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événement principal acte 28 取引
Quatorze
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エリオットは黙って最後まで聞き、口を開いた。
「分かりました。」
「では。」
「はい。お譲りします。」
「ありがとう。助かったよ。」
「ありがとうございます。」
オーウェンの隣でデイルも頭を下げる。
「ただし、条件が三つ。それを飲んでいただけるのなら。」
「聞かせてくれ。」
「一つ、アンシェルの功績を盾にイゾルト公爵令嬢に望まぬ婚約を強いたりしないと約束を。」
「もちろんだ。約束する。」
「一つ、アンシェルを我がアーガン伯爵領から譲り受けたことは漏らさないと秘匿契約を結ぶこと。」
「分かった。」
「一つ、アンシェルの調査研究は向こう五十年一切行わないこと。」
「良いだろう。しかし、その三つで本当に良いのか?」
「どう言う意味でしょうか?」
「もっと他には?例えばそうだな、王女をどうにかして欲しいとか。」
「それは自分で致します。」
「……この取引では、得るものが少ないだろう?」
「そう思われますか。」
「ああ。」
「だとしたら、私は欲しいものを手に入れたことになります。」
「……どう言う意味だ?」
「この大陸序列一位のテレンシア皇国皇弟オーウェン・テレンシア殿下に恩を売ったことになります。これほど大きな貸しはないかと。」
そう言ってカップを取ると口を付ける。静かに反応を待っていると笑い声が響いた。
「ははははははは!確かに!私はアーガン伯爵に借りを作ったと言うことか!ははははは!」
隣でデイルが苦笑する。
「ありがとう、アーガン伯爵。」
「さて。何のことでしょうか。お礼を言うのはこちらの方です。最強のカードを手に入れたのは私ですから。」
「ふっふふ。私をカード呼ばわりか。ますます気に入ったよ、フェリがあなたに助けを求めるはずだ。」
「買って頂くのは有難いのですが。所詮一介の伯爵風情です。出来ることは限られております。」
そっとカップをソーサーに戻し向き直る。
「慎ましいと言えば聞こえは良いが。あなたのそれは少し嫌味だ。」
「お褒めの言葉と受け取らせて頂きます。」
笑顔を作って返すとデイルが吹き出した。
「オーウェン様、アーガン伯爵は相当手強い。」
「王家が躍起になって欲しがるわけだな。」
その言葉には渋面を作ってしまう。気持ちを切り替えて続けた。
「では、契約を。もう少し話を詰めてもよろしいでしょうか。」
「ああ、頼む。」
ベルを鳴らし、ノーマンを呼ぶ。アッシュとライが皇弟とその側近と知り一瞬顔が強張りはしたが堪え、紅茶を淹れ直した。
終わると羊皮紙とペン、インク、紋章印を持ってくるよう伝える。
頷き退室するとすぐに用意された。
再び人払いをしてから取り掛かる。
それから三人で契約内容を話し合い、決めていった。全て書面に起こし、オーウェンの署名と皇弟印が押され、エリオットの署名とアーガン伯爵家の紋章印が押される。
同じものを二部作り、デイルが記入違いや齟齬がないか確認した。
「問題ありません。」
「よし。」
オーウェンが息を吐く。
「では、イゾルト公爵令嬢に急ぎ土壌生成を依頼してください。準備が整い次第、種苗を送ります。」
「……ああ。その。土壌生成だが、時間はかかるのかな?」
「これはイゾルト公爵令嬢に確認して頂きたいのですが。恐らく皇弟殿下が拝領したグルベンキアンはアーガン伯爵領の土壌と似ています。」
「そうなのか?」
「はい。以前イゾルト公爵令嬢が我が領地の土を嗅いだ時、ところでこの土の匂い、なんか嗅いだ覚えあるんだけど、と仰いました。その後で似た土壌の候補地として名が上がったのがグルベンキアンです。」
「そうだったのか。」
「はい。」
「分かった。フェリに調査依頼と土壌生成の依頼を出す。皇弟からの仕事だから直ぐに皇都から出すことが出来るだろう。」
「ソーンダイク国王はいつまで滞在予定なのですか。」
「それが当初の滞在期間は過ぎていると言うのに何かしら理由をつけては皇宮に居座っているんだ。余程皇国との繋がりが欲しいらしい。」
「後ろ盾のない新生の共和国ですからね。」
「だからと言ってフェリを渡すつもりはない。」
拳を握りしめるオーウェンを見て、これが最後と決意しているのだろうと知れた。
フェリシテはアッシュがオーウェンだと最後まで気付くことはなかった。
どちらにとっても幸せな結末となれば良いが、難しいかも知れない。
