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first generation Philip・Argan
戦場
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フィリップは瞳を眇め、身を潜めた草陰から戦場へと視線を走らせた。どこまでも続く荒れた大地。地面は抉れ、土煙が舞い上がり、至る所から剣戟と怒号が響いてくる。次々と目の前を軍馬が走り抜けて行き、騎乗した騎士たちが気勢を上げながら敵陣へと突き進んで行った。その様はまさに圧巻の一言だった。
「はっ。まさか生き残るのが俺だとはな。」
ベリベル子爵家三男のフィリップはずっといないものとして扱われてきた。爵位を継ぐ長男でもなく、スペアになれる次男でもない余りものの三男。戦場へ向かうのに馬さえ用意して貰えず、平民出身の兵士たちと共に軍馬の後ろを走って追うよう言われたフィリップは、家族と家門を棄てることにした。これからは自分が生き残ることだけを考える。
なぜ、自分を軽んじる奴らのために命を懸けて戦わなければならないのか。
薄汚れてもなお、光る銀髪。陽を受けて煌めく金瞳。三男と言うことを抜きにしても、この色のせいで誰からも家族とは認めて貰えなかった。いくら辿っても銀髪も金瞳もベリベル子爵家にはいなかったのだ。母方にもいなかった。父には疎まれ、母には憎まれ、兄達には無視され続けた。使用人たちにまで軽く扱われる日々。次第に愛されることも期待することも諦めた。
横に手を伸ばし白く硬い体毛に手のひらを埋めると、ゆっくりと撫でる。喉奥から物騒な唸り声を漏らしながら、ルブルが鼻面を寄せてきた。
真っ白い体毛とガーネットのような瞳。フィリップの相棒。巨狼とも言える大きな狼をルブルと名付けたのはフィリップだ。
ここまで生き残れたのは、ずっと傍にルブルが居てくれたからだった。剣や弓の腕があっても騎乗もしていなければ、どんな戦場でもすぐに嬲り殺しとなる。
「あんがとな、ルー。ここまで来れたのはお前のおかげだ。」
「グゥ。」
「まだまだ。武功あげてくからな。頼むぞ。」
「ウォゥ。」
連日の戦いの中で、長兄や次兄に続き父も戦死したのは知っていた。このまま運良く生き残ってベリベル子爵家に戻っても歓迎されないのは分かりきっている。だったら、ただの平民フィリップとして戦場で武功を挙げ続け、一人で生きていく術を掴むほうが余程いい。
「……行くぞ。」
「グルゥ。」
着けていた革鎧を外し地面に落とすと、剣帯ごと剣を外す。そのまま左腿側面に縛り付けるとルブルの背に回り乗り上げた。太い頸を撫で、しがみつく。
座り込んでいたルブルがゆらりと立ち上がり、ぐっと四肢に力を溜めて草陰から走り出た。戦場に突如現れた白い巨狼。驚いた軍馬たちが嘶き立ち上がる。騎乗していた騎士たちが振り落とされ、兵士たちが下敷きになった。混乱した戦場でルブルが一際大きく唸り、遠吠えを上げた。
地響くような吠え声に、軍馬たちが右往左往する。踏みつけられる騎士や兵士たち。敵味方なく混乱する中を、ルブルが疾駆する。
銀髪に薄汚れた白の綿シャツではルブルの白い体毛に埋もれたフィリップに誰も気が付かない。そもそも巨狼の背に人が乗っているなど誰も思わない。そのまま敵将がいる天幕へと向かいひた走る。逃げ惑う軍馬や騎士、兵士たちを蹴散らしルブルが駆け抜ける。
「行け!ルー!」
「グヴゥア!」
反り返った丘を登り、空中へと躍り出る。そのまま背から飛び降りた。
着地と共に剣を抜き取ると、敵将の天幕に向かって走り出す。いち早く天幕に体当たりしたルブルのお陰で中から人影が躍り出てきた。
「その首、貰い受ける!」
驚愕に目を見開く壮年の男に向かって剣を振り抜いた。剣先が吸い込まれるように左肩口に走り赤黒い血飛沫が弧を描く。そのまま返し切り上げた。
