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Act.13-1 ご機嫌斜めなオトコ
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「ダメだってば!」
「どうして! 僕はちゃんとお行儀良くできるよ!」
大きな門の前で、2人が言い争う。
なんだか前にもこんなことがあった。あのときは、1人と1匹だったけれど。
「もう、なんでついてきちゃうのよ!」
「ルーチェが僕を置いてくからだよ!」
冷たい風がルーチェとジュストの鼻を真っ赤にしている。白い息をお互いに掛け合うみたいに言い合い、どちらも譲らない。
ネコのときのジュストも同じことを言っていたのかは謎だが、ルーチェは前回と同じ台詞で応戦中だ。
違うのは、2人が図書館ではなくクラドール養成学校の正門の前でにらみ合っていること。
今日は、ルーチェが養成学校でお世話になった先生が結婚したということで、学校の広間でパーティがあるのだ。ルーチェはもちろん、ルーチェの同級生や卒業生、現役の生徒たちもお呼ばれしている。
寒い中、人目も憚らずに喧嘩する2人を皆、好奇の目で見つめながら門をくぐっていく。
「ルーチェ、こんなところで目立ってるぞ。それに、えっと……ジュスト、も」
そんな中、2人に声を掛けてきたのはテオだった。
「テオ。久しぶりだね」
ルーチェはハッとしてテオに向き直り、手を振った。テオも困り笑いで軽く手を上げる。
「アリーチェは来ないのか?」
「今日は授業があったから、もう中にいると思うよ」
テオとルーチェのやりとりを、頬を膨らませて見ていたジュストは徐《おもむろ》にルーチェの手を掴んで引っ張った。
「ルーチェ、行こう」
「あっ、ちょっと! だからダメだってば」
どさくさに紛れて門をくぐろうとするジュストを止めようと、ルーチェは腰を落として体重をかける。けれど、ジュストは全く動じることなく校舎へ入っていってしまった。
テオは苦笑いしながらその後を追いかけてくる。
結局、ジュストはルーチェの同伴として参加をすることになった。
受付で「僕はルーチェの婿です」なんて言うから、また誤解を解くのに時間がかかってしまった。
ざわつく会場は綺麗にデコレーションされていて、ここが学校のホールだとは思えないくらい素敵だ。テーブルには軽食やドリンクも並んでいて、ジュストは興味津々といった様子でキョロキョロしている。
まだパーティが始まってもいないのに、受付で疲れてしまったルーチェは会場の隅に置いてあった椅子に腰を下ろした。
「ねぇ、ルーチェ。あれ、グラタンじゃない?」
「ジュスト、まだだから……ちょっと座ってて」
ルーチェがジュストの袖を引っ張ると、ジュストは「わかった」と言ってルーチェの隣に座り直す。
どうやら本当にお行儀良くできるらしい。
ルーチェは安心のため息をついた。チラリと横を見ると、ジュストはやはり瞳を輝かせて会場を観察している。
そういえば、ジュストを大勢の人が集まるところに連れてくるのは初めてだ。
そんな少し幼い反応とは対照的な、グラートがいつのまにか買い与えていた余所行きのスーツを着こなす細身の身体は男らしい。きっちりと整えられた柔らかな茶髪も照明に照らされてキラキラと綺麗だ。
ルーチェの視線に気づいたジュストと目が合うと、優しく微笑んだ顔がなんだか大人びて見えてドキッとした。
「ルーチェ、髪飾りが曲がってるよ」
ジュストはクスッと……やっぱりなんだか艶っぽく笑って、ルーチェの髪に触れた。
心臓が壊れてしまいそうだ。
どうかしている。いつもと違う服を着ているせいだ。
「できた。ルーチェ、青いドレス可愛いね。いっぱい綺麗だね。お嫁さんみたい」
その言葉に、カーッと身体が火照ってルーチェは思わずそっぽを向いた。
ルーチェのドレスはアズーロブルーのベアトップ。胸下の切り替えのところにリボンがついていて膝丈スカートはバルーン型のドレスだ。マーレ王国の海みたいな深い青色も気に入っている。
「ふふっ、ルーチェ、可愛い」
ジュストはなんだかとても機嫌が良いらしく、ルーチェの頭を撫でた。
その手が離れていくと、なんとなく物足りないような気持ちになってルーチェは振り向く。目が合うと、ジュストは首を傾げてルーチェを見た。
「どうしたの?」
「な、なんでもないっ!」
ルーチェは慌ててまた目を逸らし、ドレスの上からドキドキする心臓を押さえた。
今……何を思った?
