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événement principal acte 4 希望
Sept
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「ご連絡、ありがとうございますカーリア男爵。」
「いえ。もう一度、今度は義息子のバルクも交え話を聞かせて頂きたいと思いまして。」
頷くエリオットを見てダビデは切り出した。
「先日の、ご提案についてです。」
「ええ。」
「予備爵をアルマに譲るとアーガン伯爵様にメリットがあると仰っておりましたが、それはどう言ったものでしょうか?」
ずばりと切り込むダビデに、エリオットは目を瞠った。
腹芸は必要ないと踏んだか。
視線を合わせると話し出した。
「カーリア商会と我が伯爵家で取引をして頂きたいのです。」
「取引?どのような?」
「そうですね。糸や布地と言ったところでしょうか。」
「アーガン伯爵領では、そう言った特産品は無かったと記憶しておりますが。」
「ええ、現在はありません。実は一年ほど前に三ヶ月ほどかけて領地を隅々まで調べたんですが、その時に見つけました。」
一年前は前当主クリス・アーガンがアルマとティアナの三人で暮らすため、ベントリーに「土地を探せ。」と言った時期だった。
エリオットは表向き、クリスの隠居する屋敷を建てる土地を探すことにして併せて領地を調べた。何か収入に繋がる見落としがないか軽い気持ちで、ついでに指示しただけだった。
だが、この思いつきが功を奏した。
「我が領地は広さはあっても、全体の3分の1を森が占めています。その為領地に対して領民が少ない。幸い農地はあるので食糧自給率は悪くないのですが、どうも豊かとは言い難い。」
「確か主な収入は私設騎士団を他領に派遣して賄っていると記憶しております。」
「ええ。ただ今は昔のように戦があるわけではないので、盗賊団や害獣討伐に派遣するくらいです。あとは他領への駐屯くらいで今後も当てにできるかと言われれば難しい。だから余力のある今、新しい財源となるものを確保したいのです。」
肩を竦めるエリオットを見てダビデは頷いた。
「しかし、どのような糸や布地でしょうか?こう言ってはなんですが、それなりに良いものは既に出回っていると言いますか。」
「見てもらった方が早いでしょうね。」
そう言ってエリオットは上着の内ポケットからハンカチを取り出した。
が、ハンカチに見えたそれはシルクの布で端の始末はされていなかった。開くと数束の刺繍糸が現れる。
一見してそれは従来の染色とは異なっていた。まずシルクの布は緩やかなグラデーションの青に染まっていた。ただ、その色味の移り変わりが繊細で美しい。角度を変えると色に深みが出る。今までの染色では色の移り変わりがはっきりと出過ぎていた、とシルクの布を見れば分かる美しさだった。
「素晴らしい。」
食い入るように見つめるダビデ。
バルクとアルマも知らず息を飲んだ。
見たことのない染めだ。色斑もない。
続いてエリオットは刺繍糸を並べた。
こちらも同じようにグラデーションが入っている。ただそれが1本を通して端から端まで施されていた。
纏めている為、色味の複雑さが際立つ。赤と黄、緑と用意されていた。中間色の黄は他の色と比べ、差がわかりにくい。だが1本の中で織りなす色の差異は束になっていることではっきりと見て取れた。
これで刺繍を挿せば不思議な色合いが出来上がるだろう。図案が同じものでも完全に違う仕上がりになる。
「これらは我が伯爵領にのみ自生する植物で染めたものです。染色に利用していた領民は少数で、今まで人目につかなかった。今回見つけたことで量産を考えています。ある程度、安定した供給を考えると二年は欲しいところですね。まぁそれでも染色に必要な植物は我が伯爵領に限られる。特別なものとなるでしょう。」
言い終えてエリオットはカップを手に取ると口を付けた。
「いえ。もう一度、今度は義息子のバルクも交え話を聞かせて頂きたいと思いまして。」
頷くエリオットを見てダビデは切り出した。
「先日の、ご提案についてです。」
「ええ。」
「予備爵をアルマに譲るとアーガン伯爵様にメリットがあると仰っておりましたが、それはどう言ったものでしょうか?」
ずばりと切り込むダビデに、エリオットは目を瞠った。
腹芸は必要ないと踏んだか。
視線を合わせると話し出した。
「カーリア商会と我が伯爵家で取引をして頂きたいのです。」
「取引?どのような?」
「そうですね。糸や布地と言ったところでしょうか。」
「アーガン伯爵領では、そう言った特産品は無かったと記憶しておりますが。」
「ええ、現在はありません。実は一年ほど前に三ヶ月ほどかけて領地を隅々まで調べたんですが、その時に見つけました。」
一年前は前当主クリス・アーガンがアルマとティアナの三人で暮らすため、ベントリーに「土地を探せ。」と言った時期だった。
エリオットは表向き、クリスの隠居する屋敷を建てる土地を探すことにして併せて領地を調べた。何か収入に繋がる見落としがないか軽い気持ちで、ついでに指示しただけだった。
だが、この思いつきが功を奏した。
「我が領地は広さはあっても、全体の3分の1を森が占めています。その為領地に対して領民が少ない。幸い農地はあるので食糧自給率は悪くないのですが、どうも豊かとは言い難い。」
「確か主な収入は私設騎士団を他領に派遣して賄っていると記憶しております。」
「ええ。ただ今は昔のように戦があるわけではないので、盗賊団や害獣討伐に派遣するくらいです。あとは他領への駐屯くらいで今後も当てにできるかと言われれば難しい。だから余力のある今、新しい財源となるものを確保したいのです。」
肩を竦めるエリオットを見てダビデは頷いた。
「しかし、どのような糸や布地でしょうか?こう言ってはなんですが、それなりに良いものは既に出回っていると言いますか。」
「見てもらった方が早いでしょうね。」
そう言ってエリオットは上着の内ポケットからハンカチを取り出した。
が、ハンカチに見えたそれはシルクの布で端の始末はされていなかった。開くと数束の刺繍糸が現れる。
一見してそれは従来の染色とは異なっていた。まずシルクの布は緩やかなグラデーションの青に染まっていた。ただ、その色味の移り変わりが繊細で美しい。角度を変えると色に深みが出る。今までの染色では色の移り変わりがはっきりと出過ぎていた、とシルクの布を見れば分かる美しさだった。
「素晴らしい。」
食い入るように見つめるダビデ。
バルクとアルマも知らず息を飲んだ。
見たことのない染めだ。色斑もない。
続いてエリオットは刺繍糸を並べた。
こちらも同じようにグラデーションが入っている。ただそれが1本を通して端から端まで施されていた。
纏めている為、色味の複雑さが際立つ。赤と黄、緑と用意されていた。中間色の黄は他の色と比べ、差がわかりにくい。だが1本の中で織りなす色の差異は束になっていることではっきりと見て取れた。
これで刺繍を挿せば不思議な色合いが出来上がるだろう。図案が同じものでも完全に違う仕上がりになる。
「これらは我が伯爵領にのみ自生する植物で染めたものです。染色に利用していた領民は少数で、今まで人目につかなかった。今回見つけたことで量産を考えています。ある程度、安定した供給を考えると二年は欲しいところですね。まぁそれでも染色に必要な植物は我が伯爵領に限られる。特別なものとなるでしょう。」
言い終えてエリオットはカップを手に取ると口を付けた。
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