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événement principal acte 15 婚約

Douze

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 その日エリオットは別邸に赴き、ティアナの進学先の希望を聞いていた。
 まだ、迷っているらしい。

「学校にしてはどうだ?」
「どうして?」
「学園では淑女科を選ぶことになるだろうが、主に社交と人脈作りのためだろう?」
 こくん、とティアナが頷くのを見てエリオットは頬を緩めた。

「アーガン伯爵家に社交は必要ない。」
「そうなの?」
「ああ。他の貴族家とは距離がある方が望ましい。貴族社会での立ち位置が違うんだ。」
 きょとんと見上げてくるティアナの頬を包んで撫でる。

「我が家門は【王国の盾】と言われている。有事の時は何よりも王国を守れと盟約を結んでいるからだ。だからこそ常に公正に中立でなければならない。特別親しくして便宜を図ることなどないように。もちろん、友人を作るなと言うことではない。私情や私益に左右されるような関係を結ぶなと言うことだ。」
「そうなのね、分かったわ。」
 ティアナはすりすりとエリオットの手のひらに頬を擦り寄せながら答えた。
 婚約を受けてから、エリオットは以前よりも良くこうして触れるようになった。髪を撫でたり、頬を撫でたり。剣ダコがあり、少し硬くて大きな手は優しく、いつもティアナは幸せな気持ちになる。

「だから、上辺だけの社交は必要ない。寧ろしない方がいい。母がここにいて社交をしていたのは、なかなか婚約がまとまらない私の為だ。極端な話タウンハウスはなくても困らない。」
 びっくりしたティアナを見て、微笑みながら手を離す。

「さて。ティアナ。どちらにする?」
「ありがとう、お兄様。私、学校にします。」
「分かった。」
「ふふふ。楽しみ。」
「色々と準備をしなければいけないな。アリー様とセリーナによく相談するように。」
 アリーの名が出ると、途端にティアナの表情が翳った。エリオットがどうしたのかと問いかけるより先にティアナが話を変えてしまう。

「あの、お兄様。婚約はいつ、発表するの?」
「ん?ああ。年が明けたらすぐだ。そうだな、その後は一ヶ月ほど領地に戻ろうと思っている。」
「そうなの?また、会えなくなっちゃうの?」
 悲しそうに見上げてくるティアナの髪をそっと撫で、指先にくるくると巻きつける。

「いや、お前も連れて行く。領地を案内しよう。婚約者として皆に紹介もしたい。」

 途端にぱあああっと表情が輝いた。淑女教育で表情を出すことは良しとされていないがエリオットはティアナの素直なところを好ましく思っている。このままでいて欲しいと思うし自分の言葉で喜んでくれるのは嬉しい。
 自然とエリオットも笑顔になる。

「嬉しいです、お兄様。すごく楽しみ。あ、ロロも連れて行って良いのかしら。」
「構わないが、領地まで片道五日を見ている。その間ずっと馬車に乗っているが平気そうか?」

 カーリア男爵領は王都から程近く、片道二日もあれば着く距離だった。アーガン伯爵領は王都から離れており、体力のあるエリオットだからこそほぼ一日中馬車に乗って移動出来るので三日で着くことが出来た。だが女性や子供を同伴するとなれば、ゆっくり時間をかけて移動することになる。余裕を見て五日はかかると思われた。

「そうなのね、だったらお留守番だわ。」
 残念そうに頷いた。髪から手を離し、そっと左手を握る。

「アリー様とも少しの間離れることになるが、大丈夫か?」
「ええ。大丈夫。心配してくれてありがとう、お兄様。」
 にっこり笑ったティアナを見て、エリオットも笑い返した。

 しかし、ティアナの表情が翳ったことは、いつまでも気に掛かっていた。
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