【完結】R-15 私はお兄様を愛している

événement principal acte 6 comté de Argan前編

Un

　馬車の窓に掛けられたカーテンをベントリーが引いた。

　開かれた視界には整備された街道と、草原がどこまでも続く。

　王都を出るまでの間、締め切られていたカーテンを開けただけで閉塞感が柔らぐ気がした。

　良くも悪くも貴族の馬車は注目を集める。
　特に喪に服していると嘯き、表に出ないエリオットは話の種になりやすかった。

　まだ歳若く美しい青年で婚約者もいない。
　しかも伯爵家当主ともなれば、社交界のみならず平民の間でも様々な噂をされた。

　馬車は静かにアーガン伯爵領へと向かう。
　領地までの旅程は三日を予定していた。

　馬車にはエリオットとベントリー。
　周囲には護衛騎士が四人、騎乗して馬車を囲いながら進んでいる。

　領地に向かうのは久しぶりだった。

　卒業し寮をでてから別邸楓の家に戻ると、そこから度々領地へ戻り経営の実務を覚えた。
　合間に剣や弓の腕も鍛え直した。

　騎士科でも演習や大会があったが、実践経験のある者と打ち合う試合とは程遠い。
　領地には私設騎士団がある為、そこで鍛錬する方が何倍も鍛われた。

　今回の滞在でも出来れば体を動かしたい。

　16歳で母が亡くなりタウンハウスに移ってからは、中庭で素振りをするのも一苦労だった。
　侍女やメイドたちの煩わしい視線や嬌声を浴びるたびに辟易した。
　
　その為わざわざ三階の空いている部屋を鍛錬室に改装し、その中で時間を見つけては体を動かすことにした。

　タウンハウスは三階建てで、エリオットの自室と執務室は三階にある。

　三階フロア全てをエリオットの居住空間として、許可のないものの立ち入りは禁止することにした。

　立ち入りが許されているのは基本男性のみ。例外は侍女長だけ。今はそこにエマも含まれる。
　侍従も専属は付けず、執事長が都度指名して一ヶ月から二ヶ月で交代させる徹底ぶりだった。

　少しでも長く側に置くと誰かしらに買収される侍従が出る為、苦肉の策だった。