【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

文字の大きさ
上 下
55 / 238
Hauptteil Akt 4

neunundvierzig

しおりを挟む
 ユェルンはイライラと身体を揺すりながら相手を待った。約束の時間はとうに過ぎている。

『おそい、おそい、おそい。』
 ブツブツ呟きながらドアを睨みつける。私をここまで待たせるなんて。

「ごめん、ユェルン。」
 息を切らしながら、女性が駆け寄ってきた。途端に笑顔を作る。

「気が変わったのかと思っちゃった。」
「違うの、電車が遅延しちゃって。本当にごめんなさい。」
 謝りながら、向かいの椅子に腰掛ける。

「怒って帰っちゃったらどうしようって。遅延のせいか携帯も繋がらないし。」
「帰んないわよ。楽しみにしてたのに。」
 にっこり笑って頬杖をつく。女性が安心したと息を吐いた。

「私も。楽しみにしてたの。」
「ふふ。どこに行く?」
「ユェルンは?どこか行きたいところってある?」
「そうねぇ。うーん。静かなところとか?貴方とゆっくり話をして、もっと仲良くなりたいわ。」
「そう?じゃあ。美術館は?あまり混んでないと思うし。」
「美術館?いいわね。」
「本当?ユェルンは絵画って好き?」
「好きよ、現代美術は正直分かんないけど。絵画は印象派が好き。他にはアール・ヌーヴォーとか。」
「一緒!嬉しい!」
 女性が笑顔で答える。知ってるわ、調査済みだもの。

「じゃあ、少しお茶してから美術館に行かない?」
 女性が嬉しそうに声を上げる。ユェルンは微笑んだ。

「いいわね。そうしましょうか。」
 手を上げて店員を呼ぶとアイスティーをオーダーする。終わると女性が、もじもじしながら俯いた。

「ねぇ、ユェルン。その……ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「なに?」
「この前メイニーがいるって、話してくれたじゃない?その、今同棲してるって。」
「あぁ、そう言えばそんな話したわね。」
「それって、その。どっちから告白して付き合うことになったの?」
「なに?気になるの?」
「まぁ、その……。」
「あぁ!この前言ってた好きな人に告白するの?」
 問われて女性が赤くなる。

「あら、図星?」
「う、うん。」
「ふふ。初々しいわね。」
「で、その。どっちから?」
「うーん。どうだろ?」
 クスクス笑いながら、はぐらかす。前回会った時どこに住んでいるのか聞かれてメイニーと同棲していると答えた。遠慮して聞いてこなくなるかと思ったら、返って興味を持たれてしまったなんて。面倒だわ。

 実際同棲はしているが、正確にはメイニーではなく標的、狩りの対象者だった。だから誰にも具体的な話をするつもりはない。

「後で教えてあげる。」
 とは言っても、あなたと会うのは今日で最後になる。永久に知る機会は訪れないわ。

 小柄で足がきれいな彼女はグラスの純血種。きっとオークションでは高値がつく。近づくために慣れないこともやったけど、それだけの価値はあるわ。

「本当?約束よ?」
 嬉しそうに笑う女性を見て、こんなふうに屈託なく笑えるのは今日で最後でしょうねと笑い返した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...