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événement principal acte 33 交渉
Cinq
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ロドスがフラフラと立ち上がり、侍従たちに支えられ貴賓室から出て行くのをブラッドリーは眺めた。今回のことは相当堪えたらしい。
娘が王族との婚約を二度も駄目にしたことか。
それとも娘が乱交していたことか。
どちらが堪えたのか、それとも両方か。どちらにせよ、今朝のことは衆目に晒された。ものすごい速さで噂が広まっている。
ブラッドリーとの婚約は訪問した二日後にはロドス主導で結ばれ、デビュタントまでの一ヶ月、時間を取ってはなるべく二人で過ごしてきた。王宮の案内や庭園での散策。二人きりでのお茶会。傍目には仲睦まじく交流を深めていっているように見えた為、そこかしこで婚約したのではと囁かれていたのだ。聞かれた宰相は否定しないし、国王は機嫌良くブラッドリーを歓待している。正式発表こそまだないが確定だろうと言われていた。
何よりロゼリアの周辺は俄かに騒がしくなり、まるでどこか旅にでも出るのかと言うくらい荷物をまとめる準備がなされていた。
ブラッドリーは婚約が調うやいなや帰国の際、是非ロゼリアを連れて帰り海に囲まれる我が国を見てもらいたいと願い出ていた。国王は二つ返事で頷き、予定ではデビュタントの半月後に連れて行くはずだったのだ。
ブラッドリーは娘ほど歳の離れた王女に溺れているように見せていた。手放したくないのだと嘯けばソーンダイクから出さず、色んなことに利用出来る。未だ同盟の確約が得られていない今、どんなにロゼリアが美しいだけのハリボテでも手放すわけにはいかない。
だったんだが、これは僥倖。
国力で劣り、血筋でも劣る。だから有効な手札もない。こちらから差し出せるものは正妃の座くらいだったのだ。それがロゼリアのおかげでかなり増えた。珍しく朝早くから目が覚めて、うろついていただけだったが。ツキが味方したか。
さあて。王女の代わりに高位貴族の娘を差し出せと言うのもいいな。
舌なめずりしながら宰相と外交大臣に視線を戻すと二人がこのまま少し話があると言う。
頷くと思わぬ提案がなされた。
「実は。今回の婚約、先ずはお受けする前に王女殿下の身辺を洗い、瑕疵がないかを確認してから判断するつもりでおりました。ですが話を頂いた国王陛下はお受けすると自らそちらに手紙を認められたと。本当に面目次第もございません。」
スタンリーと一緒に頭を下げる。
つまり、国王が勝手にやったことだと。そう言いたいのか。まぁ、確かにあれではなぁ。苦労するだろうな。
「国王陛下は今回のことでかなりのご心痛を受け、しばらくの間、静養が必要になるかと思われます。そこで、もし。ソーンダイク陛下が望まれるのならこれを機に国王陛下にはお身体を休めて頂きたいと。」
譲位させると仄めかされ、ブラッドリーは思案した。確か王太子がいた。この一ヶ月、何度か会って言葉を交わしたが、あれは頼りない。まあまだ若いし、これから育つのかもしれんが、それまでは宰相を始めとした賢臣たちが周りを固めシーヴァス王国を動かすのだろう。ということは。
「私としては、お身体を休められた後は、これまで通りシーヴァス陛下とお付き合いしたいと思っている。」
何故弱みを握った相手から、わざわざ瑕疵のない王太子に変える必要がある。せっかくのアドバンテージが無くなるだろう。
譲位させて王太子が即位すれば実際これから相手にするのは宰相たちになる。それは今と大して変わりがないように見えるかもしれないが、ロドスは腐っても王。少なくとも賢臣たちの頭を押さえ込み、我を通すだけの力がある。見たところ、あの王太子にはそれが出来ない。なれば賢臣たちの力が増すではないか。わざわざ扱いにくい相手に力を与えるか、どあほうが。
「それは……寛容なお言葉。痛み入ります。」
「では。王女殿下について何かご意向は。」
スタンリーは思うような返事が引き出せず、ハミルトンが話を変える。
「王女殿下か……。そうだな。」
あの部屋からはお馴染みの匂いがした。実際にブラッドリーはロゼリアたちの痴態を見て、嗅いだのだ。
私が偶に閨で焚く媚薬香だった。あそこまで匂うほど焚くと前後不覚になる。
すごいのは情交の記憶だけは無くならないのだ。どれだけ乱れたか。全て覚えている。だからもし、同意を得ない場で使われたのだとしたら。
気が狂うかもしれんなあ。
「婚約はなくなったのだ。そちらで好きにして構わない。」
娼婦ほど手練手管に秀でているわけでもない。才女と言われるほど賢いわけでもない。そして有力な貴族との繋がりがあるわけでもない。あるのは王女という肩書きと、いずれは必ず衰える美貌だけ。
いまさら連れ帰ってそばに置いたところで邪魔にしかならん。
