【完結】R-15 私はお兄様を愛している

événement principal acte 13 暗躍

Quatre

　なんとなく、あの侍女は苦手。

　ティアナは客室のソファに座っていた。隣にはロロがいて、頭と両前脚をティアナの腿に乗せている。優しく頭を撫でながら、考え込んでいた。

　中庭でロロと遊んでいたら応接室に入ってきた侍女が花瓶の花を変えた後、急に話しかけてきた。びっくりして思わず頷いたが笑顔なのに目は昏く笑っていなかった。

　怖い。

　ブリジットのように分かりやすく嫌なことを言われたわけではない。けれどどことなくティアナを下に見ている気がした。
　すぐにエマが追い出してくれたけれど、あの侍女はまた近寄ってくる気がする。

　ぶるっと震えているとノックが鳴った。

　エマが応えてエリオットがラッセルとアントンを伴い入室してくる。途端にほっとした。
　見つめているとソファに近寄り、ティアナの前で床に片膝をつく。

「ティアナ。」
「お兄様。」

　自分が不安だったことを自覚したら自然と両手を伸ばしていた。
　ロロが避け、そのまま立ち上がるとエリオットの首にしがみつく。

　きゅうっと抱きつくと抱きしめ返してくれた。そのまま立ち上がり、ソファに座るとティアナを膝に乗せたまま顔を覗き込む。

「話せるか？」
「はい。」
　こくんと頷くと感じたことを話した。
　目が怖かったこと。何となく、馬鹿にされていると感じたこと。そしてまた、近寄ってきそうで怖いこと。

　話しているうちに涙が溢れた。ブリジットとケイシーにされたことを思い出し、かたかたと震える。
　エリオットは胸に抱き寄せると両腕で囲い込み、背中を撫でた。

「大丈夫だ。もう近寄らせない。」
「お兄様…お兄様……。」
　ぐずぐず泣いて顔を埋める。

「大丈夫だ。大丈夫。」

　何度も何度もそう言いながら，エリオットはティアナの背中を撫でた。

　細くて柔らかい、力を込めたら壊れてしまいそうだ。

　ティアナをこんなに泣かせるとは。

　怒りが込み上げた。