【完結】R-15 私はお兄様を愛している《Spin-Off》〜あのときは、これからも〜

遥瀬 ひな

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dazzling you, Bulk from Olivier・Wise

看病

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 カーリア商会として、王国民を支援することに決めたダビデの動きは早かった。まずバルクを副会頭に据えると流行病の対応をする責任者に任命した。その為バルクは連日、薬と日用品の配布や教会への寄付にと走り回ることとなった。

 オリヴィエももちろん、出来るだけ手伝った。一人暮らしも一年経つとそれなりに出来るようになるもので、平民に混じって炊き出しなどにも率先して加わった。そんな風に忙しくしていたある日、商会でバルクが倒れたとダビデから聞かされたオリヴィエは声にならない悲鳴を上げた。

「大丈夫だ、流行病に罹患したわけじゃない。疲労が溜まって倒れただけだ。元々体力があるから過信したんだろう。」
 ダビデが落ち着けと取りなすが、オリヴィエはおろおろと狼狽えた。

「オリヴィエ、看病を頼めるかい?」
「はい。」
 一も二もなく頷く。

「倒れたのは商会に戻ってすぐだったから、仮眠室で休ませているんだ。医師にはもう診せたし、動かすよりここで休ませた方がいいだろう。」
「分かりました、任せてください。」

 仮眠室と言っても広く、ゆったりとしたベッドとサイドテーブル、椅子が置いてある。窓辺には小さなソファがあって看病するのに不便はなかった。桶とタオルを持ち込み、魘されるバルクの額にそっと手を乗せる。思ったより熱く、慌ててタオルを濡らし絞ると、そっと額に乗せた。

 苦しそうだった呼吸が少し落ち着く。そのまま椅子を近くに寄せ、寝顔を見つめた。こまめにタオルを替え、伝う汗を拭う。

「ん……。」

 小さく唸ってバルクの瞼が震えた。少しだけ持ち上がり、ぼんやりと視線が泳ぐ。じっと見つめていると、掠れた声が漏れた。

「み、ず。」
「あ、はい。」

 立ち上がり、サイドテーブルに置いてあった水差しを掴むとグラスに注ぐ。そのまま渡そうとして、はたと気が付いた。横になったままでは飲みにくいだろう、少し起き上がってもらえるだろうか。

「あの、起き上がれますか?」
「……ああ。」

 もぞもぞと動き出し、上体を起こしたバルクがふらっと傾いた。咄嗟に支えようとしてグラスが傾き、ぱしゃりとドレスの胸元に溢してしまう。バルクにかからなくて良かったと思いながら、サイドテーブルへとグラスを戻した。

 濡れて張り付き気持ち悪いが、今はバルクが気にかかる。改めてバルクを支えようと向き直り屈むと、ふらりと抱き付くようにバルクが倒れ込んできた。受け止めてそのまま、ぽすんとベッドの端に座り込んでしまう。

「……みず。」
「ごめんなさい、今すぐ……に……。」

 言いかけて固まる。ぴちゃりと水音がしたかと思ったら、肩口に顔を埋めたバルクが舌を伸ばし鎖骨を舐めていた。

「え?え?」
「……もっと。」

 朦朧としながらも舌を這わせて鎖骨の窪みをバルクが舐めてくる。腰をがっちりと掴まれていて逃げられない。動揺したオリヴィエはバルクの両肩に手を突き押し返した。

「バ、バルク様!」
 咄嗟に名を呼んで、両手に力を込める。涙目になって身を捩ると、ますます抱き込まれた。

「え?泣いちゃってんの?なにそれ、かわい。」

 羞恥で真っ赤になりながら涙目で睨むと、甘えるように、ふいっと顔を伏せ、ぐりぐりと鼻先を濡れた胸元に埋められた。そのまま、ぼんやりとした瞳でオリヴィエをちらちらと見上げてくる。

「いい匂い。やらかい。」
「や、や。」
 恥ずかしさに堪えきれず、ぽろっと涙が落ちる。途端にバルクがでれっと鼻の下を伸ばした。

「あー。かわいー。滾るー。」

 そのまま、ちゅっちゅっと音を立てながら首筋に吸い付かれた。突然のことに混乱する。

 いや!いや!こんなの……!

