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loyal to lady from Serena・Eckert
軒昂
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騎士とは、本物の騎士とは。こういう人のことを言うのね。
セリーナは瞬きも忘れてガン見していた。そう、まさにガン見と言うに相応しい。瞳をこれでもか!とかっぴらいて食い入るように、その人を見つめた。
表情筋が死んでいるセリーナが、どういう感情で試合を見つめているのか、他の騎士たちには分からない。ただ、近づかない方がいいと判断したのか遠巻きにされていた。
エリオットからティアナの護衛も出来るよう、私設騎士団ギベオン・ナイツで一年訓練を受けてこいと言われたセリーナは喜び勇んでアーガン伯爵領へと赴いた。着いて早々にスコットへ挨拶を済ませると既に入場許可が出ていると聞いて荷物を抱えたまま演習場へとその足で乗り込んだのだ。
完全に勇足である。
しかし、夢にまで見た女騎士への道が開かれたのだ。気も逸ろうというもの。
そこで見たのは、自分と変わらない歳の女騎士が筋骨隆々な騎士相手に一歩も引かず剣で戦う試合だった。
すごい。
自分なりに、武門として名を馳せたエッカート男爵家の令嬢として鍛えてきたつもりだった。でも、これは全然違う。命のやり取りをする剣術だ。相手を叩き伏せる剣術だ。始めと終わりがあるような、そんなものじゃない。どちらかが立ち上がれなくなるまで遣り合う剣術だ。
「すごい!すごい!すごい!」
もう釘付けだった。自分もこんなふうに剣を扱えるようになりたい。そして、忠節を誓ったお嬢様を、この手でお護りしたい。決意に燃える拳は固く、周囲の視線には気が付かず、声も一切聞こえなくなっていた。しかし昂る気持ちとは裏腹に顔は、すんっとしていて全然熱量と合っていない。
「おい、あれ誰だよ。」
「知るかよ。」
「俺なんか見たことある気がする。」
「なに?知り合いなのか?」
「いや……。じゃなくて……。」
「おい、まさか……アレじゃないか?」
「やっぱり!お前もそう思うか?」
「だよな?似てるよな?!」
「そうか!見たことあるって思ったけど!」
能面のようなセリーナの瞳は今、血走っている。
「あれだよ!イチマーツだ!」
「なんだよそのイチマーツって。」
「商会が盗賊団に積み荷盗られたことあって、取り返した中にあったんだよ!呪いのイチマーツ!」
「は?」
「人形だよ!おかっぱの!真っ白い顔とおちょぼ口で目が怖えのなんのって!」
「しかも気が付いたら髪が伸びてるんだぜ!人形なのに!」
「それが……。」
「「「呪いのイチマーツだよ!」」」
「マジかよ!」
「俺、今まさに呪われてる気がする……。」
一人がそっと両足をモジモジと踏み合わせ始めた。
「だって、治ってたはずなのに!痒い!」
「お前それただ再発しただけじゃあ。」
「そんなわけあるかぁ!呪いだ!」
「え?マジで?」
「じゃあ、もしかしてあれは生きてる呪いのイチマーツ、なのか?」
「オリジナルかもしれん!」
「強力じゃねぇか!」
騎士たちが騒めくなか、セリーナは決意も新たに叫んだ。
「絶対強くなります!」
「おい!呪いがより強力に!」
「イチマーツこええ!」
「やっぱり髪が伸びるんじゃねぇか?」
「……いや、それは普通。」
「足が!足が痒い!」
「お前は洗って薬塗っとけよ。」
この後、試合が終わったフォルカに突撃したセリーナは無事親交を深め、最終的には親友と呼べるまでになったのだった。
セリーナは瞬きも忘れてガン見していた。そう、まさにガン見と言うに相応しい。瞳をこれでもか!とかっぴらいて食い入るように、その人を見つめた。
表情筋が死んでいるセリーナが、どういう感情で試合を見つめているのか、他の騎士たちには分からない。ただ、近づかない方がいいと判断したのか遠巻きにされていた。
エリオットからティアナの護衛も出来るよう、私設騎士団ギベオン・ナイツで一年訓練を受けてこいと言われたセリーナは喜び勇んでアーガン伯爵領へと赴いた。着いて早々にスコットへ挨拶を済ませると既に入場許可が出ていると聞いて荷物を抱えたまま演習場へとその足で乗り込んだのだ。
完全に勇足である。
しかし、夢にまで見た女騎士への道が開かれたのだ。気も逸ろうというもの。
そこで見たのは、自分と変わらない歳の女騎士が筋骨隆々な騎士相手に一歩も引かず剣で戦う試合だった。
すごい。
自分なりに、武門として名を馳せたエッカート男爵家の令嬢として鍛えてきたつもりだった。でも、これは全然違う。命のやり取りをする剣術だ。相手を叩き伏せる剣術だ。始めと終わりがあるような、そんなものじゃない。どちらかが立ち上がれなくなるまで遣り合う剣術だ。
「すごい!すごい!すごい!」
もう釘付けだった。自分もこんなふうに剣を扱えるようになりたい。そして、忠節を誓ったお嬢様を、この手でお護りしたい。決意に燃える拳は固く、周囲の視線には気が付かず、声も一切聞こえなくなっていた。しかし昂る気持ちとは裏腹に顔は、すんっとしていて全然熱量と合っていない。
「おい、あれ誰だよ。」
「知るかよ。」
「俺なんか見たことある気がする。」
「なに?知り合いなのか?」
「いや……。じゃなくて……。」
「おい、まさか……アレじゃないか?」
「やっぱり!お前もそう思うか?」
「だよな?似てるよな?!」
「そうか!見たことあるって思ったけど!」
能面のようなセリーナの瞳は今、血走っている。
「あれだよ!イチマーツだ!」
「なんだよそのイチマーツって。」
「商会が盗賊団に積み荷盗られたことあって、取り返した中にあったんだよ!呪いのイチマーツ!」
「は?」
「人形だよ!おかっぱの!真っ白い顔とおちょぼ口で目が怖えのなんのって!」
「しかも気が付いたら髪が伸びてるんだぜ!人形なのに!」
「それが……。」
「「「呪いのイチマーツだよ!」」」
「マジかよ!」
「俺、今まさに呪われてる気がする……。」
一人がそっと両足をモジモジと踏み合わせ始めた。
「だって、治ってたはずなのに!痒い!」
「お前それただ再発しただけじゃあ。」
「そんなわけあるかぁ!呪いだ!」
「え?マジで?」
「じゃあ、もしかしてあれは生きてる呪いのイチマーツ、なのか?」
「オリジナルかもしれん!」
「強力じゃねぇか!」
騎士たちが騒めくなか、セリーナは決意も新たに叫んだ。
「絶対強くなります!」
「おい!呪いがより強力に!」
「イチマーツこええ!」
「やっぱり髪が伸びるんじゃねぇか?」
「……いや、それは普通。」
「足が!足が痒い!」
「お前は洗って薬塗っとけよ。」
この後、試合が終わったフォルカに突撃したセリーナは無事親交を深め、最終的には親友と呼べるまでになったのだった。
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