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first generation Philip・Argan
盟友
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「この森に帰ってくるのは久しぶりだな。」
フィリップは相棒の白く硬い体毛を撫でながら、森を眺めた。
フィリップがまだ家族の愛情に飢え、孤独に耐え切れず屋敷を飛び出すことも多かったあの頃、ここでルブルと出逢った。
既に成体かと見紛う大きさのルブルに最初こそ驚いたものの不思議と恐怖は感じなかった。距離を取り、じっとこちらを見つめてくる様は何故かフィリップを心配しているかのように見えたのだ。
それから、森に来るといつの間にか近くに来てじっと見つめてくるルブルと次第に打ち解けていった。声をかけると唸り声で返してくる。泣き疲れて眠ってしまうと身体で暖かく包んでくれた。どんどん大きくなって見た目には恐ろしい巨狼だがルブルは一度だってフィリップを傷付けることはなかった。
大切な大切な相棒。ルブルが居なければ、フィリップはずっとひとりぼっちのままだった。
「俺たちが出逢った森だからな。領地はここにしてもらったんだ。」
拝領した領地の3分の1を占める森。特産と言えるものはなく、実り豊かな土地でもない。領民だって少ない。それでも拝領するならルブルと出逢ったこの森がある領地が良かった。幸い王国にとって取り立てて重要な土地でもなく、当主も後継もいないベリベル子爵家が爵位と共に領地を王家へ返還することは決まっていたので望めばすんなりと拝領出来た。
戦勝の夜会が終わると母は慰労金をはたいて何処かの修道院に入り、紹介状すら貰えなかった僅かばかりの使用人たちは散り散りに領地から出ていった。ここにはもう、フィリップ・ベリベルを知るものは一人もいない。
「お前はこれから、ここで子を成して暮らしていけ。もう戦場に出ることはないから。これからまた、一緒に楽しく暮らそうな。」
「グゥオァ。」
「この森は不可侵の森と名付けて、人が立ち入らないようにするつもりだ。大事な相棒にちょっかいかけられちゃ堪んないからな。」
数々の戦場を駆け抜けた白い巨狼は銀髪金瞳のフィリップも併せて、とかく人の口に上った。美しく貴公子然とした容姿のフィリップと見たこともない神々しさをもつ白い巨狼。並いる敵軍を蹴散らし、最後には敵将の首をも討ち取った彼らはとても人目を惹いた。つまり戦が終わった今、王家や貴族たちはフィリップだけでなくルブルにも目を付けたのだ。フィリップに御せるなら、我らもと。
「お前が何よりも大事だ。」
政争や派閥争い。そんなくだらないことに大事な相棒を巻き込みたくはない。だから守り番も置くことにした。公にはルブルは消えたと言うことにする。
「ウゥ。」
「大丈夫だ。会いにくる。お前は俺の唯一だから。」
「グゥ。」
「愛してる。ルー。俺の家族はお前だけだ。」
「ヴゥ。」
そっと背を撫で、送り出すとゆったりと歩きながら森へとルブルが歩み出す。これから自分は王国の盾として、貴族家の当主として。王国民を、領地と領民を、守らなければならない。その為に婚姻し、子を設け、アーガン伯爵家を繋いでいく。
「またな。」
きっと今までのように逢うことは難しいだろう。それでも自分が治めるこの領地の、この森に。ずっとルーはいる。
「お前のことは、子に孫に。口伝で伝える。ずっと一緒だ。」
濃い緑に白い体が覆われていく。二度と逢えなくなるわけでもないのに、涙が頬を伝っていった。父や兄たちが亡くなっても、母を棄てても、流れなかった涙が溢れる。
アーガン伯爵家初代当主フィリップ・アーガン。
彼は家紋を決める際、狼が遠吠えする横顔にしたいと強く望んだと言う。共に戦場を駆け抜けた白い巨狼、盟友ルブル。いつの間にか消えたとされる、その白い巨狼を偲んでのことだろうと人々は噂した。
