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what I should love and protect from Cassia・Argan
負託
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夫がまた、銀髪金瞳の子を欲しがっている。
エリオットが2歳を少し過ぎた頃、クラークはまた性懲りも無く、次の子はまだかとクリスに詰め寄り出した。のらりくらりと逃げる息子に痺れを切らした夫は、またぞろあの醜悪な考えに行き着いたらしい。
もう、無理だわ。
実際、テレジアの自室へ夫が押し掛けたことが何度もあった。その度にベントリーが手を回し、テレジアの侍女からペイジーへと連絡がくる。夫を止められるのは、わたくししかいない。何食わぬ顔でテレジアの元を訪れると、笑顔で夫を追い返す。そんなことが続いた。自分だけではない。テレジアももう、限界だった。形だけの夫婦とはいえ夫の実父に、唯一愛した人の実父に、情欲を向けられて平気でいられるはずがない。
だから決意した。あの時、夫から逃げることを選んだのは自分だ。クリスだけをただ一人の我が子とした。そうしてその結果、全ての皺寄せが産まれたばかりのテレジアに行ったのだ。
この子は、わたくしだわ。
逃げ道がなかった、もう一人の、わたくし。
この頃にはベントリーはクラークの専属侍従と言うよりも、カシアに仕えているかのようだった。理由は分からない。でも、夫を最も知り、そして最も長く側にいたベントリーがカシアの意を汲んでくれると言うのならば。
「ベントリー、あなたには今まで色々なことを頼んできたけれど。もう一つだけ、頼んでも良いかしら。」
「はい、奥様。なんなりと。」
「あなたは、あなただけは。アーガン伯爵家に仕えてちょうだい。当主にではなく、夫人にではなく。人にではなく伯爵家に。お願い出来る?」
「……畏まりました。」
深く腰を折ったベントリーに頷く。残念ながらクリスが良き当主としてアーガン伯爵家を盛り立てて行くことはないだろう。今までの行状がそれを物語っていた。
エリオットはどうだろうか。
カシアはエマと言う思わぬ拾い物をして、幸運だったと思っている。慈悲深い彼女の愛情を一身に受け育っていけば、きっとエリオットが道を踏み外すことはないだろう。
だが、それまではクリスがアーガン伯爵家当主となるのだ。あの息子に忠誠を誓い、当主の為と何でもするようなものを側に置くことは出来ない。
間違った行いでアーガン伯爵家が没落することなどあってはならない。当主だからと流されず、伯爵家を護るため歯止めとなるものが必要だった。アーガン伯爵家にとって当主の考えが不利益になると判断した場合、気付かれないよう阻止できるものが。
エマは何があってもエリオット個人を。ベントリーは何もおこらないようアーガン伯爵家を。
あなたには、今までもそう。酷なことばかり頼むけれど。
そっと手を取り、手紙を握らせる。
「ありがとう。半月後、あなたにはテレジアをタウンハウスまで送って貰いたいの。この手紙は、そうね。その時が来たら、読んでちょうだい。」
「……その時とは。」
「分かるわ、あなたなら。そして読んだら必ず燃やしてちょうだい。いいわね。」
「はい、奥様。畏まりました。」
カシアはベントリーに柔らかく微笑んだ。
エリオットが2歳を少し過ぎた頃、クラークはまた性懲りも無く、次の子はまだかとクリスに詰め寄り出した。のらりくらりと逃げる息子に痺れを切らした夫は、またぞろあの醜悪な考えに行き着いたらしい。
もう、無理だわ。
実際、テレジアの自室へ夫が押し掛けたことが何度もあった。その度にベントリーが手を回し、テレジアの侍女からペイジーへと連絡がくる。夫を止められるのは、わたくししかいない。何食わぬ顔でテレジアの元を訪れると、笑顔で夫を追い返す。そんなことが続いた。自分だけではない。テレジアももう、限界だった。形だけの夫婦とはいえ夫の実父に、唯一愛した人の実父に、情欲を向けられて平気でいられるはずがない。
だから決意した。あの時、夫から逃げることを選んだのは自分だ。クリスだけをただ一人の我が子とした。そうしてその結果、全ての皺寄せが産まれたばかりのテレジアに行ったのだ。
この子は、わたくしだわ。
逃げ道がなかった、もう一人の、わたくし。
この頃にはベントリーはクラークの専属侍従と言うよりも、カシアに仕えているかのようだった。理由は分からない。でも、夫を最も知り、そして最も長く側にいたベントリーがカシアの意を汲んでくれると言うのならば。
「ベントリー、あなたには今まで色々なことを頼んできたけれど。もう一つだけ、頼んでも良いかしら。」
「はい、奥様。なんなりと。」
「あなたは、あなただけは。アーガン伯爵家に仕えてちょうだい。当主にではなく、夫人にではなく。人にではなく伯爵家に。お願い出来る?」
「……畏まりました。」
深く腰を折ったベントリーに頷く。残念ながらクリスが良き当主としてアーガン伯爵家を盛り立てて行くことはないだろう。今までの行状がそれを物語っていた。
エリオットはどうだろうか。
カシアはエマと言う思わぬ拾い物をして、幸運だったと思っている。慈悲深い彼女の愛情を一身に受け育っていけば、きっとエリオットが道を踏み外すことはないだろう。
だが、それまではクリスがアーガン伯爵家当主となるのだ。あの息子に忠誠を誓い、当主の為と何でもするようなものを側に置くことは出来ない。
間違った行いでアーガン伯爵家が没落することなどあってはならない。当主だからと流されず、伯爵家を護るため歯止めとなるものが必要だった。アーガン伯爵家にとって当主の考えが不利益になると判断した場合、気付かれないよう阻止できるものが。
エマは何があってもエリオット個人を。ベントリーは何もおこらないようアーガン伯爵家を。
あなたには、今までもそう。酷なことばかり頼むけれど。
そっと手を取り、手紙を握らせる。
「ありがとう。半月後、あなたにはテレジアをタウンハウスまで送って貰いたいの。この手紙は、そうね。その時が来たら、読んでちょうだい。」
「……その時とは。」
「分かるわ、あなたなら。そして読んだら必ず燃やしてちょうだい。いいわね。」
「はい、奥様。畏まりました。」
カシアはベントリーに柔らかく微笑んだ。
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