは改めて考えます。」
「お前のその慎重なところ、私は高く評価しているよ。」
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