【完結】R-15 私はお兄様を愛している《Spin-Off》〜あのときは、これからも〜

遥瀬 ひな

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my lord from Emma

慈愛

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「旦那様。私今から約束を破ろうかと思います。」
「なんなんだ、いきなり。」

 エマは執務机越しにエリオットを見下ろしながら、一息に続けた。

「旦那様の愛剣ですが。」
「ああ。」
「ポンメルのペリドットはテレジア様から旦那様への贈り物です。」
「……。」
「幼い旦那様の元を離れる際、眠る枕元にテレジア様が。」
「待て、ちょっと待て。」

 エリオットが手のひらをエマに向け、止める。

「急になんだ。」
「……ポンメルを奥様のクンツァイトに変えると仰られましたので。仲が良いのは大変喜ばしいことではありますが、テレジア様から頼まれポンメルに着けましたことをお伝えしておこうかと。」
「……約束がどうとか言っていたな。母上が私に伝えるなと言ったのか。」
「はい。」

 エマが頷くとエリオットは腕を組み、椅子の背もたれに身を預けた。

「……本当に。不器用な人だな。」
「はい。旦那様はそっくりでございます。」
「……その調子だと、エマは気付いていたんだな。母上が私に高位貴族の令嬢方ばかり当てがおうとしていた理由を。」
「はっきりと聞いたわけではございませんが。母親ならば考えそうなことかと。」
「そう言えば、王女のことを知っていたら婚約させていただろうとも言っていたな。」
「身分だけならこれ以上ないご縁ですので。あの時はそう答えましたが、今となってはそれは無かったのではないかと思っています。」
「そうなのか?」
「はい。ベントリーから聞きましたが、旦那様は貴族学園に入学されてから、色んな方々によく、付き纏いを受けていらっしゃったそうですね?」
「そうだな。」
「その最たる方が王女殿下だったようですが。あのメリガウス侯爵家のご令嬢もそうだったと聞き及んでおります。」
「まぁ、そうだったな。」
「これはサマンサから聞いたのですが。そのメリガウス元侯爵令嬢様は、ある茶会でテレジア様に直接旦那様との婚約を頼んだことがあるそうです。」
「なに?」
「テレジア様はその場でお断りになられたそうです。後ほど理由を聞いたサマンサに、確かに身分は大事だが、それだけでは選ばないと。そうお答えになったと聞きました。」
「……そうか。」

 自分の知らないところで母なりに気遣っていたのだと改めて知ったエリオットが悲しそうに顔を伏せた。

「ポンメルは、そのままにしておく。」
「はい。」
「ティアのクンツァイトは……ヒルトにつけよう。」
「畏まりました。」

 付けることは付けるのね、お熱いこと。

 ふふふっと笑い溢す。エマにとってエリオットはいつまでも、かけがえのない生涯仕えるべき主君である。
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