【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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Hauptteil Akt 4

siebenundvierzig

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 新が支店長から今月の売り上げについて報告を受けていると、マネージャーが困惑した顔で応接室を訪ねてきた。ここは笹川家が経営する靴の専門店で店舗数こそ限られているものの一人一人の足に合わせたオーダーを取る人気店の本店だった。

「オーナー、実はお客様が。」
「どうしたの?」
「お使いになられている言葉がどうも大陸圏の共通言語のようなのですが、速すぎて。私どもではリスニング出来ないのです。申し訳ないのですが、ご要望を聞き取る為お手をお貸し願えないかと。」
「そっか。いいよ、分かった。どちらにいらっしゃるの?」
 マネージャーに案内され、向かうとそこには早口で捲し立てる美しい女性が腕を組んで佇んでいた。

『失礼致します。ここからは私が案内させて頂きます。』
『良かった!やっと話が出来そう!ねぇ!この靴、とっても素敵ね?気に入ったわ!』
『ありがとうございます。当店ではお時間さえ頂ければお客様一人一人の足に合わせたものをフルオーダー出来ますが、如何なさいますか?』
『フルオーダー?靴を?どうやるの?』
『まず、フィッティングルームに入って頂きポインタで足を測定してデータを取らせて頂きます。そこから3Dプリンタでお客様の足のマネキンを作成し、そのマネキンを元に靴型をとっていきます。生地や皮、装飾や色を見本から選び、ヒールの太さや高さなど全てお好みでご指定頂けます。お持ちのお洋服やバッグ、帽子などに合わせて作られる方もいらっしゃいますよ。』
『何それ素敵!希望すればジュエリーとかも付けて貰えるの?』
『ええ、もちろん。物によってはお時間を頂く場合もございますが。』
『時間はあるからそれはいいの!ねぇ!早速マネキンを作って貰える?』
『畏まりました。』
『言葉が通じてないみたいだから、どうしようかと思ったわ。最初は話せていたのに。』
『誠に申し訳ございません。』
 苦笑する新は出来るだけゆっくり受け答えするようにした。意図を感じ取った女性が、はっとする。

『あ、もしかして私、速すぎたのかしら?』
『お恥ずかしい話ではありますが、天蒼では共通言語のリスニングが不慣れな傾向にあります。私は偶々仕事で国外に行くことがありますので、日常会話程度でしたら対応出来ると言った次第です。』
『そうだったの。それは悪いことをしたわ。今くらいの速さなら聞き取れるかしら?』
『お心遣いありがとうございます。問題ないかと存じます。』
『それでどこのお店に行っても最後はあまり話が通じなかったのね。天蒼に来たのは初めてだから、街を楽しんでたら素敵なものばかりなんだもの。ついつい興奮しちゃって。早口になってたのね、気をつけるわ。』
 女性が微笑んで視線を移すと、マネージャーが深々とお辞儀した。

『では、またここからお願い出来る?』
『はい。宜しくお願い致します。』

 そこからは順調に話が進んだ。美しい足のマネキンが出来上がり、それを物珍しげに眺めながら靴型を作っていく。大抵のお客様はたくさんの見本から悩みながら選ぶこの時間を何よりも楽しむ。合間に飲み物やお菓子も提供し、歓談しながら作っていくのだ。

『ねぇ、このお店って国外にはないの?』
『ございますよ。リージョンとディストリクト、どちらも首都のみの出店ではありますが、お客様のデータは全支店で閲覧できますので、どちらかにご足労頂ければ、今回のようにフルオーダー頂くことは可能です。』
『やったわ!』
 うきうきと嬉しそうに手を叩く。

『靴って服と違ってサイズが多少合わないだけで駄目じゃない?なのに今までフルオーダーはなかったんだもの。足に合わないとすぐ靴擦れしちゃうし。』
『合わない靴は足の形も歪めますし、姿勢にも響きます。最終的には腰痛や頭痛の原因にもなりますので、ご自分の足に合った靴を履かれることは重要だと思いますよ。』

 マネージャーが問題なく接客に入ったところを確認して新は考えた。今後もこう言ったことは増えてくるだろう。元々フルオーダーするような顧客は富裕層が多い。社員教育のために短期留学制度を考えた方が良いかもしれない。マネージャークラスなら国外店舗に短期赴任でもいい。その地で学んだ方が格段に習得効率は上がるだろうから。

『では、お客様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?』
 マネージャーが問いかける。

『クロエ・アシェルよ。』
 美しい女性が軽やかに微笑んだ。
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