 熱に浮かされて、手を出されるなんて。気持ちもないのに、好かれて、ないのに……。

 きゅっと唇を噛み締めて、いやいやと首を振るとバルクがぴたりと止まった。

「いや?」
「……はい。」
「なんで?」
「き、気持ちがない、のは……。いや……。」
 閊え閊え言葉にすると、肩が震え涙が止まらなくなった。嗚咽を堪えてしゃくり上げるとバルクがゆっくり腕を解く。途端に胸が軋んだ。拒絶しておきながら、気持ちが貰えなかったと傷付く自分が嫌だった。

「あーっ……と。」
「っ…ひっ。」

 顔を逸らして泣き顔を見られないように小さくなると、バルクがわしわしと頭を掻きむしった。

「つか、かわいいな。おい。」
「……え?」
「瞳、うるうるしちゃって。」
「し、してません!見ないで下さい!」
「いや無理。見る。つか見せて。」
「や、や!」
「あーもーなんだ。要するに。」

 ぐいっと腕を掴まれ、再度抱き込まれる。

「気持ちがあれば、いいんだな?」

 低い声が耳に落ちる。固まったオリヴィエの耳殻にバルクがぬるっと舌を這わせた。

「あ!や!やぁ!」
「ちょっとだけ。ちょっとだけ、な?」

 何がちょっとなのよ!ばか!へんたい!

「やばい。かわいい。耳真っ赤。んー。」
 べろりと舐めた後、歯を立てられる。ぞくりと背筋に痺れが走ってますます涙が溢れた。

「あー。あぁ!ゃ、やだぁ!」
「オリヴィエ、リヴィ。可愛い。つかもう我慢できん。」
「やぁ!」
「決めた、絶対嫁にする。」
 ぴきんと固まる。

 なんで?どうして、そうなったの?

 びっくりして涙が止まる。ぽかんと見つめると、至近距離でバルクがにやりと笑った。

「パンジー、刺してたよな?夜会服の胸ポケットに。」
 急に話が飛んで意味が分からない。

「花言葉、私を思って。だっけ?」
 なんで今そんなこと!

「可愛いことするなぁ。そりゃあ好きになるっつの。心臓射抜かれたわ。」
「……!な、なに、言って。」
「なー。宝石にも石言葉ってのがあんの、知ってる?」
 ぽんぽん話が飛んで、ついていけない。

「デビュタントの時、贈ったブレスレットに使ってた宝石スフェーンていうんだけどさ。」
 何故かしら、聞くのが怖いと感じるなんて。

「石言葉、永久不変だって。」
「え…っと。」
「んで、一緒に贈った花、桃っての。こっちじゃ中々手に入んなくて、花言葉知られてないけどさ。」
「……。」
「聞きたい?」
「……はい。」
「私はあなたのとりこ、だって。」
 かぁっと頬が熱くなる。そんなの知らない。珍しく木に付いたままの花束で可愛らしくて、いい匂いがするなぁって。そう思ってたけど。

「さぁて。何が永久に変わらないんだろうなぁ?」

 ぱくぱくと口を開け閉めしてしまう。

「つーわけで。看病してくれるんならさ、ちょっとだけ、味見してい?」
「あ、じみ?」
「だって義父上がリヴィに看病頼んだんだろ?やっとお許し出たってことだよな?」
「お許しって。」
「俺がリヴィ嫁にしたいって言ったら、まずは副会頭になって実績積むまでは認めんってさー。いや、分かるけどひどくない?お陰で俺、倒れるまで頑張っちゃったよ。そのご褒美に、オリヴィエの味見。」

 頷いたら駄目な気がするわ。

 その後、素直になれないオリヴィエはバルクの猛追を三年かけて躱し続け、結局最後にがっぷり捕まったのだった。
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