【完結】R-15 私はお兄様を愛している《Spin-Off》〜あのときは、これからも〜

You're my only one, and I'm yours

支度

　結婚式が終わり、参加していた使用人たちは持ち場へと急いだ。これから晩餐の準備の最終段階に入らなければならない。慌ただしく使用人たちが行き交う中、ティアナはセリーナとフォルカと共に自室へと向かっていた。これから晩餐までにドレスを着替えなければならない。庭では招待客を饗したガーデンパーティーが行われていた。

　晩餐では招待客と食事を楽しんだ後、男性は酒や煙草を嗜み、女性はお茶やお菓子で花を咲かせる。頃合いを見て、ティアナとエリオットは下がり初夜の準備へと入るのだ。その時にまた、湯浴みをして今度はナイトドレスに着替える。あまり、のんびりしている時間はなかった。

「奥様、お疲れでしょう？」
「お休みになっても構いませんよ？」

　セリーナとフォルカが寝てしまっても湯浴みは自分たち二人でも出来ると息巻く。確かにティアナは小柄だし、二人は女騎士でもあるのだから簡単かもしれない。

「ありがとう、二人とも。なるべく頑張って起きているわ。」

　それよりも、さりげなく「奥様。」と呼ばれたことに、どぎまぎする。確かに先程婚姻してアーガン伯爵家当主夫人となったのだ。奥様には違いないが、呼ばれ慣れていなくて落ち着かない。

　いつも通り、ドレスを脱がせてもらい湯浴みする。浴槽には花びらが撒かれており、うっすらと仄かな香りした。すぅっと息を吸うと、ほぅっと吐き出す。

　ティアナは香りの強いものが苦手で、特に薔薇や百合などは長く嗅ぐと頭痛や吐き気を催す。優しく控えめな香りが好きで、そう言った花々を選んでくれた使用人たちの心遣いに感謝した。

　ゆったり浸かり、髪を洗ってもらう。緊張していた肩や腕、足も揉まれた。全身洗い終えると、自室へ戻りベッドへと横たわる。そのままマッサージが始まり、次第にうとうとと微睡んだ。全て終わると声を掛けられ、ゆっくり起き上がる。果実水をもらい、喉を潤すと改めて身支度が始まった。全て終わる頃にはガーデンパーティで軽くお酒やお菓子、談笑を楽しんだ招待客たちが領邸へ入り晩餐が始まる。本来なら領邸中たくさんの招待客で賑わうのが結婚式当日の在るべき姿だろう。しかし、ティアナもエリオットも家族と親しいものしか呼ばなかった。限られたものたち、気のおけないものたちしかいない晩餐はそこまで肩肘張らずにすみそうで、ティアナの気持ちは、すっかり落ち着いていた。

　袖を通したのは、あの当主交代と婚約者のお披露目の夜会で着たドレスだった。エリオットから贈られた、アーガンシルクのドレスはあの夜会で一度着たきりだった。大事な想い出のドレス。後から知ったが、あの場に名乗り合う前の父、ルディウスがいた。父はあの夜、エリオットに挨拶だけするとタウンハウスを後にした。だから改めて近くで見て欲しい。自分があの夜、エリオットの隣に立ち、これからこの方と一緒に時を刻むのだと決めた姿をもう一度。

　親子だと分かってから、一緒に過ごせた時間はあっという間だった。エリオットに我儘を言って一人カーリア男爵領に残って過ごした親子三人の時間。ずっと逢いたかった父と、幸せそうに笑う母。とても満たされた時間だった。自分が両親を見て幸せを感じたように、エリオットと一緒にいる幸せな自分を見て、両親にも良かったと思ってもらいたい。

「大変お綺麗です、奥様。」
「本当に。旦那様の愛が溢れておりますね。」
「……ありがとう。」

　セリーナとフォルカに微笑み返す。彼女たち二人が今までずっと側で護ってくれたから、自分はどんな時も安心出来た。

「二人とも、これからも宜しくね？」
「「はい。」」