「畏まりました。」
ハミルトンが頷く。恐らくブラッドリーに対する誠意を見せるとかで王女だけでも片付けるつもりだろう。好きにすればいいさと微笑んだ。
娘が王族との婚約を二度も駄目にしたことか。
それとも娘が乱交していたことか。
どちらが堪えたのか、それとも両方か。どちらにせよ、今朝のことは衆目に晒された。ものすごい速さで噂が広まっている。
ブラッドリーとの婚約は訪問した二日後にはロドス主導で結ばれ、デビュタントまでの一ヶ月、時間を取ってはなるべく二人で過ごしてきた。王宮の案内や庭園での散策。二人きりでのお茶会。傍目には仲睦まじく交流を深めていっているように見えた為、そこかしこで婚約したのではと囁かれていたのだ。聞かれた宰相は否定しないし、国王は機嫌良くブラッドリーを歓待している。正式発表こそまだないが確定だろうと言われていた。
何よりロゼリアの周辺は俄かに騒がしくなり、まるでどこか旅にでも出るのかと言うくらい荷物をまとめる準備がなされていた。
ブラッドリーは婚約が調うやいなや帰国の際、是非ロゼリアを連れて帰り海に囲まれる我が国を見てもらいたいと願い出ていた。国王は二つ返事で頷き、予定ではデビュタントの半月後に連れて行くはずだったのだ。
ブラッドリーは娘ほど歳の離れた王女に溺れているように見せていた。手放したくないのだと嘯けばソーンダイクから出さず、色んなことに利用出来る。未だ同盟の確約が得られていない今、どんなにロゼリアが美しいだけのハリボテでも手放すわけにはいかない。
だったんだが、これは僥倖。
国力で劣り、血筋でも劣る。だから有効な手札もない。こちらから差し出せるものは正妃の座くらいだったのだ。それがロゼリアのおかげでかなり増えた。珍しく朝早くから目が覚めて、うろついていただけだったが。ツキが味方したか。
さあて。王女の代わりに高位貴族の娘を差し出せと言うのもいいな。
舌なめずりしながら宰相と外交大臣に視線を戻すと二人がこのまま少し話があると言う。
頷くと思わぬ提案がなされた。
「実は。今回の婚約、先ずはお受けする前に王女殿下の身辺を洗い、瑕疵がないかを確認してから判断するつもりでおりました。ですが話を頂いた国王陛下はお受けすると自らそちらに手紙を認められたと。本当に面目次第もございません。」
スタンリーと一緒に頭を下げる。
つまり、国王が勝手にやったことだと。そう言いたいのか。まぁ、確かにあれではなぁ。苦労するだろうな。
「国王陛下は今回のことでかなりのご心痛を受け、しばらくの間、静養が必要になるかと思われます。そこで、もし。ソーンダイク陛下が望まれるのならこれを機に国王陛下にはお身体を休めて頂きたいと。」
譲位させると仄めかされ、ブラッドリーは思案した。確か王太子がいた。この一ヶ月、何度か会って言葉を交わしたが、あれは頼りない。まあまだ若いし、これから育つのかもしれんが、それまでは宰相を始めとした賢臣たちが周りを固めシーヴァス王国を動かすのだろう。ということは。
「私としては、お身体を休められた後は、これまで通りシーヴァス陛下とお付き合いしたいと思っている。」
何故弱みを握った相手から、わざわざ瑕疵のない王太子に変える必要がある。せっかくのアドバンテージが無くなるだろう。
譲位させて王太子が即位すれば実際これから相手にするのは宰相たちになる。それは今と大して変わりがないように見えるかもしれないが、ロドスは腐っても王。少なくとも賢臣たちの頭を押さえ込み、我を通すだけの力がある。見たところ、あの王太子にはそれが出来ない。なれば賢臣たちの力が増すではないか。わざわざ扱いにくい相手に力を与えるか、どあほうが。
「それは……寛容なお言葉。痛み入ります。」
「では。王女殿下について何かご意向は。」
スタンリーは思うような返事が引き出せず、ハミルトンが話を変える。
「王女殿下か……。そうだな。」
あの部屋からはお馴染みの匂いがした。実際にブラッドリーはロゼリアたちの痴態を見て、嗅いだのだ。
私が偶に閨で焚く媚薬香だった。あそこまで匂うほど焚くと前後不覚になる。
すごいのは情交の記憶だけは無くならないのだ。どれだけ乱れたか。全て覚えている。だからもし、同意を得ない場で使われたのだとしたら。
気が狂うかもしれんなあ。
「婚約はなくなったのだ。そちらで好きにして構わない。」
娼婦ほど手練手管に秀でているわけでもない。才女と言われるほど賢いわけでもない。そして有力な貴族との繋がりがあるわけでもない。あるのは王女という肩書きと、いずれは必ず衰える美貌だけ。
いまさら連れ帰ってそばに置いたところで邪魔にしかならん。
「畏まりました。」
ハミルトンが頷く。恐らくブラッドリーに対する誠意を見せるとかで王女だけでも片付けるつもりだろう。好きにすればいいさと微笑んだ。
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