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my lord from Emma
吐露
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その後エマの気持ちに反して体は復調し、歩き回っても問題ないところまで順調に回復した。
さっそくカシアはエマを自室へ呼ぶと、顔を見るなり「さぁ話をしましょう。」と切り出した。面食らいながらも助けられて多少の負い目を感じていたエマは、勧められるまま椅子に腰掛けた。テーブルには香り高い紅茶とスコーン、ジャムや生クリームが置かれ、対面にはカシアが座る。ゆったりとカップを手に取ると口を付け、ソーサーに戻してから徐に問いかけられた。
「あなた、貴族でしょう?名は?」
「エマ……アナキン、と申します。男爵家に嫁しておりました。」
「……なぜ過去形なの?離縁したの?」
「……それは。」
またもや言葉に詰まる。ここまでずけずけと聞いてくる貴族女性も珍しい。
恐らく夫は離縁の手続きをしたと思うが、少なくともエマが家を出た時はまだ男爵夫人だった。自分の立場が曖昧でどう答えたらいいものか分からない……。
「ねぇ、エマ。何があったの?」
いつの間にか溢れていた涙を、カシアがそっとハンカチで拭ってくれた。
「……息子が。やっと産まれた子が……。」
胸を抑える。
エマには中々、子が出来なかった。婚姻して四年、いつしか諦めに似た気持ちを覚えるようになった頃妊娠が分かった。夫と二人、手を取り合って喜んだ。そうして半年前、待望の第一子が産まれた。男の子だった。後継者の誕生に夫や義両親を含め、それはそれは喜ばれた。貴族らしく政略での婚姻だったが夫はずっとエマを大事にしてくれていたし、愛妾も娶らなかった。その気持ちに報いることが出来て、殊更に嬉しかった。
そうしてこの世に産み落とした、愛しい我が子。
「朝、起きたら。つ、冷たく、なって、いて……。」
前日の夜、息子は普段通り眠りについた。乳母などおらず、ずっと自分の乳で育てた可愛い我が子。夜泣きもしない、良い子だった。いつも通りの夜。いつも通りの朝。だけれど、小さな息子だけが違った。ぴくりとも動かなかった。
抱き上げ、声を掛けた。頬擦りして、泣いた。揺すってみた。頭を撫でてみた。顔中に口付けてみた。お願い。嘘だといって。眠っているだけだと言って。起きて。お願い。
いつものように、笑って。
「あぁ!あぁぁ!」
胸を掻きむしって嗚咽を漏らす。カシアが立ち上がるとエマを抱きしめた。
エマを領邸へ連れ帰ったカシアは医師に診せて産後間もない体だと知らされていた。そして持ち物から平民ではないことにも気が付いていた。一人で雨の中行き倒れていたのは何故なのか。
凡その見当はついていた。
「エマ。あなた、ここにいなさい。」
「奥様……。」
「あなたに頼みたいことがあるのよ。」
「わ、わたしは。」
「お願いよ。」
息子のところへ逝きたい自分に一体何が出来ると言うのか。
「さあ、涙を拭いて。あなたは、わたくしが助けたのだから。今度はあなたが、わたくしを助けてちょうだい。」
カシアの言葉に「やっぱり無茶苦茶なことを言う方だわ。」とエマは思ったが、同時に自分を引き止める為にカシアが口にしたのだということも分かっていた。
だったら。
奥様の言う助けが何かは分からないけれど。少しでもお役に立ってから。それから。
あの子の元へ逝こう。
さっそくカシアはエマを自室へ呼ぶと、顔を見るなり「さぁ話をしましょう。」と切り出した。面食らいながらも助けられて多少の負い目を感じていたエマは、勧められるまま椅子に腰掛けた。テーブルには香り高い紅茶とスコーン、ジャムや生クリームが置かれ、対面にはカシアが座る。ゆったりとカップを手に取ると口を付け、ソーサーに戻してから徐に問いかけられた。
「あなた、貴族でしょう?名は?」
「エマ……アナキン、と申します。男爵家に嫁しておりました。」
「……なぜ過去形なの?離縁したの?」
「……それは。」
またもや言葉に詰まる。ここまでずけずけと聞いてくる貴族女性も珍しい。
恐らく夫は離縁の手続きをしたと思うが、少なくともエマが家を出た時はまだ男爵夫人だった。自分の立場が曖昧でどう答えたらいいものか分からない……。
「ねぇ、エマ。何があったの?」
いつの間にか溢れていた涙を、カシアがそっとハンカチで拭ってくれた。
「……息子が。やっと産まれた子が……。」
胸を抑える。
エマには中々、子が出来なかった。婚姻して四年、いつしか諦めに似た気持ちを覚えるようになった頃妊娠が分かった。夫と二人、手を取り合って喜んだ。そうして半年前、待望の第一子が産まれた。男の子だった。後継者の誕生に夫や義両親を含め、それはそれは喜ばれた。貴族らしく政略での婚姻だったが夫はずっとエマを大事にしてくれていたし、愛妾も娶らなかった。その気持ちに報いることが出来て、殊更に嬉しかった。
そうしてこの世に産み落とした、愛しい我が子。
「朝、起きたら。つ、冷たく、なって、いて……。」
前日の夜、息子は普段通り眠りについた。乳母などおらず、ずっと自分の乳で育てた可愛い我が子。夜泣きもしない、良い子だった。いつも通りの夜。いつも通りの朝。だけれど、小さな息子だけが違った。ぴくりとも動かなかった。
抱き上げ、声を掛けた。頬擦りして、泣いた。揺すってみた。頭を撫でてみた。顔中に口付けてみた。お願い。嘘だといって。眠っているだけだと言って。起きて。お願い。
いつものように、笑って。
「あぁ!あぁぁ!」
胸を掻きむしって嗚咽を漏らす。カシアが立ち上がるとエマを抱きしめた。
エマを領邸へ連れ帰ったカシアは医師に診せて産後間もない体だと知らされていた。そして持ち物から平民ではないことにも気が付いていた。一人で雨の中行き倒れていたのは何故なのか。
凡その見当はついていた。
「エマ。あなた、ここにいなさい。」
「奥様……。」
「あなたに頼みたいことがあるのよ。」
「わ、わたしは。」
「お願いよ。」
息子のところへ逝きたい自分に一体何が出来ると言うのか。
「さあ、涙を拭いて。あなたは、わたくしが助けたのだから。今度はあなたが、わたくしを助けてちょうだい。」
カシアの言葉に「やっぱり無茶苦茶なことを言う方だわ。」とエマは思ったが、同時に自分を引き止める為にカシアが口にしたのだということも分かっていた。
だったら。
奥様の言う助けが何かは分からないけれど。少しでもお役に立ってから。それから。
あの子の元へ逝こう。
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