【完結】R-15 私はお兄様を愛している《Spin-Off》〜あのときは、これからも〜

遥瀬 ひな

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what I should love and protect from Cassia・Argan

狂気

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 あれからカシアが危惧したような、そんな関係をクライヴとテレジアは望まなかった。お互い粛々と貴族としての矜持を胸に、与えられた役目を果たそうとしている。

 なのに、この親子ときたら。

 クリスは貴族学園で出会った子爵令嬢に熱を上げ、散々追いかけ回した挙句、亡くなった彼女を未だ思い続けている。尤も思い合っていたのではなく、クリスの一方的な片思いだったと報告を受けていた。婚約者と向き合おうともせず、かと言って当主に解消を願いでる気概もなく、流されるように婚姻した癖に往生際悪く閨を拒絶し続けている息子には失望した。貴族として婚約を受け入れ、婚姻したのなら、やるべきことをやればいいのに。

 対して夫は白い結婚には全く気付いておらず、ことあるごとにクリスを呼びつけては孫はまだかと問い詰めていた。辟易したクリスがまたテレジアを避ける為、堂々巡りの悪循環だった。

「ベントリー、旦那様は諦めそうにないの?」
「……はい、恐らく。」

 無駄とは思いつつ、ついつい溢してしまう。銀髪金瞳の孫が欲しくて十四年も待つような夫だ。もしこのまま待ち望んだ孫が産まれなければ、もっと恐ろしいことを考えそうで怖い。

 そんな日々が数年過ぎた頃、ベントリーが青い顔をしてカシアの元を訪れた。何でも耳に入れておきたいことがあると言う。

「旦那様がクリス様には種がないのかもしれないと。このままではアーガン伯爵家が途絶えると。ならば……私がテレジアを孕ませると……。そう仰いました。」
「……。」

 ぐぅっと喉が締まり、吐きそうになった。もしかしたら、言い出すかも知れない。ちらりと頭を過ぎったことが何度もあった。でもその度に否定したのだ。まさか。そんな。獣ですら、そんなことはしないと言うのに。

「アーガン伯爵家が途絶える、ね。ヴィンスやジャックがいるじゃない。」
「はい。おっしゃる通りです。」
「誰に向かって言い訳しているのかしら。どう言い繕うとも、無駄なのに。」
「……。」
「わたくしを選んだ理由もテレジアを選んだ理由も同じなら、やることも同じだろうと思っていたわ。浅はかだこと。」

 俯いて、考えた。クリスにはテレジアと子を作るつもりはない。あれは死ぬまで考えを変えないだろう。そんなところは夫によく似ている。

 ならば、わたくしが出来ることを。
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