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Clive and Elliot you treasures from Theresa・Argan
凶報
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身を引き裂かれる想いで、領邸を発ったテレジアと付き添ったベントリーの元へ追いかけるように早馬が知らせを届けに来た。伝えられた内容に、うまく言葉が紡げない。
「カシア様が……。お義母様が……。」
船が転覆して、亡くなったですって?
クラークとカシアは三日前の正午過ぎ、共に船遊びに出掛けたらしい。その時、船が転覆してしまい、そのまま二人共亡くなったのだと言う。急ぎ領邸へ引き返すよう、クリスからの指示だと使いのものは言った。
「分かりました。あなたは食事を摂って馬を休ませた後、戻りなさい。」
冷静なベントリーの声が遠くに聞こえる。テレジアは人払いした宿の部屋にあるソファに座り込んだまま、声も出なかった。
「テレジア様。」
「……ベントリー、あなた何か知ってる?」
のろのろと顔を上げ、その顔色を見てテレジアは唐突に理解した。ああ、この人は。
「カシア様から、その時が来たら読むようにと手紙を頂きました。」
「そう。」
と言うことは、カシアが決めたことなのだ。
最初から、こうするつもりだったのだ。だから。だから自分を領邸から出したのだ。いればテレジアもベントリーも、なんとしてでも止めようとしただろうから。
立ち尽くしていたベントリーが次第に俯き、肩を震わせる。今はどんな言葉であれ、彼の慰めにはならないだろう。
「ベントリー、下がっていいわ。」
「……申し訳、ございません。」
堪えきれず、ベントリーの頬を涙が伝う。今は少しだけでも一人にしてあげたい。領地から遠く離れたこの地でしか、きっとこの侍従は悲しむことさえ出来ないだろうから。だから、少しだけでもカシアを悼む時間を。たった一人の男性として、愛した女性のことを想う時間を。
一礼したのち、ベントリーが退室する。テレジアも一人、考えに耽った。すぐに引き返すにしろ、少しだけ。
「……カシア様。申し訳ございません。」
次々と涙が溢れる。きっとテレジアを護る為、カシアは選択したのだ。夫を道連れにすることを。
それでも、カシア様。わたくしは、あなた様に。生きていて欲しかった。
間もなく知らせを聞いた侍女が荷物をまとめる為、部屋に来るだろう。彼女も領邸に勤めて長い。きっと悲しんでいるに違いない。
カシアの凛とした姿を思い出す。テレジアにとって、かけがえのない、もう一人の母だった。
「カシア様が……。お義母様が……。」
船が転覆して、亡くなったですって?
クラークとカシアは三日前の正午過ぎ、共に船遊びに出掛けたらしい。その時、船が転覆してしまい、そのまま二人共亡くなったのだと言う。急ぎ領邸へ引き返すよう、クリスからの指示だと使いのものは言った。
「分かりました。あなたは食事を摂って馬を休ませた後、戻りなさい。」
冷静なベントリーの声が遠くに聞こえる。テレジアは人払いした宿の部屋にあるソファに座り込んだまま、声も出なかった。
「テレジア様。」
「……ベントリー、あなた何か知ってる?」
のろのろと顔を上げ、その顔色を見てテレジアは唐突に理解した。ああ、この人は。
「カシア様から、その時が来たら読むようにと手紙を頂きました。」
「そう。」
と言うことは、カシアが決めたことなのだ。
最初から、こうするつもりだったのだ。だから。だから自分を領邸から出したのだ。いればテレジアもベントリーも、なんとしてでも止めようとしただろうから。
立ち尽くしていたベントリーが次第に俯き、肩を震わせる。今はどんな言葉であれ、彼の慰めにはならないだろう。
「ベントリー、下がっていいわ。」
「……申し訳、ございません。」
堪えきれず、ベントリーの頬を涙が伝う。今は少しだけでも一人にしてあげたい。領地から遠く離れたこの地でしか、きっとこの侍従は悲しむことさえ出来ないだろうから。だから、少しだけでもカシアを悼む時間を。たった一人の男性として、愛した女性のことを想う時間を。
一礼したのち、ベントリーが退室する。テレジアも一人、考えに耽った。すぐに引き返すにしろ、少しだけ。
「……カシア様。申し訳ございません。」
次々と涙が溢れる。きっとテレジアを護る為、カシアは選択したのだ。夫を道連れにすることを。
それでも、カシア様。わたくしは、あなた様に。生きていて欲しかった。
間もなく知らせを聞いた侍女が荷物をまとめる為、部屋に来るだろう。彼女も領邸に勤めて長い。きっと悲しんでいるに違いない。
カシアの凛とした姿を思い出す。テレジアにとって、かけがえのない、もう一人の母だった。
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