もっと、触って欲しいと――
「あ、お姉ちゃん。いたー!」
そこへアリーチェが駆け寄ってきて、ルーチェはビクッとして立ち上がった。
変な反応をする姉に、怪訝そうな視線を向けたアリーチェ。だが、ジュストを見て「あらら」と声を上げた。
今朝、家でもジュストと一悶着あったのだ。それを知っているアリーチェは、結局ルーチェが負けたのだということを理解して笑う。
「あ、アリーチェのドレスは黄色だね。可愛いけど、ルーチェの方が綺麗だね」
「ジュスト……正直過ぎるのもどうかと思うわよ」
ニコッと笑ってアリーチェのドレスを褒めたつもりらしいジュストに、アリーチェは呆れた視線を向けている。
「まぁ、ジュストのお姉ちゃんラブは今に始まったことじゃないし、いいけど。デボラ先生、もうすぐ旦那さんと一緒に来るからパーティ始まるよ」
アリーチェがそう言ってすぐ、会場の入り口の方から拍手が広がって、デボラとその旦那さんらしい男性が腕を組んで入ってきた。
「うわ! 噂には聞いてたけど、めちゃくちゃカッコイイ!! チェックしてこなきゃ! じゃあね、お姉ちゃん」
ミーハーなアリーチェは、興奮して鼻息も荒くデボラと旦那さんへと突撃していった。
主役2人の簡単な挨拶と、校長や他の先生方が何人か祝辞を述べて始まったパーティ。ステージでの余興を見ながらの立食形式で、主役の2人は生徒たちに囲まれて楽しそうだ。
「ルーチェ、あーんする?」
「しないよ」
ジュストは相変わらずルーチェのそばを離れることなく、ルーチェにちょっかいを出してくる。
ルーチェは自分のお皿に持ったリゾットをパクリと食べた。ジュストもそれを真似てスプーンを口に運ぶ。
「これ、おいしいね。ルーチェも好き? どうやって作るんだろう?」
ジュストはゆっくりと味わいながら「うーん」と唸って考え込んでいる。
彼は、どうやら婿修業として始めた料理に本格的にハマッたらしい。最近ではかなりレパートリーも増えて凝った料理も作るようになった。
そんなジュストを横目で見ながら、ルーチェは会場を見渡した。卒業生もいるため、かなり人数が多い。見知った顔もチラホラと……
だが、周囲の者は隅っこでのんびり食事をしている2人には気づくこともなく、ルーチェは内心ホッとしていた。
ジュストのことをどう説明したらいいか難しいところだと思うし、何よりジュスト本人がルーチェの婿という地位を譲ろうとしないので、大変なのだ。
「ルーチェ、ジュスト。いつまでこんな隅っこにいるつもりなんだ?」
唯一、テオだけは2人のことを気に留めていたらしく、3人分のドリンクを持って近寄ってきた。
「これ、シャンパンだけど……ジュストも飲めるんだよな?」
「まぁ……一応、年齢的には」
そう答えたのはルーチェで、ジュストは急にムスッとしてルーチェの前に立った。
「ルーチェは飲んじゃダメ! 惚れ薬が入ってたら本当に浮気になるんだからね」
「もう、ジュスト? 何言ってるの……」
確かにテオには惚れ薬を作ってあげたけれど、それはルーチェに使うためではないのだ。
テオは少し驚いた顔をして、クスッと笑った。
「ジュストは……すごいな。そんなに堂々として、羨ましいよ」
「テオ?」
ルーチェがジュストの背中から顔を出すと、テオは少し寂しそうに笑っていた。
「惚れ薬は入ってないけど……まぁ、俺からは受け取りたくないってことだよね?」
「うん」
テオの言葉に迷いなく頷くジュストに、テオは苦笑してトレーを近くのテーブルへと置いた。
「ジュストはいつからルーチェと恋人なんだ?」
「テオっ! だからそれは違うって――」
「ずっとだよ。僕はルーチェと海で会ってからずっとルーチェのことが好きだから、ずっとなの」
ルーチェの言葉を遮って、ジュストが答える。テオは「そっか」と、やっぱり寂しそうに笑った。
一体、2人は何のやりとりをしたのだろうか。
