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événement principal acte 6 comté de Argan中編

vingt-neuf

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「おそらく義父上は知りません。」
 ぽつりとバルクが口にした。

 父が執着していたのはアリーではなく、その母メアリ・カーリアだった。

 日記には、メアリとの出会いから書かれていた。思いつくままに書いていたようで読みづらくはあったが大体のことは知れたように思う。

 二人の出会いは貴族学園だった。

 当時ダビデは学校に、メアリは貴族学園にそれぞれ通っていた。
 成績優秀者だったメアリは、三年次に生徒会で書記をしていたらしい。

 その為、新入生の案内係として入学式に参加していた。

 新入生だったクリスは講堂の内で指定された席が分からず迷ってしまう。そこに係だったメアリが声をかけ、案内したことで二人は出会った。

 クリスに言わせれば「自分たちは出会った瞬間から恋に落ち、愛し合ったのだ。」と言う。
 どこかで聞いた台詞だった。

 日記には執拗に付き纏い、愛を伝える様が克明に記されていた。

 やがてメアリは卒業直前にダビデと婚約する。そのことについてクリスは怒りを、悲しみを詳細に綴っていた。

 翌年、メアリはデビュタントボールに出席するとその三ヶ月後にダビデと婚姻することを発表した。
 噂を聞いたクリスは何かの間違いだと頑なに信じなかった。自分が迎えに行くことをメアリは待っているはずだと思い込んだ。

 その原因の一つが母テレジアとの婚約だった。

 アーガン伯爵家と母の家門が結びつくこと。
 そのことが最優先で決められた両親の婚約。
 それは父が14歳、母が生まれたばかりの0歳児の時に祖父同士の取り決めで結ばれた。

 奇しくもそれはメアリのデビュタント一週間前のことだった。

 メアリはきっとどこかで自分の婚約を知ってしまったのだ。
 だから当てつけに他の男と婚姻すると言っているのだ。そうに決まっている。きっと私を待っている。
 メアリと過ごした一年間、お互い婚約者はいなかった。
 自分とメアリは愛し合っていたのに、なぜ。

「赤ん坊を見せられて、これがお前の妻だと言われても愛せるわけがない。」

 それからもクリスはメアリを思い続けた。
 メアリはダビデと商会の仕事を共にし、国内外忙しく飛び回っていた為、二人が再び会うことはなかった。
 クリスはメアリの動向を探り、毎年子が産まれていない事実に溜飲を下げた。

 私に貞操を守ると知らせているのだ。今でも私を思っていると。なんて慎み深いのだ。

 クリスのメアリに対する思いはますます募り、気持ちは膨れ上がるばかりだった。

 そして八年後、クリスが22歳の時メアリがアルマを産む。

 クリスは発狂した。

 穢された!メアリが!私のメアリが!

 クリスは裏切られたと言う思いから、メアリの動向を探ることは無くなった。

 産まれたアルマに興味はなかった、むしろ殺したいくらい憎んだ。

 その二年後、メアリは馬車の事故で急死する。
 クリスの嘆きようは凄まじかった。
 まるで当時の心境を今まさに感じたことのように書いてあった。

 その五年後、母が16歳になってデビュタントボールに出席すると二人はすぐ婚姻する。

 しかし当初二人は白い結婚だったらしい。数年後エリオットが産まれると、母はタウンハウスに居を移し領地に帰らなくなった。

 それからもクリスはメアリを偲んだ。
 殆ど領地から出ず、王都に行くのは年に数回。

 そんななか、あのデビュタントボールで偶然アリーことアルマ・カーリアと出会う。

 クリスはあの夜のことを詳細に記していた。
 赤裸々に綴られたそれは、胸が悪くなるような内容だった。
 しかも相手はメアリだったりアルマだったり目まぐるしく変わる。

 本人は矛盾に気付いていないようだった。

 アルマをメアリ本人だと思っているかと思えば、メアリの生まれ変わりだと思っている。

 そうして残念ながら日記には、どうやってアルマとティアナを探し出したのかは書かれていなかった。

 ただ、見慣れない一つの単語が日記全般を通して頻繁に記されてあった。

【異国の葉巻】
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