【完結】R-15 私はお兄様を愛している《Spin-Off》〜あのときは、これからも〜

遥瀬 ひな

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Clive and Elliot you treasures from Theresa・Argan

再起

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「テレジア、お前はこれからアーガン伯爵家当主夫人となる。」

 初めて座ったであろう、当主の使う執務室の重厚な椅子に座り、クリスが勿体ぶって告げた。執務机を挟んで立つテレジアは、夫という名の他人を見つめ返し、淡々と答えた。

「はい。」
「ならば、分かるな?父上のことは忘れ、伯爵夫人としての矜持を持つように。」

 父上?一体なんのこと?

「母上からは、子の父親について一切触れるなと言われていたから黙っていたが。もう良いだろう。まぁ、聞かずとも髪の色を見れば分かる。父上だとな。」

 この男は本当に。自分のことにしか関心がないのか。周囲がどう思い、どう動いていたのか。少しも気に掛けてはいないことが、よく分かった。

「全く。私がお前を愛さないからと言って、舅と子を作るとは。言い出した母上もだが、受け入れた父上とお前には心底呆れたよ。しかし、そのおかげで私は愛するメアリ以外に子を産ませるという裏切りをせずに済んだ。天国にいる彼女も喜んでいるに違いない。その点については感謝している。」
「……。」

 あの夏、自分が一人保養地へと行かされたのは父親と妻が密かに子を作る為に遠ざけられたと思っているのか。なんと、めでたい頭だろう。

 否定も肯定もせず、黙っているとクリスが続けた。

「お前は告別式が終わり次第、予定通り王都のタウンハウスへ行くように。居をそちらに移し、呼ぶまでここには戻ってくるな。」
「……何故でしょうか?」
「お前がいたら、いずれまた周囲が次の子はまだかと騒ぐだろう?ああ、ベントリーも連れていけ。あいつが一番うるさく言いそうだ。せっかく父上がいなくなったんだ。これ以上煩わしいのは、ごめんだ。」
「……エリオットは。」
「あれは一応私の息子だからな。後継者教育をせねばならん。置いていけ。」
「いえ、連れて。」
「聞こえなかったのか?置いていけと言ったんだ。当主命令だ。」

 クラークの次はクリスが。テレジアの頭を押さえ付け、人生を踏みつけ、荒らすのか。

 自分はなんて、ちっぽけな存在なのだろう。たった一人の息子すら、このままでは守れない。いや、違う。近くにいるからこそ出来ることがあるように。遠く離れているからこそ、出来ることがあるはず。カシアがそうであったように。女だから、妻だからと軽んじられても、だからこそ、やれる事がある。

 お義母様、わたくしも、あなた様のように。自分のやり方で、クライヴとエリオットを護ります。

「分かりました。では、わたくしは王都でアーガン伯爵家の夫人として、社交を中心に働かせて頂きます。」
「社交?そんなもの、必要ない。」
「お言葉ですが。お義父様とお義母様は突然亡くなられました。本来なら旦那様に繋ぐべき方々とのお付き合いと言うのものが多少なりともあったかと。それらが途絶えたり、縁遠くなってはアーガン伯爵家にとって不利益となりましょう。そう言った方々とのご縁を切らすことのないよう、旦那様は領地から、わたくしは王都から。それぞれ分担すると言うのは如何でしょうか。」
「それは。まあ、そうだな。」

 テレジアがこんなふうに面と向かって、はっきりと物申すのは初めてのことで、押されたクリスが面食らったように頷く。

「では。そのように。」

 ゆったりカーテシーをしたのち、テレジアは踵を返し執務室を出た。これから身内だけで葬儀を行い埋葬まで済ませた後、訪れた弔問客たちの為に告別式を執り行う。それが終わり、ここを発つまでに恐らく二ヶ月くらいかかるだろう。その間に、一度でいい。クライヴと逢い、別れを告げる。

 もう逢えなくても、それがあなたを護ることになるのなら。

 今までは気持ちだけで「守る。」と口にしていた。言った自分に酔っていた。そんなことでは本当に愛する人たちは護れない。

 顔を上げ、前を向くのよ。テレジア。

 金瞳が煌めく。きらきらと意思の炎で。自分を信じて、進んでいく。もう何も、わたくしから奪わせない。
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