【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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Hauptteil Akt 1

sechzehn

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 いつもはウルがオーダーを取りに来てくれるのに、今日は知らない女性が取りに来た。

 篤臣は残念に思いながらもオーダーを済ませ、視線を巡らせるとウルを探した。カウンターにいたウルに先程の女性が駆け寄り、ぴたりと身を寄せ話し込んでいる姿が瞳に飛び込む。

 誰だ?

 今までウルに付き纏う男たちは、見つけるたびに気付かれないところで威圧し、牽制していた。もれなく尻尾を巻いて逃げ出す気概のない奴らばかりだった。本当はマーキング出来れば良いのだが勝手にする訳にはいかない。狗狼にマーキングさせるのも嫌だったので言わば苦肉の策だった。それも相手が男性だから出来たことであって、流石に自分より下位で、しかも女性相手に威圧を放つことなど出来ない。悶々と考え込んでいると女性がオーダーしたホットコーヒーを持って近寄ってきた。

「お待たせしましたぁ。」
「ありがとう。」
 短く返し、テーブルに置かれるのを待つ。そっと置いたかと思うと話しかけられた。

「あのぅ。私ぃ。週末だけバイトに入ることになった枝反 茉莉って言いますぅ。」
 唐突に自己紹介されて面食らう。

「それでぇ。もしよろしければぁ。お名前伺っても良いですかぁ?」
 恥ずかしそうに身を捩りながら上目遣いで見つめてくる茉莉に篤臣は黙り込んだ。視線をちらりとウルに移すが背を向けていて顔が見えない。

「新しいバイトさんなんだね。」
「えへへ~。バイトさんなんてぇ。茉莉って呼んでください~。」
 なかなかどうして。ぐいぐいくる。篤臣は苦笑して返した。

「申し訳ない。初対面で名乗り合うのは仕事以外では慣れなくて。」
 やんわりと断る。が、気付いているのかいないのか。茉莉は積極的だった。

「だったら~。もっとお話し出来る機会作ってもらえませんかぁ?その時に名前教えて下さい~。バイト終わるのもうすぐなんでぇ。どうですかぁ?」

 どうですかも何も。会いにきてるのはウルであって君じゃない。しかし対応を間違えるとウルにも迷惑がかかるかもしれないと思った。先程見た感じ二人は親しげだった。もしかしたら友だちなのかもしれない。そんな相手を無碍にしてウルに嫌われたら。愛想笑いを浮かべ、答える。

「それは難しいかな。仕事に戻らないといけなくて。すまない。」
「あーん。お仕事なんですかぁ?それじゃ仕方ないですぅ。」
 残念そうに茉莉が俯いた。こう言うアプローチは今までもあった。全てウルのいないところだったので、冷たく遇らうこともあれば適当に相手をすることもあった。だがここはウルのホームで彼女は同僚だ。なるべく誠意を見せた対応をしなければならない。

「じゃあ、次の週末必ず会いにきてください~。」

 これを言われて再来店したら本当に茉莉狙いで来たと取られかねない。どうしたものかと返答に困っていたら足取り軽く戻って行った。そのままウルに視線を戻すと茉莉が腕にぶら下がり、身を寄せて話しかけている。

 もやもやした気持ちをコーヒーと一緒に飲み込んで、その日はCarmを後にした。
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