ーやがて長い時を経て盟友ルーを知るものは、アーガン伯爵家代々の当主と、守り番の一族を束ねる代々の長のみとなったー
フィリップは相棒の白く硬い体毛を撫でながら、森を眺めた。
フィリップがまだ家族の愛情に飢え、孤独に耐え切れず屋敷を飛び出すことも多かったあの頃、ここでルブルと出逢った。
既に成体かと見紛う大きさのルブルに最初こそ驚いたものの不思議と恐怖は感じなかった。距離を取り、じっとこちらを見つめてくる様は何故かフィリップを心配しているかのように見えたのだ。
それから、森に来るといつの間にか近くに来てじっと見つめてくるルブルと次第に打ち解けていった。声をかけると唸り声で返してくる。泣き疲れて眠ってしまうと身体で暖かく包んでくれた。どんどん大きくなって見た目には恐ろしい巨狼だがルブルは一度だってフィリップを傷付けることはなかった。
大切な大切な相棒。ルブルが居なければ、フィリップはずっとひとりぼっちのままだった。
「俺たちが出逢った森だからな。領地はここにしてもらったんだ。」
拝領した領地の3分の1を占める森。特産と言えるものはなく、実り豊かな土地でもない。領民だって少ない。それでも拝領するならルブルと出逢ったこの森がある領地が良かった。幸い王国にとって取り立てて重要な土地でもなく、当主も後継もいないベリベル子爵家が爵位と共に領地を王家へ返還することは決まっていたので望めばすんなりと拝領出来た。
戦勝の夜会が終わると母は慰労金をはたいて何処かの修道院に入り、紹介状すら貰えなかった僅かばかりの使用人たちは散り散りに領地から出ていった。ここにはもう、フィリップ・ベリベルを知るものは一人もいない。
「お前はこれから、ここで子を成して暮らしていけ。もう戦場に出ることはないから。これからまた、一緒に楽しく暮らそうな。」
「グゥオァ。」
「この森は不可侵の森と名付けて、人が立ち入らないようにするつもりだ。大事な相棒にちょっかいかけられちゃ堪んないからな。」
数々の戦場を駆け抜けた白い巨狼は銀髪金瞳のフィリップも併せて、とかく人の口に上った。美しく貴公子然とした容姿のフィリップと見たこともない神々しさをもつ白い巨狼。並いる敵軍を蹴散らし、最後には敵将の首をも討ち取った彼らはとても人目を惹いた。つまり戦が終わった今、王家や貴族たちはフィリップだけでなくルブルにも目を付けたのだ。フィリップに御せるなら、我らもと。
「お前が何よりも大事だ。」
政争や派閥争い。そんなくだらないことに大事な相棒を巻き込みたくはない。だから守り番も置くことにした。公にはルブルは消えたと言うことにする。
「ウゥ。」
「大丈夫だ。会いにくる。お前は俺の唯一だから。」
「グゥ。」
「愛してる。ルー。俺の家族はお前だけだ。」
「ヴゥ。」
そっと背を撫で、送り出すとゆったりと歩きながら森へとルブルが歩み出す。これから自分は王国の盾として、貴族家の当主として。王国民を、領地と領民を、守らなければならない。その為に婚姻し、子を設け、アーガン伯爵家を繋いでいく。
「またな。」
きっと今までのように逢うことは難しいだろう。それでも自分が治めるこの領地の、この森に。ずっとルーはいる。
「お前のことは、子に孫に。口伝で伝える。ずっと一緒だ。」
濃い緑に白い体が覆われていく。二度と逢えなくなるわけでもないのに、涙が頬を伝っていった。父や兄たちが亡くなっても、母を棄てても、流れなかった涙が溢れる。
アーガン伯爵家初代当主フィリップ・アーガン。
彼は家紋を決める際、狼が遠吠えする横顔にしたいと強く望んだと言う。共に戦場を駆け抜けた白い巨狼、盟友ルブル。いつの間にか消えたとされる、その白い巨狼を偲んでのことだろうと人々は噂した。
ーやがて長い時を経て盟友ルーを知るものは、アーガン伯爵家代々の当主と、守り番の一族を束ねる代々の長のみとなったー
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