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宝物
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「とーたま!」
まだ小さな歩幅でめいいっぱい駆け寄ってくると、ラディウスが足にしがみついた。ルディウスは屈み込み、両脇に手を入れ抱え上げる。
「ただいま、ラディ。」
「おかーりなさい、とーたま。」
すりすりと頬ずりする我が子が愛しくてたまらない。
「今日は何をしていたの?」
「んとねー、アリサねーたまとね。」
アリッサとはまだ言えないらしく、辿々しくも頑張って話そうとする。少し前からバルクとオリヴィエ、アリッサがカーリア男爵領まで遊びにきている為、よく二人で遊んでいるらしい。
ラディウスの話に、うんうんと頷きながら部屋へと向かう。アルマが出迎えに来ない時は大抵刺繍をしていることが多い。ノックをして待っているとステラが顔を出した。
「申し訳ございません、ルディウス様。アルマ様は。」
「ああ、いいよ。集中してるんだよね?」
「はい。オリヴィエ様もご一緒に。」
困ったように頷くステラに告げる。
「少し早く戻ったからね。晩餐までラディと過ごすから。気にしなくていいよ。」
「畏まりました、アルマ様に申し伝えます。」
ルディウスはアルマと婚姻したのち、婿養子としてカーリア男爵家へ入ると、そのままダビデの下で働くこととなった。カーリア男爵領にあるフロレゾンの経理や事務の総括を担っている。
「バルク義兄さんたちは?」
「それが、アリッサお嬢様がなんでも護衛宿舎に行きたいとかで。」
「護衛宿舎に?」
護衛宿舎とは、カーリア商会専属諜報機関プレシーズの支部を指す。新人や若手たちが訓練の為に住んでいる施設のことだった。表向きは護衛宿舎としている為、内情を知っているものは限られている。ステラたち使用人は全員、護衛と認識しているがルディウスは違う。そんなところにアリッサが行きたがる理由が分からず首を捻った。
「アリサねーたまね、好きなひとがいるんだってぇ。くふふ。」
小さな紅葉のような手を口元に当て、楽しそうにラディウスが話す。本人は内緒話のつもりだろうが、声が大きい。ルディウスは苦笑しながら答えた。
「そうなのか。アリッサちゃんが。」
「んとね、ロウおじちゃんなんだってぇ、好きな人ー。とーたま、ないしょね?」
「……それは。」
ロウとはあの、ロウだろうか?プレシーズのギルドマスターの。
他に、ロウなんて名前の人は……いなかったよな?
ちらりとステラを見ると、吹き出しそうなのを堪えているのか頬が膨らみ震えていた。
「アリサねーたま、おんなをみがくんだってぇ。」
「ぶっ!」
堪えきれず、ステラが噴き出し俯く。
「ラディ、内緒のお話は父様としようか。」
「はーい!」
両手をあげて返事をした後、ルディウスの首に抱きつく。
「とーたま!ないしょ!」
「そうだね、内緒だね。」
ぽんぽんと背中を叩き、ステラに目配せしてから歩き出す。全く、子供というものは。なんとも愛らしくて憎めないものか。
「とーたま、あとね、アリサねーたまがね。」
うんうんと頷きながら庭へと向かう。可愛い息子、愛した弟と同じ色。あんな風に逝ってしまったロディウスの分も、この子には与えられるものは全て与えたい。幸せになって欲しい。
「とーたま、大好き。」
「父様もラディが大好きだよ。」
ロディウス。君に届くだろうか。あの時僕の幸せを願ってくれた君に。僕は幸せだよ。そしてこの幸せは、君のものでもあるんだ。僕の片割れ。今も君を、変わらず愛してる。
胸ポケットにはいつも、変わらず弟の遺髪を入れている。毎日香油で手入れをし、リボンで結び直し、アリーの刺繍が入ったハンカチに包んで持ち歩く。きっと君の元へ逝くその日まで。変わらず毎日そうするだろう。
「ラディは父様の光だよ。」
「ひかりー?」
「そう。眩しいくらい輝いてる。宝物だ。」
「たからものー!」
