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dazzling you, Bulk from Olivier・Wise
失恋
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オリヴィエが華としてデビューした一ヶ月後。バルクがカーリア男爵家の養子となる後継者お披露目の夜会が催された。
まだデビュタントを迎えていないオリヴィエは当然、参加は出来ない。だが恩人でもあるバルクの晴れの日だ、何かお祝いをしたいと思った。
それに、貴族学園卒業と華としてデビューをするお祝いにとバルクはダビデを通して素敵な髪飾りと靴を贈ってくれていた。お返しも兼ねて、是非にとダビデに相談する。
ならば華として一番最初の仕事はどうだとダビデが勧めてくれたのは、バルクが後継者お披露目の夜会で着る夜会服に刺繍を刺すことだった。どこでも好きなところに刺していいと言われ、オリヴィエは飛び上がって喜んだ。悩んだ末に一番目に付くであろう両袖口に心を込めて刺繍を刺した。最後にダビデにも内緒で胸ポケットの中に小さくパンジーを刺す。きっと気付かれないとは思うが、なんだか擽ったくて一人満足した。
そうしてお披露目の夜会が終わった半月後、オリヴィエは久しぶりにバルクと会った。とは言っても商会に顔を出した帰り道に偶然ばったり行き合ったのだ。バルクの逞しい腕は隣の美しい女性の腰を抱いていた。豊かな髪とはっきりとした目鼻立ち。瞳も口も大きく妖艶で、胸や尻がしっかりと張り出し、女性的で美しい。所作も艶やかで、がっしりとした体躯のバルクと並ぶ様はとても絵になった。
「やあ、ワイズ子爵令嬢。」
お互い婚約者もおらず、未婚ともなれば自然と距離を取った呼び方になる。例え付き合いが長く、今では同じ商会に属する同僚と言えども例外はないのだ。特にバルクはカーリア男爵家へ養子に入ったばかり。足元を掬われない為にも殊更マナーには気を遣う。
出会った頃は「お嬢さん。」と呼ばれていたのに。
あの頃のバルクはダビデからの特命で他国の支店を回っており、シーヴァス王国に帰国してもすぐ飛び出していくような多忙な日々を送っていた。あの日出逢ってから今日まで。ゆっくり会うことも叶わず、ダビデを紹介してもらった御礼は手紙で伝えただけだった。思い返せば一番長く会話したと言えるのは、あの王都中央広場のベンチだった。
だから自覚することもなかったのだ、バルクに恋していることを。華の意匠を決める時、あの眩しい笑顔を無意識に思い出してパンジーを選んだ自分を。
「こんにちは、カーリア男爵令息様。」
「久しぶりだな、元気だった?」
「はい。」
何とか微笑んで返す。
「ねぇ、バルク様。こちらの方は?」
女性が胸を押し当て、上目遣いにバルクを見上げる。途端に脂下がるバルクを見て、オリヴィエは咄嗟に視線を外した。親しげに名を呼び、触れられるその距離が羨ましくて、妬ましい。こんな気持ち、知りたくはなかった。
「ああ。同僚なんだ。」
「可愛らしい方ね?だめよ?手を出しちゃあ。」
「おいおい。そんな、あるわけないだろ。」
慌てて告げるバルクの言葉が胸に突き刺さる。誤解されては堪らないと言わんばかりに、ちらちらと視線を送ってきた。胸が引き絞られるように痛み、黒々とした気持ちが吹き荒れる。そっと息を吐いて努めて明るく笑顔を作った。みっともないところは少しも見せたくない。これでも今まで貴族令嬢として生きてきた矜持がある。
「では、私はこれで。」
声の震えを押し殺して、簡略的なカーテシーをするとバルクの横をすり抜ける。後ろで呼び止める声が聞こえた気がした。でも、怖くて立ち止まるなんて出来なかった。
まだデビュタントを迎えていないオリヴィエは当然、参加は出来ない。だが恩人でもあるバルクの晴れの日だ、何かお祝いをしたいと思った。
それに、貴族学園卒業と華としてデビューをするお祝いにとバルクはダビデを通して素敵な髪飾りと靴を贈ってくれていた。お返しも兼ねて、是非にとダビデに相談する。
ならば華として一番最初の仕事はどうだとダビデが勧めてくれたのは、バルクが後継者お披露目の夜会で着る夜会服に刺繍を刺すことだった。どこでも好きなところに刺していいと言われ、オリヴィエは飛び上がって喜んだ。悩んだ末に一番目に付くであろう両袖口に心を込めて刺繍を刺した。最後にダビデにも内緒で胸ポケットの中に小さくパンジーを刺す。きっと気付かれないとは思うが、なんだか擽ったくて一人満足した。
そうしてお披露目の夜会が終わった半月後、オリヴィエは久しぶりにバルクと会った。とは言っても商会に顔を出した帰り道に偶然ばったり行き合ったのだ。バルクの逞しい腕は隣の美しい女性の腰を抱いていた。豊かな髪とはっきりとした目鼻立ち。瞳も口も大きく妖艶で、胸や尻がしっかりと張り出し、女性的で美しい。所作も艶やかで、がっしりとした体躯のバルクと並ぶ様はとても絵になった。
「やあ、ワイズ子爵令嬢。」
お互い婚約者もおらず、未婚ともなれば自然と距離を取った呼び方になる。例え付き合いが長く、今では同じ商会に属する同僚と言えども例外はないのだ。特にバルクはカーリア男爵家へ養子に入ったばかり。足元を掬われない為にも殊更マナーには気を遣う。
出会った頃は「お嬢さん。」と呼ばれていたのに。
あの頃のバルクはダビデからの特命で他国の支店を回っており、シーヴァス王国に帰国してもすぐ飛び出していくような多忙な日々を送っていた。あの日出逢ってから今日まで。ゆっくり会うことも叶わず、ダビデを紹介してもらった御礼は手紙で伝えただけだった。思い返せば一番長く会話したと言えるのは、あの王都中央広場のベンチだった。
だから自覚することもなかったのだ、バルクに恋していることを。華の意匠を決める時、あの眩しい笑顔を無意識に思い出してパンジーを選んだ自分を。
「こんにちは、カーリア男爵令息様。」
「久しぶりだな、元気だった?」
「はい。」
何とか微笑んで返す。
「ねぇ、バルク様。こちらの方は?」
女性が胸を押し当て、上目遣いにバルクを見上げる。途端に脂下がるバルクを見て、オリヴィエは咄嗟に視線を外した。親しげに名を呼び、触れられるその距離が羨ましくて、妬ましい。こんな気持ち、知りたくはなかった。
「ああ。同僚なんだ。」
「可愛らしい方ね?だめよ?手を出しちゃあ。」
「おいおい。そんな、あるわけないだろ。」
慌てて告げるバルクの言葉が胸に突き刺さる。誤解されては堪らないと言わんばかりに、ちらちらと視線を送ってきた。胸が引き絞られるように痛み、黒々とした気持ちが吹き荒れる。そっと息を吐いて努めて明るく笑顔を作った。みっともないところは少しも見せたくない。これでも今まで貴族令嬢として生きてきた矜持がある。
「では、私はこれで。」
声の震えを押し殺して、簡略的なカーテシーをするとバルクの横をすり抜ける。後ろで呼び止める声が聞こえた気がした。でも、怖くて立ち止まるなんて出来なかった。
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