なんだかしんみりとした空気になってしまう。ルーチェがそわそわしていると、助け舟の如くデボラが近づいてきてルーチェは胸を撫で下ろした。
「ルーチェ、来てくれてありがとう」
「先生! おめでとう!」
ルーチェは差し出された手を握って、再会を喜ぶ。研修を始めてからは学校に来なくなってデボラにも会わなくなってしまったから懐かしい。
「旦那さん、かっこいいですね」
テオがそう言うと、デボラは「そうでしょう?」と旦那さんに抱きついた。旦那さんは照れたように笑って頭を掻く。
「こちらはルーチェのボーイフレンドかしら?」
「こんにちは。僕、ジュストです。ボーイフレンドじゃなくて、婿です」
ジュストは丁寧に間違った自己紹介をした。
「ジュストっ! え、えっと……あの、親戚の子……みたいな、感じで……」
ルーチェは曖昧に笑った。
「親戚じゃないよ。僕、ルミエール王国から来たの。だから、ルーチェとは他人なの。でも、今は恋人で、将来は婿なの」
「まぁ、そうなの?」
ルーチェは頭を抱えた。テオは他人事だと思ってクスクス笑っているだけ。
少しくらい助けてくれてもいいではないか。
「恥ずかしがらなくてもいいじゃない。ルーチェ、ジュストくんとお似合いよ。ねぇ?」
「ああ」
デボラの旦那さんまでがにこやかに同意する。
「テオが浮気しようとするから大変なんだ。あ、でも僕はルーチェに印をつけてるの。だから、浮気はダメなの」
「もうっ、ジュスト、お行儀良くするって言ったじゃない!」
ルーチェがジュストの腕を掴んで抗議すると、ジュストはルーチェの背中から手を回し、そのままスッポリと自分の腕の中に収めた。
左手でお腹を抱え、右手でルーチェの髪をそっとよける。
「ダ、ダメ! ジュスト!」
髪はジュストが毎日つけるキスマークを隠すために下ろしていたのに、そんな風に耳にかけたら……
「どうして! 僕はちゃんとお行儀良くできるよ!」
大きな門の前で、2人が言い争う。
なんだか前にもこんなことがあった。あのときは、1人と1匹だったけれど。
「もう、なんでついてきちゃうのよ!」
「ルーチェが僕を置いてくからだよ!」
冷たい風がルーチェとジュストの鼻を真っ赤にしている。白い息をお互いに掛け合うみたいに言い合い、どちらも譲らない。
ネコのときのジュストも同じことを言っていたのかは謎だが、ルーチェは前回と同じ台詞で応戦中だ。
違うのは、2人が図書館ではなくクラドール養成学校の正門の前でにらみ合っていること。
今日は、ルーチェが養成学校でお世話になった先生が結婚したということで、学校の広間でパーティがあるのだ。ルーチェはもちろん、ルーチェの同級生や卒業生、現役の生徒たちもお呼ばれしている。
寒い中、人目も憚らずに喧嘩する2人を皆、好奇の目で見つめながら門をくぐっていく。
「ルーチェ、こんなところで目立ってるぞ。それに、えっと……ジュスト、も」
そんな中、2人に声を掛けてきたのはテオだった。
「テオ。久しぶりだね」
ルーチェはハッとしてテオに向き直り、手を振った。テオも困り笑いで軽く手を上げる。
「アリーチェは来ないのか?」
「今日は授業があったから、もう中にいると思うよ」
テオとルーチェのやりとりを、頬を膨らませて見ていたジュストは徐《おもむろ》にルーチェの手を掴んで引っ張った。
「ルーチェ、行こう」
「あっ、ちょっと! だからダメだってば」
どさくさに紛れて門をくぐろうとするジュストを止めようと、ルーチェは腰を落として体重をかける。けれど、ジュストは全く動じることなく校舎へ入っていってしまった。
テオは苦笑いしながらその後を追いかけてくる。
結局、ジュストはルーチェの同伴として参加をすることになった。
受付で「僕はルーチェの婿です」なんて言うから、また誤解を解くのに時間がかかってしまった。
ざわつく会場は綺麗にデコレーションされていて、ここが学校のホールだとは思えないくらい素敵だ。テーブルには軽食やドリンクも並んでいて、ジュストは興味津々といった様子でキョロキョロしている。