どうっと音を立て、男が後ろに倒れる。周囲で悲鳴と怒号が上がった。そのまま剣を振り、血を払うと高々と天を衝く。
「シーヴァス王国軍、フィリップが敵将の首討ち取ったぞ!速やかに降伏しろ!」
傍に白い巨狼を従え、声高に勝鬨を上げる。風が吹き、ルブルが呼応するかの如く遠吠えを上げた。
「はっ。まさか生き残るのが俺だとはな。」
ベリベル子爵家三男のフィリップはずっといないものとして扱われてきた。爵位を継ぐ長男でもなく、スペアになれる次男でもない余りものの三男。戦場へ向かうのに馬さえ用意して貰えず、平民出身の兵士たちと共に軍馬の後ろを走って追うよう言われたフィリップは、家族と家門を棄てることにした。これからは自分が生き残ることだけを考える。
なぜ、自分を軽んじる奴らのために命を懸けて戦わなければならないのか。
薄汚れてもなお、光る銀髪。陽を受けて煌めく金瞳。三男と言うことを抜きにしても、この色のせいで誰からも家族とは認めて貰えなかった。いくら辿っても銀髪も金瞳もベリベル子爵家にはいなかったのだ。母方にもいなかった。父には疎まれ、母には憎まれ、兄達には無視され続けた。使用人たちにまで軽く扱われる日々。次第に愛されることも期待することも諦めた。
横に手を伸ばし白く硬い体毛に手のひらを埋めると、ゆっくりと撫でる。喉奥から物騒な唸り声を漏らしながら、ルブルが鼻面を寄せてきた。
真っ白い体毛とガーネットのような瞳。フィリップの相棒。巨狼とも言える大きな狼をルブルと名付けたのはフィリップだ。
ここまで生き残れたのは、ずっと傍にルブルが居てくれたからだった。剣や弓の腕があっても騎乗もしていなければ、どんな戦場でもすぐに嬲り殺しとなる。
「あんがとな、ルー。ここまで来れたのはお前のおかげだ。」
「グゥ。」
「まだまだ。武功あげてくからな。頼むぞ。」
「ウォゥ。」
連日の戦いの中で、長兄や次兄に続き父も戦死したのは知っていた。このまま運良く生き残ってベリベル子爵家に戻っても歓迎されないのは分かりきっている。だったら、ただの平民フィリップとして戦場で武功を挙げ続け、一人で生きていく術を掴むほうが余程いい。
「……行くぞ。」
「グルゥ。」
着けていた革鎧を外し地面に落とすと、剣帯ごと剣を外す。そのまま左腿側面に縛り付けるとルブルの背に回り乗り上げた。太い頸を撫で、しがみつく。
座り込んでいたルブルがゆらりと立ち上がり、ぐっと四肢に力を溜めて草陰から走り出た。戦場に突如現れた白い巨狼。驚いた軍馬たちが嘶き立ち上がる。騎乗していた騎士たちが振り落とされ、兵士たちが下敷きになった。混乱した戦場でルブルが一際大きく唸り、遠吠えを上げた。
地響くような吠え声に、軍馬たちが右往左往する。踏みつけられる騎士や兵士たち。敵味方なく混乱する中を、ルブルが疾駆する。
銀髪に薄汚れた白の綿シャツではルブルの白い体毛に埋もれたフィリップに誰も気が付かない。そもそも巨狼の背に人が乗っているなど誰も思わない。そのまま敵将がいる天幕へと向かいひた走る。逃げ惑う軍馬や騎士、兵士たちを蹴散らしルブルが駆け抜ける。
「行け!ルー!」
「グヴゥア!」
反り返った丘を登り、空中へと躍り出る。そのまま背から飛び降りた。
着地と共に剣を抜き取ると、敵将の天幕に向かって走り出す。いち早く天幕に体当たりしたルブルのお陰で中から人影が躍り出てきた。
「その首、貰い受ける!」
驚愕に目を見開く壮年の男に向かって剣を振り抜いた。剣先が吸い込まれるように左肩口に走り赤黒い血飛沫が弧を描く。そのまま返し切り上げた。
どうっと音を立て、男が後ろに倒れる。周囲で悲鳴と怒号が上がった。そのまま剣を振り、血を払うと高々と天を衝く。
「シーヴァス王国軍、フィリップが敵将の首討ち取ったぞ!速やかに降伏しろ!」
傍に白い巨狼を従え、声高に勝鬨を上げる。風が吹き、ルブルが呼応するかの如く遠吠えを上げた。
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