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événement principal acte 9 反撃

Onze

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 ホテル、メルローズのラウンジに視線を集める一角があった。

 全身黒で身を包み、すらりとした長身を堂々と一人掛けソファに身を沈めたエリオットは三人を睥睨した。
 明らかに場を支配している雰囲気に、周囲の貴族たちはチラチラと好奇の視線を寄越す。

 エリオットが現れるまで呑気に紅茶で喉を潤し、三人でこれからどうやってご機嫌取りをするか軽口を叩いていた空気は嘘のように張り詰めていた。

 いつまで経っても口を開かない三人にエリオットは溜め息を吐いた。

「時間は有限だ。」
 ポカンとこちらを見る三人に対して揃いも揃って阿呆面だな、と呆れる。

「謝罪する気がないのなら、そう言え。」
 一際通る声でそう言い放つと周囲が騒ついた。
 慌てたようにマーカスが身を乗り出す。

「いや。そう言うつもりは。」
「言い訳は聞き飽きた。手紙を含めてこの場で三度目だ。」
 ブリジットの両親、パーマー子爵夫妻が顔色を変える。
 マーカスが口を挟んだ。

「アーガン伯爵様。こちらパーマー子爵家当主リック・パーマー様と夫人のゼルネ・パーマー様です。」
 貴族の挨拶は爵位が上のものから声をかけるか、面識のあるものが紹介して初めて出来る。この場は謝罪の場でエリオットから声を掛けることはなく、マーカスが間に立ち紹介するのが常識だった。
 いつまで経っても他人事のマーカスにうんざりする。

「アーガン伯爵様。この度は、大変申し訳ございませんでした。」
「申し訳ございませんでした。」
 二人揃って頭を下げる。エリオットは何も答えず、置かれた紅茶に口をつけた。
 ソーサーに戻すと、答える。

「マーカス・オルコット殿から聞いているだろうが、ご息女は解雇した。引き取りを頼んだが、連絡がないのでな。仕方なく王都憲兵団に引き渡した。」
「あの、そのことなのですが。先日引き取りに伺いましたが、取次いで頂けなかったのです。」
 パーマー子爵の言葉にパーマー子爵夫人も頷く。

「謝罪の手紙どころか先触れもなく、タウンハウスに押しかけて来た不審者の話なら聞いたが。パーマー子爵夫妻だったのか?」
 惚けて返すと二人は顔を赤らめて俯いた。マーカスが取りなす。

「娘が大変だと取るものもとりあえず訪問してしまったんだ。許してやってはもらえないだろうか。」
「病気や怪我なら分かる話だが。暴力沙汰を起こして解雇となり両親が引き取りに来ると言う話だったはずだろう。」
「そのことですが、暴力というのは間違いではないかと。娘は否定しているのです。」
 口を挟んだパーマー子爵夫人を見ると、悲しそうな表情で言い募った。パーマー子爵も頷くのでマーカスを見る。自分は関係ないと視線を逸らした。

「実際に複数の証言と、その裏も取れた。訴えは妥当だと認められたから収監されたんだ。処置としては妥当だろう。」
「ですが。」
「何か勘違いをしていないか?」
 足を組んで背もたれに身を預ける。

「この場は私が謝罪を受ける場であって無実を訴える場ではない。」
 三人の顔をそれぞれ見るとはっきり口にした。

「さっさと謝罪をして終わりにしてもらえないか。もう関わるのも疲れるのでね。」

 うんざりとした顔を隠しもせず告げると、三人は押し黙った。
 やがてマーカスが口を開く。

「紹介をした私にも、責任がある。申し訳なかった。アーガン伯爵様にもそうだが、親友とは言え受け入れてくれたクリスにも悪いことをしたと思っている。」
 ここで父のことを持ち出す浅ましさに吐き気がする。

「マーカス殿に甘えてしまった私も悪いのです。娘にはきちんと言って聞かせます。なんでもアーガン伯爵様とは貴族学園で面識があったとか。学生気分が残っていたのやもしれません。申し訳ございません。」
 これを謝罪というのか。マーカスの尻馬に乗ってパーマー子爵夫人が縋るようにエリオットを見つめてくる。わざわざ手で口元を隠し涙を溢す。

 エリオットは立ち上がると、三人を見下ろした。

「マーカス・オルコット殿。自身で認めた通り紹介をしたあなたにももちろん、責任がある。オルコット侯爵とあなたの見解が一致していて安心した。今後、一切アーガン伯爵家はあなたとの付き合いを断る。父にも二度と関わらないように。それなら謝罪として受け入れよう。」
 淡々と告げると、パーマー子爵夫人を無視してパーマー子爵を見た。

「それから今、ご息女が虚言しか吐いていないとパーマー子爵夫人の言葉でよく分かった。私は騎士科に在籍していたものでね、ご息女とは会話は疎か会ったことすらない。仮に面識のあったご令嬢が我がアーガン伯爵家に使用人として雇われていたとして。」
 そこでパーマー子爵夫人を見る。

「学生気分が抜けきれないような常識外れはすぐに解雇する。問題しか起こさないからな、今回のように。」

 周囲の視線を集め、エリオットはパーマー子爵に視線を戻した。わざと首を傾げて声を顰める。周囲には聞こえないよう声を落とした。

「謝罪は結構だ。今後会うこともないだろう。だが再び娘が私やアーガン伯爵家の周囲に姿を現した時は容赦しない。」
 そこでちらっとマーカスを見る。先程父を持ち出したことを許すつもりはなかった。

「しかし、パーマー子爵夫妻とあなたが並んでいるところを初めて見たが驚いた。パーマー子爵令嬢はあなたによく似ている。叔父だから当然か。」
 叔父ではないと分かっていて口にした。途端にパーマー子爵夫人が青ざめる。
 さっきの話をまるで聞いていなかったらしい。
 ブリジットとは会ったこともないと言っただろうに。似ているかどうかなど知るわけがないだろう。
 
 別にどちらでも良い。興味はない。

 本当にマーカスが次兄の妻どころかその妹と寝ていて出来たのがブリジットだろうとそうでなかろうと。

 お前たちはただ、責任をとれ。それがどんな形でも。
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