まだパーティが始まってもいないのに、受付で疲れてしまったルーチェは会場の隅に置いてあった椅子に腰を下ろした。
「ねぇ、ルーチェ。あれ、グラタンじゃない?」
「ジュスト、まだだから……ちょっと座ってて」
ルーチェがジュストの袖を引っ張ると、ジュストは「わかった」と言ってルーチェの隣に座り直す。
どうやら本当にお行儀良くできるらしい。
ルーチェは安心のため息をついた。チラリと横を見ると、ジュストはやはり瞳を輝かせて会場を観察している。
そういえば、ジュストを大勢の人が集まるところに連れてくるのは初めてだ。
そんな少し幼い反応とは対照的な、グラートがいつのまにか買い与えていた余所行きのスーツを着こなす細身の身体は男らしい。きっちりと整えられた柔らかな茶髪も照明に照らされてキラキラと綺麗だ。
ルーチェの視線に気づいたジュストと目が合うと、優しく微笑んだ顔がなんだか大人びて見えてドキッとした。
「ルーチェ、髪飾りが曲がってるよ」
ジュストはクスッと……やっぱりなんだか艶っぽく笑って、ルーチェの髪に触れた。
心臓が壊れてしまいそうだ。
どうかしている。いつもと違う服を着ているせいだ。
「できた。ルーチェ、青いドレス可愛いね。いっぱい綺麗だね。お嫁さんみたい」
その言葉に、カーッと身体が火照ってルーチェは思わずそっぽを向いた。
ルーチェのドレスはアズーロブルーのベアトップ。胸下の切り替えのところにリボンがついていて膝丈スカートはバルーン型のドレスだ。マーレ王国の海みたいな深い青色も気に入っている。
「ふふっ、ルーチェ、可愛い」
ジュストはなんだかとても機嫌が良いらしく、ルーチェの頭を撫でた。
その手が離れていくと、なんとなく物足りないような気持ちになってルーチェは振り向く。目が合うと、ジュストは首を傾げてルーチェを見た。
「どうしたの?」
「な、なんでもないっ!」
ルーチェは慌ててまた目を逸らし、ドレスの上からドキドキする心臓を押さえた。
今……何を思った?
もっと、触って欲しいと――
「あ、お姉ちゃん。いたー!」
そこへアリーチェが駆け寄ってきて、ルーチェはビクッとして立ち上がった。
変な反応をする姉に、怪訝そうな視線を向けたアリーチェ。だが、ジュストを見て「あらら」と声を上げた。
今朝、家でもジュストと一悶着あったのだ。それを知っているアリーチェは、結局ルーチェが負けたのだということを理解して笑う。
「あ、アリーチェのドレスは黄色だね。可愛いけど、ルーチェの方が綺麗だね」
「ジュスト……正直過ぎるのもどうかと思うわよ」
ニコッと笑ってアリーチェのドレスを褒めたつもりらしいジュストに、アリーチェは呆れた視線を向けている。
「まぁ、ジュストのお姉ちゃんラブは今に始まったことじゃないし、いいけど。デボラ先生、もうすぐ旦那さんと一緒に来るからパーティ始まるよ」
アリーチェがそう言ってすぐ、会場の入り口の方から拍手が広がって、デボラとその旦那さんらしい男性が腕を組んで入ってきた。
「うわ! 噂には聞いてたけど、めちゃくちゃカッコイイ!! チェックしてこなきゃ! じゃあね、お姉ちゃん」
ミーハーなアリーチェは、興奮して鼻息も荒くデボラと旦那さんへと突撃していった。
主役2人の簡単な挨拶と、校長や他の先生方が何人か祝辞を述べて始まったパーティ。ステージでの余興を見ながらの立食形式で、主役の2人は生徒たちに囲まれて楽しそうだ。
「ルーチェ、あーんする?」
「しないよ」
ジュストは相変わらずルーチェのそばを離れることなく、ルーチェにちょっかいを出してくる。
ルーチェは自分のお皿に持ったリゾットをパクリと食べた。ジュストもそれを真似てスプーンを口に運ぶ。
「これ、おいしいね。ルーチェも好き? どうやって作るんだろう?」
ジュストはゆっくりと味わいながら「うーん」と唸って考え込んでいる。