だが愛する人を得るために努力し続けるオーウェンの愛は、父の歪んだ愛とは全くの別物で、少しだけ応援したい気持ちになった。
「分かりました。」
「では。」
「はい。お譲りします。」
「ありがとう。助かったよ。」
「ありがとうございます。」
オーウェンの隣でデイルも頭を下げる。
「ただし、条件が三つ。それを飲んでいただけるのなら。」
「聞かせてくれ。」
「一つ、アンシェルの功績を盾にイゾルト公爵令嬢に望まぬ婚約を強いたりしないと約束を。」
「もちろんだ。約束する。」
「一つ、アンシェルを我がアーガン伯爵領から譲り受けたことは漏らさないと秘匿契約を結ぶこと。」
「分かった。」
「一つ、アンシェルの調査研究は向こう五十年一切行わないこと。」
「良いだろう。しかし、その三つで本当に良いのか?」
「どう言う意味でしょうか?」
「もっと他には?例えばそうだな、王女をどうにかして欲しいとか。」
「それは自分で致します。」
「……この取引では、得るものが少ないだろう?」
「そう思われますか。」
「ああ。」
「だとしたら、私は欲しいものを手に入れたことになります。」
「……どう言う意味だ?」
「この大陸序列一位のテレンシア皇国皇弟オーウェン・テレンシア殿下に恩を売ったことになります。これほど大きな貸しはないかと。」
そう言ってカップを取ると口を付ける。静かに反応を待っていると笑い声が響いた。
「ははははははは!確かに!私はアーガン伯爵に借りを作ったと言うことか!ははははは!」
隣でデイルが苦笑する。
「ありがとう、アーガン伯爵。」
「さて。何のことでしょうか。お礼を言うのはこちらの方です。最強のカードを手に入れたのは私ですから。」
「ふっふふ。私をカード呼ばわりか。ますます気に入ったよ、フェリがあなたに助けを求めるはずだ。」
「買って頂くのは有難いのですが。所詮一介の伯爵風情です。出来ることは限られております。」
そっとカップをソーサーに戻し向き直る。
「慎ましいと言えば聞こえは良いが。あなたのそれは少し嫌味だ。」
「お褒めの言葉と受け取らせて頂きます。」
笑顔を作って返すとデイルが吹き出した。
「オーウェン様、アーガン伯爵は相当手強い。」
「王家が躍起になって欲しがるわけだな。」
その言葉には渋面を作ってしまう。気持ちを切り替えて続けた。
「では、契約を。もう少し話を詰めてもよろしいでしょうか。」
「ああ、頼む。」
ベルを鳴らし、ノーマンを呼ぶ。アッシュとライが皇弟とその側近と知り一瞬顔が強張りはしたが堪え、紅茶を淹れ直した。
終わると羊皮紙とペン、インク、紋章印を持ってくるよう伝える。
頷き退室するとすぐに用意された。
再び人払いをしてから取り掛かる。
それから三人で契約内容を話し合い、決めていった。全て書面に起こし、オーウェンの署名と皇弟印が押され、エリオットの署名とアーガン伯爵家の紋章印が押される。
同じものを二部作り、デイルが記入違いや齟齬がないか確認した。
「問題ありません。」
「よし。」
オーウェンが息を吐く。
「では、イゾルト公爵令嬢に急ぎ土壌生成を依頼してください。準備が整い次第、種苗を送ります。」
「……ああ。その。土壌生成だが、時間はかかるのかな?」
「これはイゾルト公爵令嬢に確認して頂きたいのですが。恐らく皇弟殿下が拝領したグルベンキアンはアーガン伯爵領の土壌と似ています。」
「そうなのか?」
「はい。以前イゾルト公爵令嬢が我が領地の土を嗅いだ時、ところでこの土の匂い、なんか嗅いだ覚えあるんだけど、と仰いました。その後で似た土壌の候補地として名が上がったのがグルベンキアンです。」
「そうだったのか。」
「はい。」
「分かった。フェリに調査依頼と土壌生成の依頼を出す。皇弟からの仕事だから直ぐに皇都から出すことが出来るだろう。」
「ソーンダイク国王はいつまで滞在予定なのですか。」
「それが当初の滞在期間は過ぎていると言うのに何かしら理由をつけては皇宮に居座っているんだ。余程皇国との繋がりが欲しいらしい。」
「後ろ盾のない新生の共和国ですからね。」
「だからと言ってフェリを渡すつもりはない。」
拳を握りしめるオーウェンを見て、これが最後と決意しているのだろうと知れた。
フェリシテはアッシュがオーウェンだと最後まで気付くことはなかった。
どちらにとっても幸せな結末となれば良いが、難しいかも知れない。
だが愛する人を得るために努力し続けるオーウェンの愛は、父の歪んだ愛とは全くの別物で、少しだけ応援したい気持ちになった。
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