きゃははは!とはしゃぐ息子の額に口付ける。
ああ。本当に幸せだ。
まだ小さな歩幅でめいいっぱい駆け寄ってくると、ラディウスが足にしがみついた。ルディウスは屈み込み、両脇に手を入れ抱え上げる。
「ただいま、ラディ。」
「おかーりなさい、とーたま。」
すりすりと頬ずりする我が子が愛しくてたまらない。
「今日は何をしていたの?」
「んとねー、アリサねーたまとね。」
アリッサとはまだ言えないらしく、辿々しくも頑張って話そうとする。少し前からバルクとオリヴィエ、アリッサがカーリア男爵領まで遊びにきている為、よく二人で遊んでいるらしい。
ラディウスの話に、うんうんと頷きながら部屋へと向かう。アルマが出迎えに来ない時は大抵刺繍をしていることが多い。ノックをして待っているとステラが顔を出した。
「申し訳ございません、ルディウス様。アルマ様は。」
「ああ、いいよ。集中してるんだよね?」
「はい。オリヴィエ様もご一緒に。」
困ったように頷くステラに告げる。
「少し早く戻ったからね。晩餐までラディと過ごすから。気にしなくていいよ。」
「畏まりました、アルマ様に申し伝えます。」
ルディウスはアルマと婚姻したのち、婿養子としてカーリア男爵家へ入ると、そのままダビデの下で働くこととなった。カーリア男爵領にあるフロレゾンの経理や事務の総括を担っている。
「バルク義兄さんたちは?」
「それが、アリッサお嬢様がなんでも護衛宿舎に行きたいとかで。」
「護衛宿舎に?」
護衛宿舎とは、カーリア商会専属諜報機関プレシーズの支部を指す。新人や若手たちが訓練の為に住んでいる施設のことだった。表向きは護衛宿舎としている為、内情を知っているものは限られている。ステラたち使用人は全員、護衛と認識しているがルディウスは違う。そんなところにアリッサが行きたがる理由が分からず首を捻った。
「アリサねーたまね、好きなひとがいるんだってぇ。くふふ。」
小さな紅葉のような手を口元に当て、楽しそうにラディウスが話す。本人は内緒話のつもりだろうが、声が大きい。ルディウスは苦笑しながら答えた。
「そうなのか。アリッサちゃんが。」
「んとね、ロウおじちゃんなんだってぇ、好きな人ー。とーたま、ないしょね?」
「……それは。」
ロウとはあの、ロウだろうか?プレシーズのギルドマスターの。
他に、ロウなんて名前の人は……いなかったよな?
ちらりとステラを見ると、吹き出しそうなのを堪えているのか頬が膨らみ震えていた。
「アリサねーたま、おんなをみがくんだってぇ。」
「ぶっ!」
堪えきれず、ステラが噴き出し俯く。
「ラディ、内緒のお話は父様としようか。」
「はーい!」
両手をあげて返事をした後、ルディウスの首に抱きつく。
「とーたま!ないしょ!」
「そうだね、内緒だね。」
ぽんぽんと背中を叩き、ステラに目配せしてから歩き出す。全く、子供というものは。なんとも愛らしくて憎めないものか。
「とーたま、あとね、アリサねーたまがね。」
うんうんと頷きながら庭へと向かう。可愛い息子、愛した弟と同じ色。あんな風に逝ってしまったロディウスの分も、この子には与えられるものは全て与えたい。幸せになって欲しい。
「とーたま、大好き。」
「父様もラディが大好きだよ。」
ロディウス。君に届くだろうか。あの時僕の幸せを願ってくれた君に。僕は幸せだよ。そしてこの幸せは、君のものでもあるんだ。僕の片割れ。今も君を、変わらず愛してる。
胸ポケットにはいつも、変わらず弟の遺髪を入れている。毎日香油で手入れをし、リボンで結び直し、アリーの刺繍が入ったハンカチに包んで持ち歩く。きっと君の元へ逝くその日まで。変わらず毎日そうするだろう。
「ラディは父様の光だよ。」
「ひかりー?」
「そう。眩しいくらい輝いてる。宝物だ。」
「たからものー!」
きゃははは!とはしゃぐ息子の額に口付ける。
ああ。本当に幸せだ。
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