彼は、どうやら婿修業として始めた料理に本格的にハマッたらしい。最近ではかなりレパートリーも増えて凝った料理も作るようになった。
そんなジュストを横目で見ながら、ルーチェは会場を見渡した。卒業生もいるため、かなり人数が多い。見知った顔もチラホラと……
だが、周囲の者は隅っこでのんびり食事をしている2人には気づくこともなく、ルーチェは内心ホッとしていた。
ジュストのことをどう説明したらいいか難しいところだと思うし、何よりジュスト本人がルーチェの婿という地位を譲ろうとしないので、大変なのだ。
「ルーチェ、ジュスト。いつまでこんな隅っこにいるつもりなんだ?」
唯一、テオだけは2人のことを気に留めていたらしく、3人分のドリンクを持って近寄ってきた。
「これ、シャンパンだけど……ジュストも飲めるんだよな?」
「まぁ……一応、年齢的には」
そう答えたのはルーチェで、ジュストは急にムスッとしてルーチェの前に立った。
「ルーチェは飲んじゃダメ! 惚れ薬が入ってたら本当に浮気になるんだからね」
「もう、ジュスト? 何言ってるの……」
確かにテオには惚れ薬を作ってあげたけれど、それはルーチェに使うためではないのだ。
テオは少し驚いた顔をして、クスッと笑った。
「ジュストは……すごいな。そんなに堂々として、羨ましいよ」
「テオ?」
ルーチェがジュストの背中から顔を出すと、テオは少し寂しそうに笑っていた。
「惚れ薬は入ってないけど……まぁ、俺からは受け取りたくないってことだよね?」
「うん」
テオの言葉に迷いなく頷くジュストに、テオは苦笑してトレーを近くのテーブルへと置いた。
「ジュストはいつからルーチェと恋人なんだ?」
「テオっ! だからそれは違うって――」
「ずっとだよ。僕はルーチェと海で会ってからずっとルーチェのことが好きだから、ずっとなの」
ルーチェの言葉を遮って、ジュストが答える。テオは「そっか」と、やっぱり寂しそうに笑った。
一体、2人は何のやりとりをしたのだろうか。
なんだかしんみりとした空気になってしまう。ルーチェがそわそわしていると、助け舟の如くデボラが近づいてきてルーチェは胸を撫で下ろした。
「ルーチェ、来てくれてありがとう」
「先生! おめでとう!」
ルーチェは差し出された手を握って、再会を喜ぶ。研修を始めてからは学校に来なくなってデボラにも会わなくなってしまったから懐かしい。
「旦那さん、かっこいいですね」
テオがそう言うと、デボラは「そうでしょう?」と旦那さんに抱きついた。旦那さんは照れたように笑って頭を掻く。
「こちらはルーチェのボーイフレンドかしら?」
「こんにちは。僕、ジュストです。ボーイフレンドじゃなくて、婿です」
ジュストは丁寧に間違った自己紹介をした。
「ジュストっ! え、えっと……あの、親戚の子……みたいな、感じで……」
ルーチェは曖昧に笑った。
「親戚じゃないよ。僕、ルミエール王国から来たの。だから、ルーチェとは他人なの。でも、今は恋人で、将来は婿なの」
「まぁ、そうなの?」
ルーチェは頭を抱えた。テオは他人事だと思ってクスクス笑っているだけ。
少しくらい助けてくれてもいいではないか。
「恥ずかしがらなくてもいいじゃない。ルーチェ、ジュストくんとお似合いよ。ねぇ?」
「ああ」
デボラの旦那さんまでがにこやかに同意する。
「テオが浮気しようとするから大変なんだ。あ、でも僕はルーチェに印をつけてるの。だから、浮気はダメなの」
「もうっ、ジュスト、お行儀良くするって言ったじゃない!」
ルーチェがジュストの腕を掴んで抗議すると、ジュストはルーチェの背中から手を回し、そのままスッポリと自分の腕の中に収めた。
左手でお腹を抱え、右手でルーチェの髪をそっとよける。
「ダ、ダメ! ジュスト!」
髪はジュストが毎日つけるキスマークを隠すために下ろしていたのに、そんな風に耳にかけたら……
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