【完結】R-18 逃がさないから覚悟して

遥瀬 ひな

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sechs

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「ウルちゃん。クロくんと一緒にいるの、誰?」
 ふみちゃんがカウンターに身を乗り出して聞いてきた。グラスに水を注ぎながら答える。

「んと。同級生。」
「へぇー。彼、純血種だよね?しかも上位種。」
「豹みたい。」
「そうなの?わー。そりゃまた。イケメンなわけだ。」
 うんうんと頷きながらジュースを啜る。ふみちゃんは狗狼のパートナー。妊娠してて、もうすぐ生まれる。三つ子なんだって。
 ふみちゃんも狼だから、群れに純血種が増えることになる。しかもリーダーの子供だから群れ全体でお祝いムード。別に他のフェイが入っても深沢は気にしない一族だけど、やっぱり純血種が増えるのは嬉しいみたい。

 ちらりと視線をやると、貴宮くんのテーブルで話し込んでる狗狼が見えた。二人ともどちらかというと、全体的に満遍なく筋肉が付いた体躯をしてる。がっしりと言うよりは、しなやかだ。身長も高いから、見栄えする。

「でもクロくんの方が、かっこいい!」
「そう?」
「あれ?ウルちゃんの好みは、あっち?」
 なんとなく、面白くなくて言い返しちゃった!僕のばか!

「ち、ちがう。ちがうよ。」
「……ふぅん。」
 にまにま笑いながら覗き込まれる。ふみちゃん恋バナ好きなんだもん。困った。

「ウルちゃん~。紹介してよ~豹くん~。」
「む、むりだよ。僕親しくないもん。」
「え~。いいじゃん~。ね?いこ?」
 言うが早いか立ち上がって、注ぎ終わったグラスを二つ持つと歩き出す。

「ふみちゃん!危ないよ!」
「お水運ぶくらいで?」
「転けちゃったらどうすんの?!両手塞がってるし!」
 追いかけて取り上げる。

「ウルちゃんじゃあるまいし。転けないわよ。」
 うぐっと詰まる。その一言には言い返せない。だって僕よく転けちゃうし。

「と、とにかく。僕が持ってくから。」
「はーい。」

 二人でテーブルに近づくと、狗狼の背中で見えなかったテーブルの上が見えて唖然とした。

 なんで、手握り合ってんの?

「クロくん。」
「お、ふみ。」
「ね、紹介して?」
「あーと。いや、いらねぇだろ。」
「えー。お友だちでしょ?」
「ちげぇし!どこが!」
「じゃなんで手握り合ってんの?」
「これは勝負だ!」
「んー。よく分かんない。」
 ふみちゃんに全面同意する。なんでそんな、がっちり?

「初めまして。貴宮 篤臣たかみや あつおみと申します。深沢くんと桜庭さくらばくんとはクシュダートの同級生です。」
「初めまして。クロくんのパートナー、深沢 ふみです。」
 握り合ってた手を離して、二人が挨拶し合う。見たことない貴宮くんの柔らかい笑顔に胸がつきんとした。

 僕以外の人には、いつも見せてる笑顔。僕だけは一度も見たことない笑顔。

 きゅうっと胸が痛くなる。そっとグラスを置いた。

「えと、ご注文は。」
「あ、いらね。こいつもう帰るから。」
 狗狼が片手をひらひらさせて答える。貴宮くんを見ると狗狼を見ながら口を開いた。

「勝手に決めないでもらえるかな?せっかく来たのに。」
「しつっけえな。渡さねぇっつってんだろ。」
「過保護すぎだろう。」
「足りねぇくらいだわ。」
 二人の掛け合いを見てたら、だんだん疎外感が強くなる。最近いつもそう。なんだかんだ仲良いよね。

 ぺこりとお辞儀して、離れた。注文があれば狗狼かふみちゃんが取ってくれる。ふみちゃん元々ホールだし。今は産休中だけど。

 厨房に駆け込むと、おばあちゃんが顔を上げた。
「ウル。これ、お願いね。」
 他のテーブルへ持って行くアイスティーとサンドイッチを渡される。頷いて受け取った。

 仕事、しなきゃ。

 どんどん欲張りになる。あの日、たくさん泣いて諦めたはずなのに。

 くすんと鼻を鳴らして厨房を出た。そんな僕を貴宮くんが見てるなんて知らなかった。
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