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Hauptteil Akt 2
siebenundzwanzig
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篤臣は首を伸ばし、鳴らしながら瞳を瞑った。流石にここまで缶詰めになるとは思わなかった。正直もう限界が近い。
ウルに会いたい。
思い浮かぶ、愛しい人。毎日少しでも会いたくて通ったCarmで最後に会えたあの日、交わした言葉は挨拶だけだった。緊急の呼び出しがかかり、慌ててイロフネストへ戻るとそのままヘリであっという間に連れ出され今は遠い海の上。大きな客船に乗船したのち初めて説明を受け、携帯や身分証は取り上げられた。そのまま本家の指示に従って動いている。
せめて、電話出来れば。
携帯の番号も知らない。連絡するならCarmにするしかない。声だけでも聞けないだろうか。
ソファの背もたれに首を預け、仰向く。腕で目元を覆い溜め息を吐いた。
また余計な虫が寄ってきてはないだろうか。あいつが牽制するとは思うが、それだって面白くはない。
「くそっ!」
『珍しいね、篤臣がここまで苛立つのは。』
懐かしい声に、腕を下ろしてドアを見る。そこにはリージョンで親交を深めたフィンレーがジュードを伴い佇んでいた。
『……フィンレー?』
『久しぶりだね、篤臣。』
微笑んで中に入ってくると、向かいのソファに腰掛ける。背もたれの後ろにジュードが控えた。
『君、バトラーは付けないのかい?』
『……そういうのは、必要ないよ。』
『そう?貴宮のリーダーじゃないか。』
『なんで知ってるんだ?』
そのことはまだ、対外的な発表はしていない。訝しんで親友を見つめた。
『彪束から連絡を受けているからね。対応は分家の貴宮家リーダーに頼んだって。君のことだろう?』
『……もしかして。』
親友がなぜここにいるのか察して黙り込む。
『ああ。実はそうなんだ。君には出来るだけ知られたくはなかったんだけど。』
複雑そうな顔をするフィンレーに篤臣は苦笑した。
『それは君の一部であって全てではないだろう?』
『そうか。正直そう言ってもらえるとは思わなかった。嬉しいよ。』
僅かに緩んだフィンレーの雰囲気に、篤臣は居住まいを正す。
『それで。俺は何をすればいい?』
『ある男性に近づくため、協力して貰いたい。』
『分かったよ。』
『実はその為に来てもらったんだけど、準備に思いの外時間が掛かってしまってね。悪かった。』
フィンレーが申し訳なさそうに続ける。缶詰めの理由が知れて、苦笑した。
『不便は?なかったかい?』
『そうだな。出来れば私用の電話をかけたいかな。』
『電話?それくらい構わないよ。もちろん何をしているか話して貰っちゃ困るけど。』
『話さないよ。ただ、ずっと連絡してないから。』
『なるほどね。分かった。後で衛星電話を届けよう。』
『助かる。ありがとう。』
安堵して微笑んだ篤臣を見て、フィンレーは苦笑した。
きっと、恋人にかけるのだろう。脳裏に浮かぶ、茶色のショートヘア。漆黒の瞳。ほっそりとした肢体。いつだって背筋を伸ばし、周囲からの視線をものともせず気品ある佇まいだった彼女。リージョンで二人は常に一緒だった。
『どうかな?久しぶりの再会を祝して、夜は一緒に食事でも。』
『いいね。楽しみにしてるよ。』
立ち上がったフィンレーに篤臣は緩く手を振った。フィンレーが頷き、ジュードを伴って部屋を出ていく。ぱたん、と音がして再び静寂が部屋を包んだ。
ウルに会いたい。
思い浮かぶ、愛しい人。毎日少しでも会いたくて通ったCarmで最後に会えたあの日、交わした言葉は挨拶だけだった。緊急の呼び出しがかかり、慌ててイロフネストへ戻るとそのままヘリであっという間に連れ出され今は遠い海の上。大きな客船に乗船したのち初めて説明を受け、携帯や身分証は取り上げられた。そのまま本家の指示に従って動いている。
せめて、電話出来れば。
携帯の番号も知らない。連絡するならCarmにするしかない。声だけでも聞けないだろうか。
ソファの背もたれに首を預け、仰向く。腕で目元を覆い溜め息を吐いた。
また余計な虫が寄ってきてはないだろうか。あいつが牽制するとは思うが、それだって面白くはない。
「くそっ!」
『珍しいね、篤臣がここまで苛立つのは。』
懐かしい声に、腕を下ろしてドアを見る。そこにはリージョンで親交を深めたフィンレーがジュードを伴い佇んでいた。
『……フィンレー?』
『久しぶりだね、篤臣。』
微笑んで中に入ってくると、向かいのソファに腰掛ける。背もたれの後ろにジュードが控えた。
『君、バトラーは付けないのかい?』
『……そういうのは、必要ないよ。』
『そう?貴宮のリーダーじゃないか。』
『なんで知ってるんだ?』
そのことはまだ、対外的な発表はしていない。訝しんで親友を見つめた。
『彪束から連絡を受けているからね。対応は分家の貴宮家リーダーに頼んだって。君のことだろう?』
『……もしかして。』
親友がなぜここにいるのか察して黙り込む。
『ああ。実はそうなんだ。君には出来るだけ知られたくはなかったんだけど。』
複雑そうな顔をするフィンレーに篤臣は苦笑した。
『それは君の一部であって全てではないだろう?』
『そうか。正直そう言ってもらえるとは思わなかった。嬉しいよ。』
僅かに緩んだフィンレーの雰囲気に、篤臣は居住まいを正す。
『それで。俺は何をすればいい?』
『ある男性に近づくため、協力して貰いたい。』
『分かったよ。』
『実はその為に来てもらったんだけど、準備に思いの外時間が掛かってしまってね。悪かった。』
フィンレーが申し訳なさそうに続ける。缶詰めの理由が知れて、苦笑した。
『不便は?なかったかい?』
『そうだな。出来れば私用の電話をかけたいかな。』
『電話?それくらい構わないよ。もちろん何をしているか話して貰っちゃ困るけど。』
『話さないよ。ただ、ずっと連絡してないから。』
『なるほどね。分かった。後で衛星電話を届けよう。』
『助かる。ありがとう。』
安堵して微笑んだ篤臣を見て、フィンレーは苦笑した。
きっと、恋人にかけるのだろう。脳裏に浮かぶ、茶色のショートヘア。漆黒の瞳。ほっそりとした肢体。いつだって背筋を伸ばし、周囲からの視線をものともせず気品ある佇まいだった彼女。リージョンで二人は常に一緒だった。
『どうかな?久しぶりの再会を祝して、夜は一緒に食事でも。』
『いいね。楽しみにしてるよ。』
立ち上がったフィンレーに篤臣は緩く手を振った。フィンレーが頷き、ジュードを伴って部屋を出ていく。ぱたん、と音がして再び静寂が部屋を包んだ。
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